第1話 出会い

第一話




出会い




 今日は仕事が終わり、明日は休みの華の金曜日!!




 そして、給料日でもあった




「後、二ヶ月っ!!」




 給料の3分の2は生活費として消費し、3分の1を貯金に回している。




 給料袋を懐にしまい、オレは、帰り道の途中にある楽器屋さんの前で足を止める。




「ウヘヘッ……GR-238、待ってろよぉー」




 GR-238、超高級ギターで、デザインは本当っ!!オレ好み。




 音楽やのショーケースに映るオレは、みっともなく口端から涎を垂らしていた。




(オレ、コレ買ったら毎日一緒に寝るんだ!)




 後二ヶ月……本当長いなぁ……。




 GR-238を持っているってのは、ミュージシャンとしてステータスになる。




 そのステータスがきっとオレの道を照らしてくれるはずだ。




 とりあえず給料日だし、今日は豪華に行くか!




 そう思いパッと振り返ったその時だった。




「ぅっ……」




『うぁっ!!』




 振り返ると、粗末な布切れの首輪をした人間がぶつかって来た衝撃で路上に倒れた。




 髪は短髪で少し痩せている。




 オレたち獣人は、特に鍛えてなくても普通の獣人ですら人間で言うガチムチに近いぐらい筋肉がある。




 だから、貧相な人間と違い、ぶつかってこられても倒れることはおろか殆どふらつくことすらない。




「んだよもぉー……気ぃ……つけろよ」




『ごめんなさい、ごめんなさい!!』




 即座に土下座する人間。




 それにオレは興奮を覚える。




「ニィ……」








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chips その2




この世界で人間は家畜やペットに近い存在である。




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 いつもなら土下座する人間の頭を持ち上げ後方に飛ばし、尻餅をついて足を広げている淫らな体勢にするのだが




『グゥッ……ギュルルッ……』




……腹減った…。




 ……持ち上げて後方に飛ばす予定だった頭をそっと撫でてやった。




 それから立ち上がらせ




「まぁ、気をつけろよ」




『すいませんでした……』




 手を振って見送る、その時に首輪の番号を見る。




(『D-1358』か……今度会ったら美味しく頂こう)




……。




 ニヤニヤしながら、近場でコロッケを3個買って、自宅に向かっている時だった。




「おおーーーい、誰かそいつを捕まえてくれ」




「ん?……」




 振り向くと、きれいな人間が足を引きずりながら逃げていた。




 ださいデザインの鞄とバックを抱きしめ、懸命に走っていた。




「……んぐっ、…ごっくん…………ラッキー!」




 そう思いながら、オレは、ひょいっとその人間の両手を捉えた。




 顔や服に乱れはあったが、整った制服の人間は、まるで芸術だった。




『いやぁぁああっ!!』




 その人間は、とても綺麗な鳴き声だった。




 たまらず抱きしめると、ちょっとだけいい匂いがした。




挿絵(By みてみん)




「おぉーありがとう、礼は弾むよ、いやぁ……車の倉庫の戸の施錠が不十分だったみたいで」




「いえいえ……当然のことです、市場に出すケモノ(人間)ですか?」




「嗚呼……明日ね、でも足捻ったようだから、少し値段下がるかなぁ……」




『ぁっ……』




「ったく、いいから歩け!」




『やぁっ……痛いっ!!』




「……」




 オレは謝礼を貰うためなんとなく付いて行っているが、雑に扱われ、悲鳴を上げる人間を見ていて哀れに思えた。




「……あの」




「ん? あんだい? お礼は車で渡すから……」




「……それ、オレ飼ってもいいですか?」




「えっ!! んー……良いけど値段決まってないからなぁ……」




 えっ?オレ何言ってんの!?、自分でもびっくりしていた。




「相場ってどれぐらいなんですか?」




 まてまて、衝動買いはいいこと無いぞ! 考えなおせ、考えなおせ自分、どうせ高いぞ!?




「んー……そうだねぇー、足捻ったのは減額だろうけどでも良い人材だろうからねぇ……」




 そう言う男の口から出た言葉は、オレのほぼ二月分の給料だった。




「あー……」




 でもそれは、悪まで市場仕入れ値、ペットショップで売っている人間は、その2倍~3倍近くするのだ。




「どうする?買う? 立場解ってないケモノだから性格は保証出来ないよ?」




「……じゃぁ……捕まえた礼金分とか差し引いて、持ち物込で……」




 そういってオレは、うまく交渉して、1ヶ月半の給料でそいつを買うことに成功した。




 お目当てのGRちゃんが遠のいたのは言うまでもなかった。




 交渉が成立すると、売人は、人間を解放してくれた。




 人間は状況がわからずあたふたしていたが




 そっと抱きしめて背中を撫でると、人間は声を抑えつつもワンワン泣いた。




 そんな泣いてる人間を見ると何故かオレも悲しくなった。




 見ず知らずの人間なのに……。助けたくなった。




 こいつがどうしてこうなっているのかはよくわからない。




 この世界に人間がどう現れるのかも分からない。




 だってこんな見た目でもどこかの世界で十数年ちょっと普通に生きていたらしい。




 数時間前までが日常で、数時間前から家畜の身分……そりゃ、受け入れるの辛いよな……。




 今日からオレがオマエの飼い主になってやる……。




「あ……因みに、エサ以外に観察輪(首輪)検疫で結構出費かさむがそのお金も大丈夫か?」




 その言葉を聞いて絶句した、結局この子の購入に当たってオレは合計2ヶ月分の給料を使うことになった。




 その場でおよそ半額分の手付金を払い、裏に振込先の書かれた名刺を貰った。




「じゃぁ、そこに残りの13万円お願いしますね」




「嗚呼……は……は……」




「嗚呼……買うのやめます? 結構お金かかりますもんね」




「……」




 どうする、どうするオレ?飼うべきか、飼わざるべきか……。




『うぅ……』




「はふっ…………」




 人間の顔をもう一度見ようとした時、怯えながらもすがる目で見ていたのだ。




 それは、玉砕だった。




「ぃぃ、いえ、飼います!飼わせていただきます」




「……嗚呼……こういう商売の私が言うのもなんですが大事にしてくれそうだから残り10万に負けますね」




「ぇ……宜しいので?」




「私もつい、脱走されて頭に血が昇ってこの子に辛くあたってしまったからせめてね……」




 それから、売人は、少し屈んで




「さっきはゴメンネ、幸せになりなよ」




 売人がそう言っても、人間は怯えているだけだった。




 値引きが確証ではないとは思うが、売人のその気遣いで、オレは買う決心が決まった。




……






「さて……と」




 オレはふと、上着ポケットに入れたコロッケの温もりに気付かされる。




「あ……」




 商談で少し温くなったコロッケ




「これ食うか?」




『……』




 人間は何も言わない。その代わりコクリと小さく頷いた。




 コロッケを食べる様子を見て、ついついニヤニヤしてしまう。




 さっきニヤニヤしたのは、高級ギターの『GR』ちゃんを見た時だったっけ。




 よし、この子の名前は『GR』にでもしよう。




 そんなことを思いつつ人間の手荷物を持とうとしたら嫌がられた。




「あ……ごめんな、ゆっくり食べていいからな」




『……』




「慌てなくていいからなぁ……」




 そう言いながら頭を優しく撫でた。




『……ぅ……ぅぐっ……』




「わっ、い、嫌だったか?撫でられるの!?」




 オレは慌てて手を引っ込めると、人間は、脆そうな手で必死にオレの手を捕まえた。




 どうすればいいのかわからず、人間にまかせていると、人間は、涙を流しながらオレの手を自らの頬にそっとあてがっていた。




 次第に、人間の涙がオレの手につたって、そして、滴り落ちた。




『怖い……怖いよ……手を話さないでよ……』




 泣きじゃくりながらも懸命に何かを発している人間を見てオレも悲しくなった。




 人間が落ち着いてから、涙で濡れた手を、そっと舐めた。




……。




 人間の涙も……しょっぱかった。






 同じ生き物なんだなぁ……。




 オレは、人間と一緒に自宅に向かおうとしたが、足が痛そうだったので、繋いだ手を離し、背中を向けて座った。




「無理すんな、家帰ったら足も治療してやるからな」




『……ありがとう……君は優しいね』




……




 獣人と人間、言葉はまだ理解しあえない、それでも、殆ど間もなく、




 オレの背中にそっとおぶさってきた人間とは、ちょっとだけ意思疎通出来たような気がした。




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chips その3




人間は、この世界ではケモノであり、市場に並ぶ際は、検疫後販売される。




町中を歩く人間は、観察輪を装着し管理しなければならない。








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泣いてばっかりだけど、皆さんが同じ立場だったらどんなかんじでしょうか?


随時ご意見募集しております。

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