Report04_足音と心音

任された仕事の内容というのは特殊な電動シリンダーの開発だった。仕事を依頼しにきた黒服の連中は大まかな内容しか話さなかったために、内容のことなど完全に忘れていた。

依頼についても説明を受けた時点で完全にやる気が無かったために口頭で断ったが、黒服達は無理矢理にも書類と報酬を押し付けて帰っていったのだ。

今思えば妙な連中だったが、あの頃は徹夜続きで頭が回っていなかった。

(このシリンダー、何に使うものなんだ?家電にしては出力値が大きぎる......)

疑問に思いながらも手は止めない。彼の手は既にシリンダーの開発を始めていた。

彼の専門はロボット工学、しかし彼は天才だ。今までにも幾度となく専門外の仕事をこなしてきた。家電の修理から国が保有するスーパーコンピュータの設計まで、ありとあらゆる依頼を引き受けた。

断った仕事はいくつもあるが失敗した依頼はひとつもない。さらに言えば、断った依頼の全ては「めんどくさかったから」が理由である。

彼の住む家にはネット回線こそ設置されているが、他に連絡の取れる手段は一切設置されていない。というのも彼が置いていないのだ。そのため彼のもとに持ち込まれる依頼は大抵が電子メールである。そしてそれらは訳ありのものが多い。自分の素性を明らかにしないもの。なんのために使われる機械なのかわからないもの。明らかに違法なものなど様々あるが、今回の依頼はあまりに異様だった。

依頼者本人ではないが依頼内容を直接の手渡し。報酬も全額前払いでかなりの高額。取り扱いには注意が必要な規定数値を超えた電圧のシリンダー、明らかに違法。

大方、どこかの国が軍事運用するために依頼してきたのだろうが、それが何に使われようが彼には関係ない。

一度俗世から離れた身だ。戻ることなど気にするものか。

そんなことを考えている内にシリンダーは彼の手の中で完成していた。

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