第6話 誰かと一緒に迎える朝
……。
……。
「ふぁ……」
目が覚める、腕の中にやわっこく暖かいものを感じる。
……なんだろう。
そう思い、顎を下に下げた時、こつんとぶつかった。
「んっ……嗚呼……オレの人間かぁ……いひひ……」
思わず、ギュッと抱きしめた。
その変化に気づいてか、人間はゆっくりと動く。
ほんの少しだけ抱き返してくれたが、すぐに解放を求めたので、オレは解放をしてあげた。
行き先はお手洗いだった。
30秒ほどしてから、人間は出てきた。
人間が出てきたのを見てから、オレもトイレへ行く。
僅かに匂いが残っていたが、それほど鼻につくものではなかった。
トイレから出ると、人間が冷蔵庫を開けているのが目に入った。
目が合うと、人間は慌てて冷蔵庫の戸を閉め、申し訳無さそうに少し頭を下げた。
『ご、ごめんなさい』
「ん……? 飲み物……かな?」
オレは、別に冷蔵庫を開けるのは問題無いというのを伝えるべく、頭を撫で、冷蔵庫のお茶のペットボトルを差し出した。
『ありがとう』
人間はにっこり笑った。
「どういたしまして」
なんとなく人間がいいそうなことは分かった。
オレもつられてにっこり笑う。
……
それから適当にパンで朝食を済ませ、私服に着替える。
人間にこれからどこに連れて行くかは伝えておいたほうが良いだろうか?
スマホで画像検索をし、幸せそうなパートナーとして飼われている人間の画像を探す。
大半の画像は、どこかきゅうくつそうな笑みだった。
ようやく、心から幸せに笑っている人間の画像が見つかったのでその画像を拡大し
人間の肩を爪で軽く叩いてからスマホ画面を見るように指示する。
オレは、スマホ画面の画像の首輪辺りをちょんちょんと示してから、自分の首もちょんちょんと示す。
「首輪(観察輪)買いに行くから」
『えっと……首輪……?』
人間は理解したのか、自分の首元で手を広げ首を覆った。
「そうそう、賢いなぁ~」
オレは、右手の人差し指と親指で◯を作ってから頭を撫でた。
『…………うん』
人間は少し間があったが笑顔になってくれた。
生活に馴染むまで時間がかかるだろう。
その曇った笑顔を見るのが少し辛く、オレはギュッと抱きしめた。
人間も抱き返してくれた。
「オレがちゃんと立派な飼い主になるから……オマエを傷つけないから……」
『……ありがとう』
誠意は伝わったのだろうか、人間は少し元気を取り戻した。
……
……
オレは、貯金をおろし、人間の残り金額を振込み、検疫をしに病院に向かった。
【総合ヤブイヌ病院 】※人間の診察も可
昨日ネットで調べていた、近場にある評判の良い人科に対応した病院。
オレ自身も何度か利用したことがあるので問題は無いだろう。
受付を済ませようとして気づく。 人間の名前を考えていない
適当に考えて後悔してはいけない、役場への登録までにしっかり決めておかねば…。
問診票を書いてから、提出の際名前を決めてないことを伝える。
それから10分ほど待ってから呼ばれた。
少し美人の狐っぽい犬獣人のナースさんが呼んでくれた。
「今日は、検疫と予防接種とアレルギー検査とのことで宜しいですか?」
「あ、はい、とりあえずは」
「わかりました。 ではこちらにどうぞ」
オレは人間の手を優しく引き診察室へ行った。
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chips その12
人間が獣人に飼われる前に病院では
食べ物や物質のアレルギー検査と先に述べた伝染病予防の検疫がある。
今まで伝染病があったことはほぼ前例は無いが、安全のための決まり事なのである。
また、時期に応じて予防接種もあり、インフルエンザなどに備えておかないといけない。
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「はいはい、どーもぉー」
診察室に入ると、少し老けた狸のドクターが居た。
「よろしくお願いします」
『お願いします』
オレの後に続き人間も会釈をした。
「おー、これまた美人な人間さんだね、女の子かな?」
「へっ……!? 女? 雌?」
「おや? 確認はしてなかったのかい? 服装と胸の膨らみからして女の子だと思うけど」
「あー……えーと……そのぉ……」
そして、ふと思い出す、昨夜のお風呂あがりの光景。
胸元に何かあったのは、女性がつけるブラジャーというものだったのか。
そういえば、今意識してみると、最初あった時の制服はどことなく女性用っぽかったなぁ……。
そっか……雌なのか……。
実を言うと雄の方が飼いたかった。
雄であれば、性欲の発散で逝ったというのが目視出来る。雌だとそういうわけにも行かない。
「はぁ…………雌ですかぁ……」
「うん? 男の子の方が飼いたかったのかい? でも懐いてるみたいじゃよ?」
そう言われ女だとわかった人間を見ると、心配してかオレを見ていた。
「あ、いえ、大丈夫です、 では、検疫やらアレルギー検査やらお願いします」
「はいはい、じゃぁ、血を多めにとるからね」
それから、人間の血を抜いてから、予防接種を受け、結果が出るのを待つ間買い物に行くことにした。
3時間ぐらい時間を潰せば、結果は出るらしい。
……
買い物に向かう中、人間が女だったことにオレは落胆していた。
「そっか……女かぁ……」
オレは別にゲイって訳ではないが、ペットを飼うなら雄派だったわけで、人間が雌というのは少し残念な結果だ。
人間の顔を見る。
……
「うん、女で別にいいや」
町中で構わずオレは人間を抱きしめた。
人間は少し嫌がっていた。町中だからだろうか?
「これからも宜しくな」
人間の目線に合わせて言ってから、頭を撫でて、人間の手をとった。
男だから飼いたいというのもあるが、こいつがこいつだから飼いたいというのが今は一番だ。
それに、オレはこいつの声が好きだ。
そういえば、人間の女だったら料理とかが出来たりするんだろうか?
男が稼いで女が家事をする。
それが一般的であるわけで、朝ごはんや夕ごはんをこいつが用意してくれている と想像するのはなんかワクワクした。
外食の回数が減れば、二人暮らしでもお金が浮いていくかもしれない。
オレは気持ちを切り替え、衣類や観察輪を買いに、百貨店へと向かった。
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