第167話 聖槍ジークフリート

「はあ、はあ、早くグラッドになって私にふりふりとおしりでも振れば、優しく天国へ導いてあげるというのに抵抗するとは愚の骨頂ですよ」

「なにが天国だ。貴様は魔神王だろ。俺が連れて行かれるのは地獄だろ!」


 息づかいを荒くして、俺に迫る魔神王。俺はいま、レ○プ魔に襲われそうになっている女の子の気持ちがちょっとだけだが分かるような気がした。


 恐怖と気持ち悪さしかないっ!!!


 とにかく俺を捕まえようとレスリングのように手首を掴んでこようとする。幸いなことに着衣がない分、柔道のように襟袖を掴まれないで済んでいるが。


 手を払ったり、避けたりしてキモい魔神王の掴みをパリィ、なんとか捕まらないように細心の注意を払っていた。ぶん殴って片付けてやりたいところだが、下手に殴りつけて手首を掴まれでもすれば元も子もない。


「ははは! よく分かってるじゃないですか。ですが悪いようにはいたしません。あなたは私の腹心として世界の半分を任せようと思います。どうですか、悪いお話ではありませんよ」


 魔法を使わなくても、素手でも俺とタメを張ってくるくらいだ。流石ラスボスと言う他ない。


「俺のけつあなに貴様の棒切れを入れる料金はそんな安くはねえっ! この世界だけじゃなくて、他の世界もぜんぶ持ってこい! この変態野郎が!」


 とは言ったものの、世界なんてまったく欲しくなかった。だってそんな広いエリアを任されたら、外回り営業を延々やらされているのと変わらない。


 やはり目の届く範囲がいちばんなのだ。


「さすが魔王ブラッド、なかなかの強欲ぶり」

「嫌いになったろ? じゃあ、俺はこれで……」


 俺がしれっと魔神王の下から立ち去ろうとすると……。


「益々気に入りました。ですがあなたは浅はかですねぇ。私がただあなたに合わせて付き合ってあげているとお思いですか? ちゃんとあなたを罠に掛けるために私は動いていたのですよ」


 魔神王は不思議な動きをしていると思った。不自然な足捌きだったが俺は防戦一方だったから、動きを制限されておりどうしようもなかったけど。方や魔神王は自由闊達に動き、その足で大地に描いていたのは魔法陣。


 魔法陣を描いた線からは紫がかった光が浮かび、光は徐々に強くなってゆく。


拘束衣ウエディングドレス


「どうですか、私のスキルは? この魔法陣の上に乗った者の動きを制限する。何人も私の束縛から逃れられないのですよ」


 魔神王のスキルにより俺は刑務所や介護施設に精神科病棟などで使われる拘束衣を着せられてしまう。


 拘束衣により両手が腕組みした状態で固定され、手はまったく使えない。しかも着衣になったので魔神王からは俺を捕まえやすくなってしまった。


 それもまたウエディングドレスって名付けるなんて、趣味が悪すぎる……。


 魔神王の変態ぶりに辟易していると奴は口いっぱいに広がった涎をハンカチで拭いながら、宣言する。


「さあ、お楽しみタイムとイキますか。もう私の分からせ棒はあなたのアナルへ入りたくて仕方ないと猛りに猛っているのですよ」


 思い切り魔神王の顔面へ蹴りを入れる。


 が……。


「カースドラゴンを扱う私が従魔より柔らかいなどと思ったのですか? やはりあなたは魔王などと周りが持て囃そうが馬鹿王子のままだ」


 まるで効いちゃいない。一応ニヤリと笑っていた魔神王の鼻から血が出ていることで、奴が生き物であるということは分かったけど。


 そのまま俺の足を取った魔神王に足払いを食らう。


 俺の身体は宙を舞うが、俺は拘束衣のまま素早くごろごろと横転しながら移動する。近寄ってきた魔神王に足払いをお返ししておいた。


 奴が転んでいる間に、このキモい魔神王をどう倒すべきか、俺は悩んで……などまったくいなかった。


 転がりながら、あの草むらへとたどり着く。


 俺が草むらに潜ませておいたのはジークフリートだ。


 身体がぼろぼろになったジークフリートを生かす手段を考えていたところ、愛の提案により奴の魂を一本の槍へ移すということになった。


 槍が声を荒げ、抗議してくる。


「こらぁ、ブラッド! ボクを足下にするなんて不敬だぞ! このボクをもっと敬え、この馬鹿兄貴!!!」

「足下になんてしてないな。むしろ貴様の方が上にいる。ありがたく使ってやるから感謝しろ」


 親指と人差し指で槍となったジークフリートを掴む、と言っても足の指でたが……。


 背中を地面へつけ、左足の指と指の間でジークフリートを掴む。


「いだだだだだだぁぁぁぁ!!! なにするんだ、ブラッドぉぉぉ!!!」


 ジークフリートが泣き言のように悲鳴をあげる。俺の足指はジークフリートをガッチリと挟み、締め付けいた。槍のシャフトがひしゃげそうなくらいに……。


「もう少しの辛抱だ、耐えろ。貴様もクソ神父に良いように使われて、ムカついているんだろ?」

「おまえに手を貸してやるのは今日だけだ!」


 ジークフリートを矢に見立て、バリスタと化した俺は己の筋力を弦として、奴を放つ。


 【魔神殺しの槍ロンギヌス】のスキルを持つジークフリートそのものが槍になったんだ、効かないはずがない!


 たぶんだけど……。


 人間バリスタから放たれた聖槍ジークフリートは対戦車ミサイルジャベリンのように飛んでゆき、動きを察知し回避しようとする魔神王をきっちり追尾してぶち当たる。


 あの粘着質な追尾性能はきっとフリージアのストーカーをしていて、培われたものだろう。


 うんうんと感心していると砂煙が収まり、魔神王の姿が現れる。


 奴は無傷……。


 なんてことはなく、ジークフリートは魔神王の中心を穿ち、地面に串刺しにしていた。


「ジークフリート、貴様にしては上出来だ」

「どうだ、ブラッド! これが本気出したボクの実力だよ。今度はおまえを貫いて、フリージアをボクのものにしてやる!」


 いいんだろうか?


 フリージアは俺の子を孕んでいるというのに……。


 ジークフリートと不毛なやりとりをしていると王冠を被った者が俺のまえに駆けつける? いや飛び跳ねてきたと言うのが正しいかもしれない。


「リッチル! 貴様、見ないうちに随分とでかくなったものだな」

「リッヂィィィィ!」


 なんせ手乗りスライムがキンスラサイズになって、再登場してきたのだから……。


「ここに来たってことは準備が整ったんだな」

「リッヂーーーー!!!」


 ボムボムとリッチルが跳ねる。


 どうやら【TS化】の準備は万端らしい。魔神王から散々セクハラを受けていた俺は形勢逆転を狙おうとしていた。


―――――――――あとがき――――――――――

な、なにぃ!? み、水着アニスがフィギュア化されるだと……。眼帯水着……眼帯水着……。待て、これはメガニケの罠だ! と、取りあえず、スマイルマークのボタンを押しておこう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る