のろけでしょうか?

 

 

「殿下が悩むようなことがあるとは思いませんでした」

「俺だって悩むことはある。デリエントが優秀過ぎることとかな」


 デリン様は勉学でも武術でもとても優秀な方です。確かに他の方から見れば優秀過ぎるというのはわかりますが、フロイデン殿下も特別勉学ができないわけではありませんし、武術に関しては学院では敵う者はいません。

 なのでフロイデン殿下がデリン様のことを優秀過ぎると表すのは少しおかしいような気がします。得意分野が違うだけでお二方どちらもとても優秀な方なのです。


「フロイデン殿下も優秀な方だと思いますが」

「確かにそうだがデリエントに比べれば劣るだろう?」

「そうでしょうか」


 はたから見ても一切劣っているとは思えませんが……

 見た目は美男美女で成績も優秀。武術もできて王族と公爵家の令嬢。普通に考えたら劣るようなものは存在していないはずです。


「デリエントは勉学では学院で1位。武術もできてあの見た目だろう?」


 ん? 何やら雲行きが怪しくなってきたような。


「ローズさんも美しい女性だと思うがデリエントはそれ以上に美しいだろう。俺はデリエントよりも素晴らしい女性は見たことがない。お母さまも美しい女性だとは思うが、やはりデリエントの方が美しいだろう」


 これは惚気……でしょうか。フロイデン殿下が言っていることは確かに間違いはないのですが、殿下が悩んでいたことについて聞いたはずなのにどうしてこのような話に?


「デリエント様がとても優秀で美しい方なのは同意しますが、それがどうして殿下の悩みにつながるのでしょうか」

「俺とデリエントでは釣り合わないだろう? 当然俺が釣り合わないという意味だぞ」


 話の流れ的にそこは理解できましたが、フロイデン殿下とデリン様が釣り合わないということはないと思います。


「そんなことはないと思いますが」

「いや釣り合ってないだろう」


 しかし、この言葉どこかで聞き覚えがありますね。主に私の婚約者から。別にこちらは気にしていないですし劣っているとも思っていないのですが、あの人はすごく気にしていましたからね。フロイデン殿下も同じ気持ちなのかもしれません。


 まさかこのような理由でフロイデン殿下が行動していたとは思いもしませんでした。


 このフロイデン殿下の気持ちについて陛下や公爵家の方々は把握しているのでしょうか。いえ、話し合いはすでに終えられているということはしっかり把握しているのでしょう。あの陛下のことです、何もかも洗いざらいはかせているでしょう。その結果の殿下の顔なのかもしれません。

 もしかしたらそれがデリン様との婚約は白紙・・になった、ということなのかもしれません。陛下がそう言った際に少し含みがあるような言い方をしていましたし。


 なぜ釣り合わないという悩みが婚約破棄するまで行動が飛躍したのか、その辺の考えが理解できませんが、殿下のいつもの暴走の可能性もありますからね。 


 まあ、婚約相手と釣り合っていないと悩んだ末の行動だったとしても、他の女性に好意を表すのはよくないでしょう。しかも夜会のような公の場で誰に相談もせず、巻き込む相手にも説明せず、強引に婚約破棄を宣言するのは論外でしかないです。

 巻き込まれた側からしても、もう少し考えてから行動に移してほしかったですね。


「なるほど。とりあえず、殿下がローズお姉さまに声をかけた理由はわかりました。ありがとうございます」

「…それならよかった」

 

 このままだとずっと話を続けそうな雰囲気を感じたので私が話を切り上げると、少し話し足りなさそうな表情を浮かべながらフロイデン殿下はそう言って口を止めました。


「私たちから聞きたかったことはこのくらいですね。お父様はどうですか?」

「そうだな。――――」


 私からお父様に話を振った後、フロイデン殿下とお父様がいくつか言葉を交わして、殿下の謝罪の場は終了しました。



「この度は本当に申し訳なかった」


 フロイデン殿下はそう言うと部屋から出ていきました。そして、予想通り殿下が出て行って少し間を開けて案内役の方が部屋に入ってきました。

 そして、私たちはその方の案内で王宮を後にし、それからフロイデン殿下と直接関わることはなくなりました。


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