第7話 買い物と飼育グッズ


 人間は大人しかった。




 はぐれ無いよう手を引くが、人間の手も少し暖かかった。




 そういえば、人間もオレたちと同じでそれなりに長生きをするらしい。




 過度なストレス環境であれば、早死することもあるらしいが、病院の人に話を聞くとこの子は、推定15~20歳ぐらいらしい




 となるとオレは、約8歳ほど年上なわけだ。




 そんな年齢の時に突如、平和な世界が厳しい世界になったとしたらオレは耐えれるだろうか?




 ふと人間を見ると、それにたまたま気づいて目があった。




 言葉も通じなければ今までの身分も確立されていない。




 それなのに人間は笑ってくれた。




 まだ出会って1日も経っていないのに、人間はオレのことを信用してくれていた。




 ……




 正確には、信用せざる負えない状況なのだが。




 もし飼い主的立場を破棄した場合どうなるか、競売にかけられその金額の一部のお金がオレの手元にくる。




 あるいは、ペット用の犬猫などの処分場にて約1週間預けられる、といっても最近は、競売がダメであれば、奴隷になる末路が多いらしい。




 実を言うと人間を飼うことに興味が無かったわけではないが、どうせ買うなら、競売か保健所にて安く買えたらなとは思っていた。




 まさか、傷の少ない人間とはいえ、定価の半額で飼うことになるとは思わなかった。




 人生どうなるかわからない……。






……






 百貨店でまずは、観察輪を買いに6Fへと向かった、約1万円というやや高額な値段なのだが、その代わり、太陽光や自家発電を利用した発信機が入っておりその発信機があれば、スマホで確認ができるのだ。




 また、電子ロックもついていて付属のリモコンかスマホでそれの施錠をすることが出来る。




 ちなみに電子レンジで加熱をすると両方共壊れる。




 観察輪の有無は、所有者を表す、以前にも述べたが、大量の家畜や人労としての観察域にいる人間はともかく、一般家庭で飼われる人間には、例外なく観察輪が付けられる。




 わかりやすく言えば、愛玩用の犬を想像して欲しい。




 首輪をつけていれば、誰かが飼っていて首輪がついていなければ、脱走や野良としての可能性があるということだ。




 首輪は、安いものだと耐久度が低い、高級なものであれば、いかなる手段を用いても壊すのに相当時間がいるそうだ。




 ただ、高いからといって良いものではない、耐久度がある分相当な重量もあり、結局、愛玩やパートナーとしての人間の飼育の際は、極一般的な1万円前後の首輪に落ち着く。




 人間を観察輪売り場に連れて行き、売り場を指さしてから、首もとを指す。




 自分の好きな首輪を選べというジェスチャーだが伝わっただろうか?




「好きなの選んでいいから」




 そう言うと、人間は理解したのかコクリと頷いた。




『分かった』




 オレは、観察輪の両隣にある、あると便利な人間の飼育グッズを自分の顎下を掻きながら、眺めた。




「うーむぅ……」




 結構色々なグッズがあるみたいだが、これといって必要な物はなさそうだ。




 ……




 唯一目に留まったものは、1万数千円の、ネットワークを利用した監視カメラだった。




 自宅のWi-Fi環境を利用して、スマホから自宅の様子が見れるが、1日中監視されるのは居心地悪いだろう。




 それこそ、自慰行為に浸りたいって時もあるんじゃないだろうか?




「でもなぁ……もしものことあったらなぁ……」




 もしものことを考えると同時に、仕事場でこいつの様子を一目出来たら、そう考えると無性に欲しくなった。




 自慰行為は部屋でするものじゃないだろうし……トイレや風呂でしてくれれば管轄外だ。




(買っていいもんかなぁ……)




 そんなときだった。




 背中をツンツンと突かれた。




「わっわっ、違う違う、違うからな、監視するつもりなんて………オレはちょっと心配だったわけで……」




 カメラを戻し、必死にジェスチャーで伝える。




 人間は2つの観察輪を持っていた。




 2つとも欲しいのだろうか?




 そんなことを考えていると、人間はオレが置いたカメラに興味を示した。




 数秒間パッケージを見てから、人間は、両手に持った観察輪を自分の首の高さまで上げた。




 嗚呼……どっちか好きなのを選んで欲しいってことだろうか?




 おそらく、どっちもどっちで人間なりに悩んだのだろう。




 機能性は殆ど変わらなかった。差額は千円ほどで大した質の違いはない。




「オマエはどっちがいいんだ?」




 そう問いかけてみるが、人間は困った様子だった。




『……?えっと……』




「あ、ごめんごめん」




 数ある中で2つに絞ったのだ、きっと飼い主オレに決めて欲しいのだろう。




 オレは、十数秒悩んでから片方を指さした。




 人間は、少し考えてからコクリと頷き、指差した方をオレに渡し、もう一個の方を売り場に戻した。




 今のところ紐はいらないだろう。外出の時は手をつなぎ、1人の時は、観察輪を外して家にいてもらおうと思う。




 勿論、慣れたら観察輪を付けて、1人でお使いに行ってもらおうとは思うが。




 とりあえず会計を済ませるため、オレはレジへ向かい、済ませた。




 観察輪には、封を開けないと確認できないIDとPWがある。




 QRコードをスマホで読み取りアプリをダウンロードしてから、観察輪のIDとPWを入力する。




 すると、認証が成功し、観察輪の発信源が今いる百貨店だとアプリの地図上に表示される。




「オォー!!」




 オレが感動していると人間はスマホ画面を覗こうとしたので、画面を見せてやると




 人間も少し感嘆を漏らした。




 オレは、観察輪を人間につけてやる。




 100g程の観察輪くびわが人間の襟元にちょこんと着飾った。




 オレは、スマホでカメラを開き、人間と2ショットを取った。




 人間は少し嬉しそうだった。




 プレゼントしてもらったと認識しているのだろうか?




 それから、下着上下を5着ずつ、お出かけ用のあまり高価ではない私服上下を2着買ってから、外食を済ませた。




 時折すれ違う、獣人の好機な視線は、オレに優越感を抱かせた。




 観察輪の時も喜んでいたが、私服としての上下2着を買った時は、結構喜んでいた。




 なんていうか…………




 ……






 護りたい……この笑顔。




 この感情がラブなのかライクなのかよくわからない、でも確実にオレは人間に依存しはじめていた。




 オレを必要としてくれている人間が、まるで自分の娘や妹に見えた。

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