Report05_突然の訪問者
午前8時半、鼻歌を歌いながらロイドが彼の食事を用意していると、家の扉が叩かれた。彼は昨晩遅くまで作業をしていたためまだ眠っている。
「こんな時間に誰かしら?」
不思議に思いながらもロイドが扉を開けると、目の前には黒服に身を包んだ赤い髪の男が立っていた。
「やぁ、こんにちはお嬢さん。お父さんはいるかな?」
不審者。彼女が抱いた第一印象はそれだった。明らかに村のものではない出立ちの男が早朝から訪ねてきたのだ。無理もない。
「えっと、その......」
「あぁごめんごめん。怖がらせてしまったね、私は怪しいものではないよ」
とても怪しい男がそんなことを言うので、普段から笑顔を絶やさないロイドも思わず苦笑いになってしまう。あまり歯切れ良いとは言えない会話を少ししたところで、彼が後ろから起きてくるなり声をかけた。
「朝っぱらから誰だ......。村の連中じゃないな?」
「マスター!とっても怪しいですけど、お客様に失礼ですよ!」
「あっはっは、君もかなり失礼なんだけどね!お嬢さん!」
ハッと自分の口を両手で覆うとロイドは振り返って頭を下げ謝罪をする。赤髪の男も気にしてないよと軽く口にしていると、彼が割って入った。
「そんなことはどうでもいい。誰だって聞いてるんだ?」
「申し遅れたね。私はレクス・ボートマン。レクスで構わないよ」
レクスという名の知り合いは彼にはいなかった。しかし、名前を聞いたロイドが声を上げた。
「あっ、もしかして政治家の方じゃないですか?」
「おや、お嬢さんは博識だね。今は、アイスランドの方で子供たちに支援をしてるよ」
自分で自分の善行を口にするあたりとてつもなく胡散臭いが、ラジオなどでも度々名前の上がっている男であり、ロイドもそれを耳にしたことがあった。
「それで?そのレクスさんがなんの御用でこんな田舎に?」
頭の寝癖を直しながら彼が口を開く。
「先日あなたに依頼していたものが出来たと連絡があったから取りに来たのさ」
依頼。直近で彼が作ったものといえば例の電動シリンダーだ。
「あんたが依頼人だったのか。まさか本人が取りに来るとは思わなかったよ。ちょっと待っていてくれ」
そう言うと彼は地下の研究室に行き、小一時間もせずに戻ってきた。彼の片手には小さなガラス瓶のようなものが握られている。
「これで合っている......はずだ。こんなもの僕以外は作ったことないだろうし、何に使うものかもわからないから試験はしていないが......」
透明な強化ガラスの中では奇しくも美しい、青い光が不規則に線を作り揺らいでいる。彼が完成させたものである。
「電圧は指定された通り、調節可能になってる。そこのつまみを回せばいい」
「あぁ、完璧だよ。流石は"マスターメイカー"と呼ばれるだけのことはある......」
「お前......!どこでそれを......?」
「おや、この名前は伏せた方が良かったかな?申し訳ない」
初めて聞いた彼の二つ名にロイドが首を傾げているのを見て、彼はレクスの帰りを促した。
「さあ、用事が済んだのならさっさと帰ってくれ。こっちはこれから朝食なんだ」
「いいのかい?」
背中を押されながらレクスが意味ありげに言葉を紡ぐ。
「何が?」
「何に使うのか聞かなくても」
確かに、依頼人が自ら足を運んでくるという状況は珍しい。それに軍事利用されると思っていたそれは、人々を支援する制作を行なっている政治家のものだったのだ。裏では戦争事業に力を入れているのだろうか。さらには、これを今後作ることもないだろう。
しかしそこまで考えたところで、彼は言う。
「別に興味ない......」
まるで感情のない人形のように一言だけ口から発すると彼は俯いた。
彼の言葉を聞くとレクスはニヤリと笑い、歩き始めた。
「また何かあったら頼みにくるよ」
「二度と聞くか」
顔は前を向いたまま、手だけを振り挨拶をするとレクスは去っていった。
「まったく......こんな朝っぱらからなんなんだ、塩でも撒いてやろうか」
ぶつぶつ言いながら席に着く彼を見て、キョトンとした顔のロイドが口を開いた。
「マスターメイカーって何ですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます