二丁目スナックさいかわ オーナー豆ははこ編

豆ははこ

スナックさいかわ オーナー豆ははこ編・さいかわ水無月賞に寄せて

 いらっしゃいませ。

 ママですか? ああ、ママは急用で、私はちょっと店番を頼まれたんです。

 どうぞ、こちらに。

 焼酎でよろしければ、わたしのボトルがありますから、どうぞ。

 こちらは牛乳焼酎、牧場まきばの夢。

 こっちは、米焼酎、吟香ぎんか 鳥飼とりかい

 おや、焼酎は苦手ですか。

 この二本なら大丈夫だと思いますけど、苦手でしたら……。

 え、お好きなのはビール?

 ビール、わたしも大好きです。若い頃はピッチャーで飲んで、呆れられたっけ……。

 じゃあ、シャンディガフを作りましょうか。

 そこの瓶を一本、取って頂けますか。

 ええ、そうです。ジンジャーエールの瓶ですよ。

 あ、栓抜きを使う自信がない? はいはい。

 で、ビールはこれ。サッポロクラシック。

 ふつうに飲みたいですよね。でも、あなた……そうでしょう?

 ね。さいかわママの、そっちのお客さまだ。

 もしかしたら、沙樹さんに、だったかな?ちょっと今日はねえ、沙樹さんの日じゃないんだよね。困ったなあ。


 え、わたしにですか。なんでまた。

 ああ、キープボトルのタグをご覧になった? こりゃ、一本取られたなあ。

 ええ、ええ。

 わたしはそう、顔役なんておだててもらってる、豆ははこ、って者ですよ。


 では、ちょっと用意しますので、はい、シャンディガフと、あとこれ、ジャガイモは大丈夫? ならどうぞ、ジャーマンポテト。

 ママにね、おすそ分けで持ってきたの。


 あ、おいしいですか。よかった。

 じゃあ、ちょっと読ませてもらいますね……。


 ほうほう。

 ええとね、あなたは、今回の水無月賞の投稿作品、読まれました?

 あ、何作か。うんうん、自分が投稿されてから、ね。

 はいはい。分かりますよ。

 で、さいかわママのところに来たくなった、と。

 執筆のお供は? コーヒー。いいですねえ。

 わたしはね、これ。国語辞典。いつもそばに置いてるの。

 あと、今はね、メモ帳とボールペン。鉛筆でもいいんですよ。

 とにかくね。どなたのを読ませて頂いたか、間違えたら失礼でしょ。

 そう、読ませて頂く。そのつもりで、ね。

 え。読んでもらっている自覚がなかったかも、ですか。

 そもそも、ほかの方のを読んだら、自信がなくなってきた?

 いや、書き続けてたらね、上手くなります。書いていたらいいんですよ。ただ、そのあと。どうしたいか、じゃないかなあ。

 今はね、書きたいものを書いて下さい。そのうちね、あ、これ……どうかなあ、ってなるときが来ますから。

 でね、今、肝心なこと。

 自主企画でも公募でも、ルールは守って。

 字数とか、テーマが指定されていたら、それ。

 あ、わたしがなにを言おうとしてるか、分かった?

 そう、『雨』。

 あなたのこちらのね、書きたいことを書きすぎて、しまった、『雨』! みたいにね。途中から『雨』が出てきてるの。

 でもまあ、よく組み込めてますよ。お話としてきちんとしている。

 とにかく、この主人公の内面を書きたかったんだって、よく分かりますよ。

 ただ、ね。次回は気をつけて。

 そうそう、気をつけられたらね、それがすごいことなんですよ。


 おや。『豆は賞』のこと、聞きたいの? 

 水無月賞と和菓子の水無月にからめて、小豆賞とかも考えたんだけどね。

 沙樹さんの賞の名前、カッケー! でしょう。だからね、わたしのは、これ。

 ぼんやり、とかそんな感じで、いいかな、と。

 わたしが読んでたら、ああ、これだなあ……みたいな作品に会えたらいいなあ、って賞です。

 もちろん、皆様のご著書は、謹んで読ませて頂きますよ。

 著作じゃないのか、って? 

 なんで書なのか、調べてごらんなさい。そういうのも、楽しいですよ。たまに使うんですよ、こういうのもね。


 え、ママが選んだ最終選考作品? 知りませんよう。

 わたしはわたしで選んでいい、って約束なんでね。


 さすがはさいかわママ、ですよね。


 あ、ママ。噂をすれば。


 うん、そっちのお客さまだった。

 よかったら、あとでママもみてあげて。


 飲みながらジャーマンポテト食べて、煙草吸ってから?


 もちろん、いいよいいよ。

 ですよね。

 あれ、お客さま? 顔色が。


 あらら、ジャーマンポテト、全部食べちゃったの。


 え、ジャンピング土下座でお詫び?

 いや、それ、膝痛くなるから!


 ママ、爆笑してないで止めて!


 煙草を吸い始めないで!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る