閑話 裏
「本当に面倒なことをしてくれたものだ」
「なぜ私がこのような場所にいなければならないのでしょうか」
「わかっているだろうに」
王宮のとある場所。
外からの光が差し込むも、他の場所に比べ少し薄暗く感じる王宮内で罪を犯した者がいれられる牢屋の一室。牢屋というには少し整った内装の部屋の中に1人の男がソファに腰かけ、格子越しに対峙している男と言葉を交わす。
牢屋の中にいる男は今までフロイデン第3王子の執事をしていた。その男に話しかけている男はこの国の国王だ。その周囲には数人の文官と武装した騎士が立っている。
「なぜ私に報告なく被害者を呼び出し話を進めようとした」
「常に多忙な陛下の手を煩わせるわけにはいかないでしょう」
「なら、なぜ私に話が通っていると」
「その方が話が進みやすいので」
男は悪びれた様子を一切見せずそう答えた。
確かに国王というのは確かに多忙な存在だ。故に些末事であれば国王に報告することなく王宮に努めている者たちが処理をすることはある。
しかし、今回の件はこの国の王子が関わっている以上、その親でもある国王への報告なく処理をするのは論外でしかない。しかも、一度も報告していないにも関わらず、国王も呼び出したことを把握していると虚偽をしたのだ。
「自分の失策を隠そうとしただけだろうに。私を理由に使うな」
「そんなことはしていませんよ。あれは殿下がこちらに知らせることなく行動を起こした結果です。私は関わっていませんから」
「ならこちらに報告をしても問題はなかったはずだが」
「あの程度のことで報告が必要だとは感じませんでしたので」
フロイデン王子の婚約破棄宣言は王族と公爵家が関係する問題だ。国王への報告が不要なわけがない。
反省の色が一切見えない男に国王はあからさまに呆れたといった様子で息をついた。
「不正、賄賂。挙句には書類の改ざんによる横領。他にもあるな。よくこれまで隠していたものだ」
そう言って国王は隣に控えていた文官から書類を受け取り、牢屋の中に投げ込んだ。
「……よく調べましたね」
その書類の内容をさっと確認した男が、今までの余裕そうな表情を少し崩す。
「しかし、同じようなことは他の官僚もしていると思いますが」
「いつまで旧世代の感覚で仕事をしているんだ。お前が言う官僚というのは今どれだけ残っていると思う。すでに代替わりが済んで膿も出し切れたと思えば、まだその感覚を持っているものがいたとは」
「人というものはそう簡単には変われないものなのですよ陛下」
「否定はしない。しかし、今の体制になってどれだけ時間が経ったと思っている」
現国王に代替わりしたのは今から10年以上前の話だ。そこから徐々に現体制へ移り変わっていった。今では不正を主なっていた官僚は王宮からほとんど姿を消し、残った者たちも不正から足を洗っている。
「今でも私のような者は残っていると思いますよ。それに私を今まで殿下の執事として残しておいたということは、そういうことなのでしょう?」
「そういう者は見つけ次第排除している。そして愚息にお前を付けたままだったのは、あれがお前になついていたからだ。こうなるとわかっていれば早急に別の者を付けてお前を排除しておくべきだった。これは私の失策だな」
「そうでしょうね」
国王はそう言って少し苦虫をかみつぶしたような表情をし。男の返事にこれ以上話をしたところで無意味だと判断したらしく大きく息をついた。
「ともあれ、お前の正式な処分は近いうちに下す。それまでここで待っていろ」
そう国王は言葉を残すと男の返事を聞くことなくその場を後にした。
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