第2話 涙の数だけ愛しい
『っ……痛』
「嗚呼……ちょっと腫れちゃってるな」
人間の足の側面近くが少し赤くなっていた、想像するに、車からの飛び降りの際着地に失敗し足を捻ったのだろう。
他には擦り傷ぐらいで、数日で治りそうだった。
まさかオレが人間を飼うことになるとは……。
湿布を貼ってから包帯をぐるぐると何度もまき、下手に関節が動かないようにする。
明日は、病院行って検疫か……。どれぐらい金かかるかな。
観察輪と、病院で登録もできたよな。
「えーと、最後包帯を縛って……オッケーっと、ゆっくりしていいからな……あ、水ぐらい出しとくか」
『……ありがとう』
さっきも聞いた鳴き声だった。ひょっとしてお礼を言ってるのかな?
全然良い子じゃん、まぁ……飼う予定なんてなかったんだけどな。
今更だが、人間の脱走を見てラッキーといったのは、捕獲の際礼金が貰えるからだ。
仕事一回分の労働のお金がもらえることが多い(五千円か一万円)そのほうが
人間は、知識がかなりある代わりに理性もある。
今は、とある人間好きの金持ち達や人間愛好会の奴らのおかげで少し緩和されたが
一昔前は人間に厳しい世界だったと言う。
ただ厳しいが故に、自殺をする人間も少なくなく、最低限の人権は尊重される時代にとなった。
ペット以上、獣人未満という半端な位置で、家事、洗濯、買い物などの代行として飼うことが多い。
最初にぶつかった人間も、メモを持って買い物に行っている様子だった。
台所に行き、冷蔵庫を開ける。
基本人間は、獣人と同じものを食べて問題が無いらしい、稀にオレらと同じである食べ物にアレルギーがあるやつもいるらしいが。
そういえば、ホットミルクは心を落ち着かせるんだったっけ?
冷蔵庫にあった紙パックの牛乳の中身を2つのコップに注いだ。
残りが少なく、均等に注ぐと、それぞれマグカップ6部目ぐらいになった。
牛乳を注いだマグカップ2つを電子レンジに入れ2分チンする。
台所から人間を眺めていると目があった。
『ぁ……』
人間は怯えながら必死に笑顔をしてくれた。
「……可愛いなぁ……」
オレは、手招きをした。
するとオドオドしながらも側まで来てくれた。
……
ヤバイ、とても可愛い……犬猫、なんて目じゃない。
抱いていいのかな?
オレは中途半端に腕を広げた。
『……』
「おいで」と言おうとするよりも早く、そっと衝撃を与えないように人間は抱きついてくれた。
「良い子だなぁ……」
愛らしい、可愛い、言葉を理解できてないはずなのに必死にそれに答えようとする人間。
左腕で背中辺りを抱きしめ。右手で人間の頭を撫でた。
「愛してるぞ……人間」
『……あったかい』
そして、人間も恐る恐るだが抱きしめ返してくれた。
いつかこの子の本当の笑顔を見れる日が来ると良いな……。
こんなに健気なのに、あんなに気遣った笑顔……。
この子がやっぱり可哀想に思えた。
「強がらなくていい、無理しなくていい、泣きたきゃ泣いていい、君の行動は全部オレが許可するから……」
『ありが……』
その時だった、電子レンジのアラームの音が鳴った。
~~♪~~♪
抱いていた人間の身体がビクッとなった。
反射的にオレはギュッと抱きしめた。
そして、なんともないと思ったのかまた人間は優しく抱き返してくれた。
「ごめんな、怖かったな、大丈夫だからなぁ……」
そういって抱きしめる手を緩めると、人間も、手を緩め、オレから2歩距離をとった。
電子レンジの中からマグカップを取り出し、箸で混ぜてホットミルクの温度を均等にする
2つ混ぜ終わってから、混ぜた箸を洗面所に置いて、片方のマグカップを人間に差し出す。
恐る恐る慎重に受け取る人間。
毒は入ってないと証明するため、オレが先にコップをすすろうとする。
「大丈夫だからな、中身は安全だか…‥ズスッ……あちっ!!」
思わずたじろぐオレに、人間は優しく微笑んでくれた。
火傷を心配してか、空いた左手をそっとオレの頬へ伸ばしてくれた。
『大丈夫ですか……?』
「ありがとう」
オレがにっこり笑うと、人間は手を引っ込めて、オレの笑いに答えるかのようにまた微笑んでくれた。
『良かっ……』
何かを言おうとした人間の目からまた涙が湧き出て、人間は泣き始めた。
なんで泣いたのかは分からなかった。
でも可哀想であると同時に凄く愛おしかった。
オレは、自分のマグカップを台所に置いて、そっと人間のマグカップも受け取り、それを台所に置いてから、
少しだけ考えてから、抱きしめた、抱きしめると、強く抱きしめ返されて、今まで以上に大きな声で泣いた。
『怖かった、怖かった……怖かった。目が覚めたら酷いことされて、また目が覚めたらこの世界にいて、捕まって、逃げようとして、貴方に出会って……貴方に捕まって、貴方に差し出されて……怖かった……怖かった』
「うん……ごめん、ごめんな……オレにはこれぐらいしか出来なくて……ごめんな……」
人間は泣きながら懸命に何かを訴えていた。
それを聞いててオレも辛くなったし、可哀想に思えた。ギュッと抱きしめ返す人間に、オレは、背中と頭を撫でてあげることと、心音を聞かせることぐらいしか出来なかった。
人間が何を言っていたのかは分からないが、最後に、今まで何度か聞いた『ありがとう』を何回も言っていた。
人間がオレを頼っているのは分かった。それは嬉しかった。
……
……
それから、5分ほど経ってから、人間はオレの心音を聞きながら気を失った。
色々あって疲れたんだろう。
「おやすみ……」
オレは優しく抱きかかえ、自分のベッドに寝かしつけた。
----------
Chips その4
獣人と人間が愛することはあるが、当然子供を授かることはない。
----------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます