第160話 ぼっち・ざ・じゃっく
――――【ブラッド目線】
「ブラッド、そちらは……」
「いや、これで合っている」
「しかし、それでは王宮に戻ることに……」
俺の進む先に疑問を持ったヴァイオレットが訊ねてくる。
予定は未定。
当初はフリージアを救出したらヴァイオレットを伴い、フォーネリア王国をあとにしようと思っていた。
だが考えを変えた。
多少ぽんこつなところはあるが、王女にも拘らず弱者を救うという聖騎士の職分を全うしようとしたヴァイオレットに俺はいたく心を打たれた。いままで様々な攻撃を受けてきたが、何一つ効いたものはない。
だがヴァイオレットがクリスタをデバインドラゴンから守ろうとしたあのシーンは脳裏に深く刻まれ、俺は一生忘れることはないだろう。
もちろん、ヴァイオレットの実力ではクリスタを守れたかどうかは怪しい。ただそんなことはどうでもいいのだ。
ヴァイオレットの心根に感銘を受けた俺は一計を案じる。
「ヴァイオレット、貴様に問う。貴様は兄に未練はあるか?」
「ありません。お兄さまとは縁を切ったも同然ですので……」
俺がヴァイオレットを真剣な目で見つめると、彼女は頬を紅潮させながらも迷いのない視線を返し、はっきりと答えた。
「そうか、なら貴様がフォーネリア王国に残れる方法がある。耳を貸せ」
「えっ!? そんな方法が……ですが……」
「そこは貴様が事情を話せ。そうすれば疑う者はいまい」
俺はヴァイオレットにいまからでも入れる保険がある! みたいな感じで耳打ちすると「ふぁ!? ふぁん……あっ、ああっ」と誤解を受けるような喘ぎ声を出してしまう。
ヴァイオレットは俺のこと……嫌いじゃなかったけ?
まあそれはそれとして、少なくともヴァイオレットはなに一つ悪いことをしていないのに国を出て行くのはおかしいと思ったのだ。
「ブラッドぉぉぉ……いえ、智く~ん……、お願いだから置いていかないでぇぇぇ……」
もう一つおかしいと思うことが……。
和葉が転生したクリスタは俺にすがりついて、一向に離してくれなさそうだった。このまま俺がファイアブレスなんかを食らえば、汚物を消毒できるんだろうか? なんて考えがふと過った。
――――【アスタル目線】
なんたることだ……。
手折らざる花であるフリージアがすでに汚されていたとは……悪夢でしかない。
あの可憐でどこか陰のある憂いを帯びた美しさがブラッドの手に落ちるばかりか、まさか聖女であるフリージアを犯し孕ませていたなど、まさに魔王の所業!
許さんぞ、魔王ブラッド!
それだけに止まらず、私の【魅了】がまったく歯が立たんほど、フリージアの牝奴隷化が進んでいる……。
恐ろしい奴だ。
このままではブラッドにすべての女が孕ませられてもおかしくない。各国に呼び掛け、魔王ブラッドの脅威を知らしめ、反リーベンラシア連合を結成し奴を討伐するしかないか。
「アスタル殿下! 失礼いたします。ジークフリートさまの件でお話ししたいことが……どうかお目通り願います!」
「良い、入れ!」
執務室のドアがノックされ、伝令が部屋に入ってくる。息を切らした伝令から詳細を訊ねると……。
「ジークフリートがしくじっただと?」
「はいっ! ブラッドの人ならざる力によりジークフリートさまは半死半生の状態です」
大司教がジークフリートに任せておけば、万事上手くいくと言っていたのに、私の不安が的中してしまったではないか!
こんなことならば私が自ら出向いて、ブラッドに止めを刺しておくべきだった。
「なかなか悩まれておりますな。その苦しい胸の内を私に打ち明けてみてはいかがかな?」
「大司教!?」
「「「大司教さまっ!?」」」
王宮の最上階だというのに大司教がバルコニーの欄干に立っており、私を含め執務室にいた者たちが驚く。
「これは一体どういうことだ、大司教! ちゃんと説明してもらわないと困る」
「いえいえ、彼は立派な役目を果たしてくれましたよ。時間稼ぎという立派な役目を」
「時間稼ぎだと?」
「ほら、あちらをご覧ください」
「ブラッドにヴァイオレットだと!? なぜあの二人が一緒にいるっ!?」
大司教が杖を翳した先を見るとブラッドが奴のハーレムの女たちを引き連れ、王宮へと向かってきていた。
「奴をこの場で仕留めた者には貴族の位を与える! もちろん一代限りなどではなく、子々孫々にまで残るものだ。我と思う者は名乗り出よ!」
私は振り返り、臣下たちを見たが……。
「なんだと!? 誰もいないとはどういうことだ!!!」
さきほどまで執務室にいた臣下たちはすべて姿を消していた。
王宮内を探し歩いたが、もぬけの殻で臣下や召使いたちが見つかることはなく……。
「まさか皆の者が逃げたというのか!?」
―――――――――あとがき――――――――――
ルマニが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます