第162話 直訴のはずが……

 臣下たちが固唾を飲んでヴァイオレットの回答を待つ。


 いや俺……ヴァイオレットに婚約とかそういう話は一言もしてないよね?


 そりゃ、ヴァイオレットは強情なところはあるけど、乙女ゲーの姫だけあって、気立ても器量も抜群だ。


 だけど婚約とかそういう大事な話を勝手に進めてもらっては困る。とか思っているとヴァイオレットは俺の正面に立ち、人差し指を突きつけながら宣言した。


「私は絶対に魔王ブラッドに屈するつもりはございません! いつでも勝負を受けて立つ所存です。私があなたに孕まされるのが早いか、私があなたの牝奴隷になるのが早いか、正々堂々勝負です!」


 いやどっちも変わんなくね?


――――さすがヴァイオレットさまだ!


――――魔王ブラッドに堂々した態度だ!


――――さぞ元気いっぱいなお子が期待できそう。


 俺がヴァイオレットに呆れていると彼女の臣下たちも似たようなもので、がくりと肩を落としそうになる。


 いいのかよ……あんたたちの大事な姫さまが孕まさせられるんだぞ!


 俺の心の叫びなどまったく気にも止めず、臣下たちが盛り上がってるなか、孕ませ腹さんが釘を刺しに……いや打ちつけに来た。


「聖騎士たる私の処女を奪ったのです。その責任はちゃんと取っていただきます。私をこんな淫らな女にした責任を……」


 ぴろりとスカートを捲り、土手が決壊してしまったところを見せながら……。


 幼気な少年姿の俺を犯したのはどこのどいつなんだよ!


 ヴァイオレットは俺にだけちらちら大事なところを見せてきては顔を真っ赤に染めてしまう。もしかしたら、痴女にされた責任も、とか言ってきそうで怖い。


 戦々恐々としていると大臣が歩み出てくる。


「ヴァイオレットさま、ではさっそく国王さまと女王さまに婚約とアスタルさまの廃嫡のご提案を……」


 さっきまで俺におまんピーを見せていたヴァイオレットだったがすぐに凛々しい顔へ戻り、彼女に期待を寄せる臣下たちに回答する。


「皆さんの気持ちは分かりました。ですが廃嫡は私の一存で決められる物ではありません。お父さま、お母さまにお兄さまの処遇を決めていただきます。それでよろしいでしょうか?」


 えっと婚約はヴァイオレットの勝手で決められるものなのかな?


 とりあえずフォーネリア国王にアスタルの数々のやらかしを告発し、廃嫡を直訴するということになるが、そこにただならぬ声が割って入る。


「こらっ! 暴れるな!」

「離して、離してよぉ! ちょっと! どさくさに紛れてどこ触ってんのよ! セクハラで訴えてやるんだからね!」


 クリスタはヴァイオレットの臣下たちから拘束され、俺に接近することができない。


 ごめん、しばらくクリスタは拘束しておいてもらえると助かる。ヴァイオレットの臣下たちに俺は強く感謝していた。

 


――――フォーネリア国王玉座の間。


「お父さま、お母さま、アスタルお兄さまの廃嫡を!」

「すべてはアスタルに託した。アスタルに訊ねよ」

「ですが……」


 アスタルとクソ神父の妨害がなく、玉座の間まで何事もなく通れたことは意外だったが、ヴァイオレットがフォーネリア国王に奴らの悪行をいくら訴えても暖簾に腕押しといった感じになっていた。


 玉座の間には暖簾ならぬ、濃いレース状のカーテンが掛けられ、国王と女王の表情を窺い知ることができない。


「国王さま! ヴァイオレットさまはひたすら耐えたのです、どうかご一考のほどを……」

「すべてはアスタルに託した。アスタルに訊ねよ」

「そうてすよ、アスタルに任せておけば良いのです」


 大臣が歩み出て、訴えても国王はオウム返しのように同じ返答を繰り返すばかり。そこに女王が同意の言葉を並べる。


「フォーネリア国王、俺だ! リーベンラシア王国第一王子ブラッドだ! わざわざフォーネリアまで出向いてやったというのに顔も見せない気か? それは俺に対して不敬が極まるってもんじゃないのか? 答えろ、国王!!!」


 俺は言い終わると同時にレースのカーテンを掴み、引っ張った。逆に俺の行為を不敬だと思ったのか、臣下たちが慌てて俺を止めようとするがそこはブラッド。一睨みするだけで彼らは固まってしまう。


 やっぱりな……。


「お父さま!? お母さま!?


「「「「ドッペルゲンガー!?」」」」


 国王と女王から声が発していたと思っていたヴァイオレットと臣下たちは驚いた。


 玉座に座っていたのは国王と女王の声真似をしていたシャドウゴースト類のドッペルゲンガーだったのだから。


―――――――――あとがき――――――――――

30万字で終わるつもりがだいぶ延びてしまいました……。あともう少しなんでお付き合い頂けますとありがたいです。って、前もこんなことを書いていたような……。

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