スナックさいかわ オーナー豆ははこ編・葉月賞
こんばんは。
おや、ママは? あらら、また狐さん、すみませんね。え、鍵はスミヲさんに?
お二人にはほんとうに申し訳ない。
お詫びにこちらを。ああ、大丈夫ですよ。沙樹さんの分はちゃんとありますからね。
あの方はベーコンとポテトをパイ皮で焼いたやつに、チーズを入れるのがお好きだから、冷凍してきました。
そうですそうです、チェダーとゴーダ両方ですよ。さすがはスミヲさん!
ママは面倒だから~って、オーブンで焼かないでしょう。だから、今度沙樹さんがお店にいらっしゃる日に召し上がってもらおうと思ったんですよ。
え、ハムカツはオーブンでしてました? じゃあ、早めに沙樹さんに連絡しなくちゃ。
メールを入れておきますね。……よし。あとは、卵液を用意して刷毛で塗ってくださいね、送信、と。
ありがとうございました。
では、スミヲさんすみません、こちら、トーストで焼いてください。
ベーコンとポテトのパイ皮包み。
パイ皮は冷凍ですけどね、ジャーマンポテトを入れたんですよ。おいしいですよ。
ママの分ですか? 皆さんで召し上がって頂いて、あとはお客さまの分にしましょう。もしも余ったら、ママにも差し上げますよ。
あ、狐さんはお酒のほうが?
はいはい、焼酎は、こちら。晴耕雨読。いかがですか。芋焼酎ですが、一割ほど米焼酎が。さっぱりとしていていいお味ですよ。
サントリーの登美の丘ワイナリーの赤、白、ロゼ。はいはい、三本とも狐さんとスミヲさんに。どれを開けるかはお任せしますよ。白は冷やしたほうがいいかも知れませんね。
ああもちろん、ママがこの間買ってたみたいな高ーいのじゃあないですけどね。国産ワインを飲みたくて。
あとは、日本酒。これは越乃寒梅。もうね、香りとか、口あたりとか。やっぱり、いいお酒はいいですよね。
それと、ビールは夏ですからね、オリオンビールにしました。すっきりとしていて。やっぱり、夏ですよね。
お店の冷蔵庫には、冷えたベトナムビールもありますよ。どうぞどうぞ、出して頂いていいですよ。今日は、オーナーが許可します。
はいはい、それではね。ちょっと厨房を借りますよ。
スミヲさん? ああ、それ。そうです。クーラーボックスの中にお鍋ですよ。お鍋の下には保冷剤。
牛丼の具、作ってきたんです。
沙樹さん、オーナーの肉じゃがを気に入って下さってるから。
牛丼でお客さまにお出しして、残ったおつゆで肉じゃがにして冷凍しておいてあげようかと、ね。だからほら、おつゆがたくさん。
狐さん、残るかなあ……。って。
おつゆだくだく~?
ああ、ママが言いそうで、食べちゃいそうですねえ。
まあ、とりあえずミニ牛丼、作れるようにしておきますよ。
もう少し煮込みたいから、厨房にいますね。
……はいはい、何かありましたか?
火を止めて、蓋をして。
わたしにお客さま?
今日、何か支払うものはあったかな。ママが忘れてた……は意外とないんだけど。
あらら、お客さま!
お久しぶりですね。
え、ジャンピング土下座の極意を習得してオンライン会議でうけを取れるようになって、仕事もうまくいくようになった? で、また作品を応募されたいの。
ええ、それはいいですけど、膝は? ああ、飛ぶふりをして飛ばない? なら、よかったです。
スミヲさん、手土産頂いたの?
あらら、北海道産メークイン。たくさん。
ご実家で? じゃあ、遠慮なく。
原稿もですか。はいはい、拝見しますから、スミヲさん、狐さん、お客さまにお酒とベーコンたちのパイ皮包みを。
ビールがお好きなんですよね。はいはい、じゃあこちら、バドワイザー。
オリオンでもベトナムでもないですか。
さっぱりしてるつながりですよ。
そうだ、狐さんはカクテルがいちばんお好きだから、あれを作りましょうね。
はい、瓶のジンジャーエールとバドワイザーで、シャンディガフです。
お客さまにも、どうぞ。そうです、ビールそのままとか、お酒は原稿を拝見してからですよね、お客さま。
はい、はい……。
よかったよかった。ちゃんとチャーハンですね。ママが叫んでいらした甲斐がありました。
テーマ『夏』だから皆さんとかぶりそうで、参加作品を読むのが遅くなった?
ああ、それはね。イメージとか読んだ本とかまんがとか。色々かぶるのは仕方ないですよ。ママはそんなこと気にしません。
参加作品じゃない作品とかほかのところから『夏』を見付けることもあるでしょうから。
さいかわ賞に応募される方にそんな方はいらっしゃらないでしょうが、もしも、がありましたらママが「これはあんたのチャーハンじゃねえだろがい!」ってなりますから。
あ、信じてます? それはよかった。
やっぱりね、安心できる主催者さんですよね、ママは。あ、スミヲさんと狐さんもうんうん、って。ですよね……え。ワインとおつまみとシャンディガフがおいしい? それはまた、ありがとうございます。
で、はい。お客さまの作品ね。
テーマを一生懸命吟味しました。書きました。それで?
はいはい、文字数ね。
難しいですよね。でも、よかったですよ。
テーマを深く見つめて、書きたいことが増えた。自分の書き方で、増やすのと削るのはどちらがやりやすいかも考えてみてください。
あとは、中身ですか。
うん、今回はね、最初がいい。読んでくれた方が読み続けてくださるように、一行目、あえて台詞にしたでしょう。しかも、たくさん考えて。
で、最後もこうできたらよかったですよね。
あ……やっぱり。
いえいえ、すごくよくなってますよ。
ええ、これからもたくさん読んで、書いてください。
はいはいどうぞ、ベーコンとポテトのパイ皮包み焼き……あれ、お客さまの分は?
あ、ママ。
え、250円になってるポテトと取り替えてあげた? 食べかけじゃないの!
お客さま、おいしいですか。まあ、それなら。
ママ、さっそく手酌で赤白ロゼを全部試そうとしない!
え、焼酎と日本酒も試す、って。
仕方ないですね、お客さま、牛丼召し上がります? 今度はビールでもなんでも、お好きなものを飲んでくださいね。
それから、はい、お客さま以外でほかに食べる方?
一人、二人、三人、え、四人?
……ママ、両手を挙げないの!
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