第163話 話が違う!

――――【アスタル目線】


 デバインドラゴンの住まう丘からフォーネリア王宮を眺めていると大司教から声がかかる。


「恨めしいですかな?」

「いや、臣下たちに見限られ王宮を出たことに未練はない。ただ、あれで本当に良かったのだろうか?」


 父上と母上を手に掛け、クリスタという悪女をデバインドラゴンの生け贄に、我が妹ヴァイオレットをブラッドの捧げ物として、私はフォーネリア王国を未曽有の危機から救った。


 その報酬としてフリージアを射止めるつもりが……この様だ。


 彼女さえいれば、なにもいらなかったのに。


 自分の採った選択に迷いが生じていたところに大司教がフォローを入れてくる。


「なにを仰います。フォーネリア王はあろうことか、魔王ブラッドと取引をしようとされていたのです。ブラッドが万が一にもフォーネリア王国へ侵攻して来たときは講和しようと提案されました。あの様に弱腰の呆れた対応にアスタルさまは看過できないと仰った。それこそ一国とヴァイオレットさまお一人を差し出すとのではわけが違います」


「それはそうなのだがブラッドはあなたから聞いていた話とは違い、略奪や暴行など残虐な行為はしていないとの報告がきていた。これはどういうことなのだ?」


「それはブラッドがすべて隠蔽していたに違いありません。奴め、ヴァイオレットさまだけでなく、臣下たちまでおかしな術を用い、魅了したのですよ」


「しかしブラッドの力はまったく衰えていない」

「ヴァイオレットさまの尊い犠牲が効いていないとでも? ヴァイオレットさまは無駄にブラッドに貞操を捧げと?」


「そうは言っていない! ヴァイオレットは生まれてきた役目を果たしたのだ。魔王ブラッドを弱らせるという重要な役目を……」

「そうでしょう、そうでしょう」


 いつもいつも私に楯突く妹だったが、さすがにブラッドの手に掛かり、犯される姿を想像するといまさらながら胸が痛む。


 ヴァイオレットの犠牲を思うとブラッドの力が衰えていないのに良心の呵責から大司教の言葉に同意してしまう。


 だがおかしいのだ。ブラッドが本気を出せば国中の女を孕ませられるはずだというのに、そんな話はまったく耳に入らなかった。


 侍女やメイドが真っ先に逃げ出すどころか、ずっとブラッドと行動を共にしている。大司教やジークフリートから事前に聞いていた噂とはまったく違うのだ。


 それにヴァイオレットは自ら望んでブラッドの下にいるようでならない。


 両親を手に掛け、妹や臣下たちからの信頼は失ってしまったが、私はフォーネリア王国と国民をブラッドから守ったのだ!


 これほど誇らしいことはない。


 私はブラッドに勝った……。


「ごふっ……大司教……これは……」


 背中に熱さを感じたかと思ったら、熱さは身体のなかを通り、腹まで達していた。白刃が背中から腹を貫き、私は致命傷を負ったことを悟る。


「大司教、あなたは……始めから私を裏切るつもりだったんだな……」


「そんなつもりはないですよ。ただアスタルさまは力が無さ過ぎた。このあとは私にお任せください。なに悪いようには致しませんよ。魔王ブラッドに代わり、私がこの世界を支配するのですから」


 私の意識が薄れゆくなか、大司教は祭壇を用意し、なにやら儀式めいたものを始めようとしていた。魔法陣を描き終えると私に伝えてくる。


「デバインドラゴンと王子アスタルを生け贄に邪等竜王カースドラゴンを召喚し、魔王ブラッドを討ち取るのです」

「なっ!? それではおまえが魔王ではないかっ!!!」


「いまごろ気づいたのですか? 無能、ここに極まれり、と言った感じですねぇ。ジークフリートとあなたでどちらが無能かあの世で比べてみては如何ですかな」



――――【ブラッド目線】


 フォーネリア国王の代理として、ヴァイオレットが臣下たちに推戴され、玉座へ座る。甲冑姿にティアラを身につけた彼女の姿はソシャゲのFG○を想わせ、なかなかに凛々しい。


 そんな彼女が集まった俺たちに教えてくれた。


「デバインドラゴンはかつて世界を支配しようとした魔神王の使い魔であるカースドラゴンを胎内に封印していたようで、その封印を維持するために王子妃選で妃を選び生け贄としていたらしいのです」


 愛が見つけた……いや知っていたという方が正しいだろうか、玉座の裏の隠し扉を指し示し、そのなかの小部屋を漁ると古い古文書みたいな物がみつかり、代々の国王に引き継がれていたようだった。


「えっとじゃあ、俺がデバインドラゴンを殴り倒したのはマズかったか?」


「こちらの古文書には、ただデバインドラゴンを崇めよ、と書かれてあるだけで詳しいことには触れられておりません。それにあのときはブラッドさまのご判断で間違ってなかったと思います」


 危機に陥ったとき、その人の真価が問われると思んだが、ヴァイオレットは国王の代理として臣下たちをまとめ上げ、ぽんこつだった彼女は立派になったなぁ、としみじみ思わせるものがあった。


 玉座から立ち上がったヴァイオレットが俺の方に歩み寄る。凛とした姫騎士の姿に格好いいと思っていたときだった。


「あっ!?」


 ヴァイオレットは躓き、俺の方に倒れてくる。


「危ねえ!」


 俺は慌ててヴァイオレットを支えた。


「まったく変わらねえな、ヴァイオレットは……」

「変わらず私を支えてくださるとうれしい……です」


 えっ?


 それって、まさか……。


 とか思っているときだった。突然、夜でもないのに玉座の間が日食のように暗くなったのだ。


「なんだあれは!?」


 笑いが漏れるなか、臣下たちが窓を指差して顔を青くしていた。


 それもそのはず、空に浮かんだ謎の黒い物体に覆われていたから……。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、久々に来たメガニケのサブストーリーを進めてみて震えましたね。ネタバレになるので詳しくは言及しませんがやっぱりプレイヤーの心を抉ってくるものでした。○エン、人の心とかないんか!

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