第4話 買い物と夜の公園
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chips その7
この世界は地球に凄く似ている。
人間の代わりに獣人が繁栄し、治めている国だ。
人間は主に家畜、愛玩動物として飼育、利用されている。
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「はぁ……給料2ヶ月分っ……」
思わずため息が出た。
GRちゃんを手にするのは、半年伸びた。その頃にはnewモデルが出ているだろうか?
そんなことを思っていると心の声がする。
(じゃぁ、返品する?)
……
「それは、無理!!」
なんていうか、手放したくない、オレの……オレだけの人間なのだから。
そんなことを考えながら、スマホを取り出し、『人間ケモノ ペット』でウェブ検索をしながらコンビニを目指した。
ウェブで調べて分かるのは、犬猫と違い、何倍も賢いということだった。
犬猫以上、或いはそれに近い飼い方をすれば、トイレを間違えることはなく、あれこれ家事、雑務をこなしてくれるようで便利らしい。
いわば、お金がない人用の言葉は交わせないがある程度の意思疎通は出来る安価のメイドや執事の様なものらしい。
まぁ、確かに、皿洗いとか料理とか、その他雑務をしてくれるとしたら大分楽にできるし。
そういった家事している間にギターの練習も出来るわけで、いい買い物ができたかもしれない。
人間の言ってる言葉が、優しく脳内にリピートされる。
『ありがとう』
『ありがとう……優しいね』
「はぁ……めっちゃ可愛い……」
飼い始めて間もないせいか、今すぐ家に帰りたくなったが、買い出しに来ているので、買い物を優先しなくてはいけない。
「何買えばいいんだろう……」
大型のホームセンターではないので、色々揃うわけではないが……。
そんなことを考えながら、オレはまたスマホで『人間 飼育 便利グッズ』で検索した。
その結果、人間が生活に馴染めてないうちは、紙パックやペットボトルの飲み物、また開けてほしくない場所には施錠するといいと書いてあったり、当然のことながら、本当に大事にするのなら、人間の分の生活雑貨を揃えろ!と書いてあった。(歯ブラシ、布団、毛布、タオル、人間用シャンプー……他)
想像以上にズラーっと必要な物が書いてあった。
その中に、スケッチブックと筆記用具も書いてあった。
詳細を読むと、絵会話の様なものも出来るらしい。
確かに、そういうコミュニケーションが出来るのであれば、文字ほど正確ではないが、意思疎通が捗るかもしれない。
人間とコミュニケーションをとることを想像しながら、
A4サイズのスケッチブック、歯ブラシ、明日の朝食、飲み物を買い、コンビニを後にした。
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chips その8
ほんの少しずつだがこの世界でも人間は住みやすくなっていっている。
人間用の生活消耗品も開発されたり、人権が少しずつ尊重されはじめたり。
ただ、100%というわけではないので、奴隷以上に酷い扱いを受ける人間もいるようだ。
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「ふざっけんなっ!!」
突如公園から罵声が聞こえてきた。
『ごめんなさい、ごめんなさい』
声の方を確認すると、公園の灯りの下で、ボロ切れを着た人間が罰を受けていた。
「いいよ、がぁーっっぺ……、許してやるから、舐めろよ」
獣人は、砂交じりの地面に、痰を吐いた。
『………?』
状況が分かっていない人間は、4つんばいで這いつくばったまま、吐き捨てられた痰と飼い主を見ていた。
その後、飼い主は、人間の顔を踏み、吐き捨てた痰に顔を近づかせた。
「うわぁ……」
言葉がわからない人間も命令を察したのか、必死にそれを舐めようとしていた。
……
似たような光景に遭遇したことは多々あった。
でもそれは、オレの中で人間はそういう扱いを受けてもしょうがないと思っていた。
しかし、4つばいになっているのがもしオレの人間だったら?
そう思うと悲しくなってきた。
だからオレは、初めて、無意識にその場所に走りだしていた。
「早くしろよ、罰もろくにこなせないのか?」
『……ぅ……ぐっ……』
「まぁまぁまぁまぁ、落ち着いて下さい」
生まれて初めて『まぁ』を4回連続で言った気がする。
「ん?……良い兄ちゃんだな、こいつ庇いたいのか?」
「んー……まぁ……」
オレは屈んで、人間を踏んでる足をどかそうとすると、それよりも早く飼い主は足を引いた。
そのまま立ち上がるには少しかっこ悪く、人間の方を軽くはたいてからホコリを落としてから、一緒に立ち上がった。
「見たところ、ペットとしての人間っぽそうですが、良かったら話聞いて良いですか?」
「むー……だってよぉー、お使いもろくに出来ないんだぞ?」
「なるほど……言葉が交わせれば良いんでしょうけどねぇ……」
そんな会話をしていると、飼い主は、人間を手招きし、ギュッと抱きしめた。
「怒鳴って悪かったな……怖かったか?……すまねぇーなぁ……」
人間は、しっかり飼い主に抱きつき、飼い主は、優しく背中を撫でていた。
やがて、人間がすすり泣き出したのは、言うまでもなかった。
3人でベンチに腰掛け、飼い主の話を聞くと、飼い始めてまだ一月も経たないらしい、
少し物覚えが悪く、今日も買い物を失敗したという。
溜まり溜まった不満がつい爆発してしまったらしい。
「その人間のこと好きなんですか?」
ただなんとなく問いただして言葉を聞きたかった。
「ん……今は世界で一番好きだ、それでもついあんな暴力振るっちゃうのは歪んでる証拠なんだろうな」
そう言いながら、膝枕で休ませている人間の身体をそっと撫でていた。
どうやら人間も飼い主が好きなようだ。
「叱って教えるんじゃなくて、褒めて教えるってやり方が効率いいってテレビでやってましたけど知ってました?」
「……!? なんじゃそりゃ? え? どういうこと?」
あんまりテレビとか雑誌を見ない人なのだろうか?
それからオレは、うろ覚えながらも、実例や例え話をして説明した。
「なるほど! 犬猫も褒めて伸ばすほうが信頼関係が築きやすいってのは聞いたことがあるぞ」
「あー、ですね」
そんなこんなでうまく説得して家に帰ろうとした時だった。
「兄ちゃん、2つ頼みがあるんじゃが」
「へっ? なんでしょうか」
2つ? 1つならまだしも、いったいなんなんだろう。
「ひ、一つ目は、情報交換も兼ねて友達になって欲しいんじゃが……」
年上のおっさんに上目遣いで見られる不思議な感覚。
十分ほど前に怒鳴っていたおっさんと比べるとギャップ萌えしそうだ。
「あぁ……はい、自分も色々人間飼育に関して情報交換はしたいので、助かります、で、もう一つは?」
「わしを殴ってくれんかの? 躾とはいえやり過ぎた……。 なんていうか反省したいんじゃ、二度と同じ過ちはしたくないし……」
「えっ……うー……パーで良いです?」
「ぁ……うむ、お願いします」
「はぁ……じゃ行きますね」
オレはあまり人を殴り慣れていないのだが、顔に平手打ちをしてそれなりの手応えは感じた。
「ぅ……ありがとう」
「……いえいえ……これからもお幸せ……」
その直後だった、人間がオレにタックルをしてきた。
突然のことでオレは、2歩退くことになった。
「うおっ!?」
「馬鹿! 何しておるんじゃ!!」
飼い主は、手を出すかに見えたが、守ろうとした行為と理解してか手を下げ、深く頭を下げた。
「すまん……うちのやつが馬鹿で……」
「いや、いいよ、にしても愛されてるな、おっちゃん」
人間は少しオレのことを警戒しているようだった。
「握手でもしたら友達だって伝わるかな?」
「そ、そうじゃな?…… 何から何までありがとう」
「いや、こちらこそ」
それから、握手を交わし、連絡先を赤外線で交換してから、ふと、家で待つ人間のことが頭をよぎった。
「うぉっと……ヤバイ、あいつ待ってるんだ、じゃ、また」
そういって『また』としてスマホを見せると、飼い主は笑いながらコクリと頷いた。
「あー、これ良かったら」
そういって、ペットボトルのスポーツドリンクを渡してから3歩ほど後退した。
今度は、人間も会釈をしてくれた。 どうやら誤解は解けたようだった。
そして、オレは急いで家に向かった。
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chips その9
人間を飼う獣人は、支配的な性格、寂しがり屋、仕事が忙しいなどで大半をしめている。
中には、恋人のような関係として飼う獣人も少なくないようだ。
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買い物して帰るという話がちょっと変わってしまいましたが、世界観が良い意味で伝わったのではないかなと思います。
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