第8話 likeなのかloveなのか

 買い物を済ませ、昼食も済み、アレルギーの検査結果を聞く現在。




 何かアレルギーあったら可愛そうだなとか同じ食べ物で生活するわけだから少し面倒くさいな……などと不謹慎なことを思ってしまう。




 ドクターは、検査結果の出た紙を何度か確認してから、オレの目を見て結果を告げる。




「えー……甲殻類も小麦もリンゴも……とりあえず、一般的な食べ物のアレルギー反応は全部なかったよ、良かったね」




「オォー良かった!」




 食べ物のアレルギーは無いようでオレはほっと胸をなでおろした。




 オレが喜んでいるからか、人間も笑ってくれた。




「まぁ、そうだね、あると食事に気を使うからね、特例で買った子なんだよね、かなりの良品だねぇー、良かったねぇー」




「ぁ……ありがとうございます」




 急な出費ではあったが、良い買い物になったらしい、これも日頃の行いが良いからだろうか?




 とはいえ、こいつとの出会いは本当に素晴らしいものだとオレは信じたい。






 検疫もアレルギーも異常なくて本当に良かった。




 とはいえ、出費は重なった。 今日は、肉と野菜でも買って自炊しよう。




 あわよくば人間が手伝ってくれるかもしれない。




 それから、人間にも買いたいものを選ばせ、楽しい時間はあっという間に過ぎた。




 3日分程の食材を買ってから、家へと向かう。




 最初に買った服や生活雑貨は、2人で手分けして持ち、




 オレは少し重たい様々な野菜が入った袋を持ち、人間は、肉や刺し身などの軽いトレーに入っている食材の袋を持つ。




 人間の顔が時折曇ることはあったが、それでもオレが心配するとそれに一生懸命応えようとしていた。




 それぞれ両手が買い物袋に制されてるため手をつなぐことは出来なかったが、




 オレがニィっと笑うとそれに笑顔を返してくれる人間は愛らしく美しかった。




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chips  その13




 良品、アレルギーもなければ、性格も従順。体調も良好




 粗悪、アレルギーがあるか、性格も荒い、或いは傷や疾病がある。




 本来は、アレルギーや疾病の有無で人間はランク付けされ、ランクが高い(良品)程高価で取引される。






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 二人がかりの調理としては狭い場所に、オレと人間は居た。




 人間は予想していたよりも手際が良かった。




 そして、何かをしている人間はいつもより生気に満ちている気がした。




 気がつけば、料理の主導権を握られ、




 キャベツ、人参、鶏肉を適当な大きさに切り分け、元気が出るようにとにんにくも少し入れる。




 そして、鶏肉を先に温めた後、切り分けた野菜達ともやしを入れ、ある程度温める。




 魚のマークがついた小袋を出すと、人間は、ほんの少しだけ味見してそれが出汁の素だと理解する。




 前世では意外と親孝行な子だったんだろうか?




 塩コショウを出してから、オレは、台所から3歩ほど離れて人間を見た。




 人間は不思議そうにオレを見ていたが、任せてくれたとわかったのか。




『美味しく作るからね』 と言わんばかりの得意そうな笑みを浮かべた。




 オレはミニちゃぶ台の準備をして、台拭きでそれを拭いて、適当に食器を用意する。




 人間の作る野菜炒めが出来上がる少し前に炊飯器が完成のアラームを鳴らした。




 流石に逸品だけでは味気なく感じ、買い置きのレトルトの味噌汁を作るため、ポットの電源を入れた。




 野菜炒めが完成し、火を止めると、人間は冷蔵庫からトマトを取り出し、よく洗ってきれいな三角へ切った。




 明日用のつもりだったのだが、楽しく準備する人間を引き止めることはオレには出来なかった。




 切ったトマトを2つに分け、微量の塩をかけて人間は満足そうだった。




 野菜炒め、白飯、塩を振りかけたトマト、味噌汁がミニちゃぶ台に広がった。




 人間の料理は結構美味かった。




 オレが美味しそうに食べるのを見てから人間もニコッと笑い、野菜炒めを口に運んだ。




……






 その直後だった。




『うん、上出来!』と言わんばかりの笑顔に染まりかけた人間の顔が一気に曇った。




 食器をそっとちゃぶ台に戻し、箸を持ったまま目元を拭った。




「だ、大丈夫か!?」




 そう、人間は泣いていたのだ。




『ぅっ……ぅっ……』




 オレは駆け寄り、人間が持っていた箸を茶碗の上に戻してから、優しく抱き寄せ背中をなでた。




 何故泣いたのだろう?




 ……




 人間にとってこの生活はやっぱり前世より辛いものなのだろうか?




 やっぱり人間は前世に帰りたいのだろうか……?




……




 オレは何をしてあげれるか分からない。




 ただ、気がつけば無心で、頭を撫でて




「大丈夫だから……な?」




 優しい言葉をかけて




 気がつけばオレも涙ぐんでいて。




 お姫様抱っこをしてから、ベッドにゆっくりと下ろし、それから、横になって抱き合った。




 人間は甘えてくれた。 オレのことを信頼してくれているんだろうか?




 それとも信頼せざる負えないのだろうか?






……






 結局、オレらが再び夕飯にありつくころ、野菜炒めは愚か、味噌汁や白飯まですっかり冷め切っていた。




 人間が即席で作ってくれた塩が振りかけられたトマトが、まるで人間の涙の様な味がした。




 笑顔で作ってくれた人間の健気さが凄く身にしみた。




 オレが少しだけ早く食べ終わった。




 そして人間が食べ終わるのを待つと、オレは居てもたっても居られず、再び人間をお姫様抱っこしてベッドに運んだ。




 潤んだ瞳は美しく吸い込まれそうだった。




 でもどこか寂しそうで、キスとかそういうことをする気分にはなれなかった。




 だから、オレは、人間をベッドに横にならせてから、薄手の毛布を人間と一緒に頭までかぶってただ抱き合った。




 切ないけど気持ちよくて、落ち着いて、一秒一秒ごとにオレは人間を好きになっていた。




 布団の中で互いの息が鼻につく、不思議と嫌な匂いじゃなかった。




 人間が、鼻を吸ってから、懸命な笑顔を作って一言いった。




『大事にしてくれてありがとう……』




 励まさなきゃいけない立場なのに、オレが励まされた。




 人間の健気さと人間に突如起こった不幸が歯がゆかった。




「……強がるなよ!……泣けよ……泣いていいんだぞ……オ、オレが……オレがオマ、オマエの……」




 涙で言葉がつっかえる、飼い主でもあり保護者でもあるのだからしっかりしたい、威厳を見せたい。




 それなのにオレは、人間に励まされて……


 


「飼い主なんだからなぁあぁーっっ!!!うぅぅ……うぁぁぁーぅ……」




 言うだけ言って、大泣きするオレ、どうしよう……多分人間のこと好きなんだろう……。




 嗚呼、今のオレすっげぇー恥ずかしい……人間の目見れる気がしない……。




『ありがとう……大好きだよ……』




「ぇ……?」




 何度目かの『ありがとう』を言われた。意味はまだ分からない。




 その代わり、自分の額にふにっとしたやわっこく優しい感触が伝わった。




 ……




 キス……された……?




 オレは放心状態になった、人間は涙目ながらも強く笑っていた。




 そんな人間にオレはますます惹かれた。




 そして、気がつけば、人間の胸を借りて泣いていた。




 人間の雌というだけあってふにゃっとしていて凄く気持ちよかったが、それを堪能できるほど精神的に余裕はなかった。




 ただ人間の胸を借りて泣くそれしか出来なかった。




「嗚呼ーっもー、オレは、オマエがすっげぇー好き、キスもセックスもなんでもしたい、愛してる、ずっとそばに居て!」




 ……自分でも何言ってるんだろうと思ったが、言葉にすると少し清々しい気持ちになった。




『ありがとう……私も大好きです』




「もー……何が『ありがとう』だよ! わっきゃんねぇーよぉ……犯すぞー、犯しちゃうぞ!!」




 言葉は通じない、それでも人間はなんとなく分かっているような気がした。




 ただ優しく微笑んでくれていた。さっきまでの寂しそうな表情は一切なかった。




「ぅー……べっぴんだよぉ……オレには勿体無いぐらいべっぴんだよぉ……好きだよぉ……アォーン……」




 まるで負け犬みたいに小さく吠えた。




 ありえない素を出している自分が恥ずかしい、でもありのままの自分が好きだ。




 オレは、少し口を開け、口から少し舌を出したまま、物欲しそうに人間を見た。




『うん?……』




 人間が不思議そうに首を傾げる。




「……くぅぅ~ん……」




 何も言葉に出来ない、ただ誤魔化すつもりで鳴いた。




『いひひ……ありがとう、君のこと大好きだよ、これからも宜しくね』




 人間は、更に力強く笑い、その後に、オレの舌に優しくキスをした。




「キャゥ!!……くぅぅ~ん……」




 心臓は高鳴った。そしてオレは、自分の本性に気づく。




……






 オレってマゾじゃね……!?


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