第165話 墜ちてくる空を物理で押し返す

 リッチルの攻撃魔法により王宮内のガーゴイルはほぼ駆逐されていたが、リッチルが限界を迎えようとしていたことも事実だった。


 杉の妖精に扮していた愛だったが、愛の着ていた緑のバニースーツは徐々に胸元が大きくなり始め、パツンパツンになって、たわわがカップからこぼれ落ちそうになっていた。


 リッチルは人間が肩で息をするように上下に小刻みに揺れていた。おそらくリッチルは魔力を使い過ぎて、愛の【幼体化】を維持できなくなってきているのだろう。


 見かねたヴァイオレットが愛に外套マントを貸し与えてくれ、事なきを得たがあんな破廉恥極まりなくけしからん恰好で【教誨室ヤリ部屋】に拉致られたら、俺は自制できずにすぐにでも○精してしまいそうだ。


 どうか愛が俺の秘めた性欲に気づきませんように! と祈りを込め、バルコニーで膝を折る。曲げて、バネのように力を蓄えた膝を伸ばすと俺の身体は昇○拳よろしく天井を覆う鬱陶しい暗闇に向かってゆく。


 空に浮かぶ黒い物体からガーゴイルたちが現れ、俺に向かって一斉に襲いかかってきた。まるでスズメバチの巣に近づいたような感じにそっくりだ。


 違うのはガーゴイルたちが、俺にとってスズメバチよりも大した相手ではないということ。


 フォーネリアの衛兵たちを無力化したようにガーゴイルたちが顔に張り付こうとするが、大気圏を脱出するような速さで上昇する俺と触れようものなら勝手にガーゴイルたちはガガンボみたいに身体がばらばらになってしまっていた。


 音速を超えに超えた俺はマッハ30より速い。時速換算だと時速40000kmほどくらいかな。それくらいの速さがないと大気圏を脱出できないのだ。


 生身で大気圏脱出を体験すると『魂を重力に引かれた人間』というノースリーブに金髪グラサン男の言葉がしっくりくる。


 問題は水の女神の加護を受けた宝具をまとっていない都合でマッハで大気圏脱出を行うとマッパで

帰還する羽目になることだ。


 大きな声では言えないが俺は強敵を倒したあと精神が昂揚してしまい、俺のご子息が超元気になってしまうようになってしまっていた。


 全裸かつ女の子とイたすために臨戦態勢となった姿で地上に舞い降りるなんて、なんの罰ゲームなんだよ! と一瞬思ってしまう。


 こんなところフリージアたち女の子に見られたら、俺は極楽へ昇らされ即身仏のように干からびるまで精力を搾り出されかれない。


 まあそれも生き残って帰れればの話であるけれど……。


 夏の夜に高速道路を走っていると虫がフロントガラスにぶつかり、潰れ、とんでもなく汚れる。ちょうど今の俺もガーゴイルたちが同じような目に遭っていた。


 違うのは俺が速すぎて、すぐにでも付着したガーゴイルの肉片が燃え尽き、振り払われてしまっている。


 ついにはガーゴイルたちの膜を突き破り、俺の拳が空を覆う黒い物体に衝突するが、強い火花を放ち徐々に勢いがなくなってしまう。


 俺がアッパーで殴ったのは鱗のような感触で、デバインドラゴンに当たったときと似たような硬さがあった。いやそれより硬いかもしれない。


「はははは、いくら魔王ブラッドでもカースドラゴンの皮膚を穿つことはできないですよ」


 クソ神父が地上に落ちてゆく俺をあざ笑っていた。


「最後までやってみねえと分かんねえだろ。俺がこいつの土手っ腹を貫けたら、フォーネリア王国の愚民どもに土下座して詫びろ。そして辛酸を舐め続け、尿酸値を上昇させ尿路結石で一生苦しめ」


「はははは、やはりあなたは面白い。私の伴侶となるなら世界の半分をあなたにあげても良いです。どうです? 私と契約しませんか?」


「ククク……笑わせてくれる。俺が貴様と契約? 従属の間違いだろ? いまなら奴隷として飼ってやるぞ。住まいは豚と同じだかな。いや綺麗好きの豚が迷惑か」


「ここまで無礼で下品な男は見たことがありません。私との契約を断ったこと、後悔させてやります」


 俺は馬鹿みたいに何度もカエル跳びアッパーを敢行する。


 十回を過ぎた頃だろうか?


「はははは! まったく効きませんね。なにをやっているのですかぁ?」


 クソ神父が俺をあざ笑ってくるが、無視を決め込む。


 しかし……。


 俺はカースドラゴンを腹パンしたあと、素早く身体を宙返りさせ、直上へドロップキックをお見舞いする。その反動を使い、素早く地上へ着地。着地の際は地面すれすれで宙返りで反転させて膝にパワーを溜めて、また空へ上昇していた。


 それが千、二千と繰り返されていったとき、クソ神父は初めて俺の意図に気づく。


「まさか!? あなたはカースドラゴンを宇宙へ追放しようとしているのですかっ!!!」


「まったく……賢そうな顔して気づくのが遅すぎるな。貴様の意図など俺には簡単にお見通しだ! 俺が本気を出して、このカースドラゴンデカブツの腹に穴でも開けようなら、こいつは地上へ落下。フォーネリア王国は壊滅する。その程度の罠が見抜けない俺ではないっ!」


 俺に【サイコフレームの共振】なんてオカルトなスキルはねえが、脳筋って物体を押し返せる物理があるんだよ!!!


「んじゃ、ラストだ! 【ドーピング】」


 最後の一蹴りに渾身の力を込めるとカースドラゴンの巨体は重力に逆らい、宇宙へと旅立っていった。


 あばよ! お星さまになったら、なんか願いごとの一つでも叶えてくれよ。いまの性欲にまみれた爛れた関係じゃなくて、もうちょっとだけピュアな恋愛をできるようにオーダーするからさ。


 俺はカースドラゴンに祈りを込めて、旅立ちを見送っていた。


―――――――――あとがき――――――――――

ネトフリ最安プラン890円……6話観れるなら、1話当たり凡そ148円なのか。これはもう観るっきゃねえwww

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