第158話 クズの弟にお仕置きタイム【ざまぁ】

「エーデルワイス。クリスタのことは頼んだ」

「はい、任せてください」


 エーデルワイスは俺の言葉にこくりと頷くと和葉を追い詰めるようにゆっくりと歩いてゆく。


「な、なによ! 私とやる気?」

「あなたにはちゃんと訊きたいことがあるから」


 シュシュっとシャドーボクシングの真似事をしながら、エーデルワイスを威嚇するクリスタだったがエーデルワイスは落ち着いたまま動じることはない。


 いきなり怒りをぶつけるなんて真似はしてないので、これならエーデルワイスに任せておいて良さそう。


「ではみんなはエーデルワイスのサポートを頼む」

「うん、分かった。おにぃは?」


 みんなを代表して愛が答えた。愛なら俺より頼りになるから安心だ。


「俺はあのどうしようもない馬鹿を止めてくる」

「おにぃ、気をつけて。あそこまでなると無敵の人になるかもしれないから」

「確かに……」


 女の子に邪険に扱われたことで無敵の人になった例は枚挙に暇がない。『八つ墓村』のモデルになったあの連続殺人事件も女の子に振られたことが原因だったはず……。


 俺はただ死亡フラグを回避するためだけに動いていたら、勝手に女の子たちから好意を寄せられていたに過ぎない。


 歯ぎしりをしながら拳を強く握り、怒りにうち震えているジークフリートは叫んだ。


「フランドル神父!!!  見てるなら、ボクに力を寄越せ! ブラッドを殺して吸収した魔素はすべておまえにくれてやるからさ!」


 ジークフリートが叫ぶとあのクソ神父が王宮の高い屋根に忽然と現れた。


「はははははっ! ブラッド、もうおまえは終わりだ。ボクが力を得て、おまえを倒した暁にはおまえのハーレムの女の子はボクが引き取って、面倒を見てやる。どうだ、寛大なボクに感謝しろよ」


 どうやらまだ能力を手に入れられていないのにジークフリートは調子に乗って、俺に吠えている。だが肝心のクソ神父は屋根の上から一歩も動こうとせず高見の見物を決め込んだようだった。


 イラついたジークフリートは……。


「なにしている! 早く力を寄越せ!」


 クソ神父にクレームを入れる。さながらコンビニのレジでキレてるカスハラ客を思わせるものだ。


「残念ですがもうあなたには能力を付与済みです。ついでにあなたも用済みです。短い間ですが、あなたの喜怒哀楽を観察するのは楽しかったですよ。それでは命があればまた会うこともあるでしょう。それではご機嫌よう」


「は? なんだよ、それ! おまえはボクの参謀じゃなかったのか! 逃げるのか! 出てこい! ボクと一緒にブラッドを倒して、リーベンラシア……いや世界中の女の子たちを……」


 俺がずいと一歩踏み出すと、ジークフリートがビクッと身体を震わせ、振り返った。


「ジークフリート、組む相手を間違えたようだな。貴様はあのクソ神父にいいように使われていただけのようだな。俺は貴様と違い寛大だ。俺の靴を舐め、三回回ってワンと鳴けばすべての貴様の罪を許し、王子へ復位できるよう親父に申し出てもいいんだぞ」


 俺はただ謝って欲しかっただけなんだけどなー。


 ブラッドは無茶を言う……。


 さすがに屈辱的な謝罪はプライドの高いジークフリートが到底受け入れるはずもない。


 だがフリージアとリリーは違った。


「なんとお優しいのでしょうか。私は靴と言わず、ブラッドさまのアレをお舐めして、物欲しそうにおしりをふりふりしちゃいます」

「お姉さまがそうなら、私はブラッド殿下のおしりの穴を……」


 おい、止めろ!


 それじゃ俺が二人にやらせてるみたいになるじゃないか!


「クソ! クソ! クソ! ブラッド、おまえは……ボクがいないことをいいことに二人を牝奴隷に調教していたなんて! 許さないぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 むしろ俺の方が二人に調教されてるんだが……。


 そんな言い訳しても怒りに狂ったジークフリートに通じそうにない。


 槍を手にして破れかぶれで俺に突撃してくるジークフリート。おそらく武器召喚したのだろう。


「【確死の槍ゲイ・ボルグ】だ! 刺されば、必ずおまえを貫き、無数の棘が体内をぐちゃぐちゃにして巡り、おまえは確実に死ぬ!」


「わざわざ説明してくれて、ご苦労なことだ。だが当たってやる義理はない」


 破れかぶれとはいえ、ジークフリートの刺突はなかなかのもの。射出された弾丸のように空気の層を切り裂き、ジークフリートが俺に迫ってくる。


 俺はすかさず距離を取るため、後ろに跳び退いた、あえてまっすぐに……。


「やっぱりブラッド! おまえは馬鹿王子のまんまだなぁ!」


 ジークフリートは両手に持っていた槍を右手のみに持ち替え、さらに左半身の構えから右足を一歩踏み出しながら構えを入れ替え、槍のリーチを最大限に生かして突いてくる。


「ボクはこの一撃に賭ける! いくら耐久力が馬鹿げたおまえでも、掠っただけで致命傷だ!」


 奴の態勢は崩れ、二撃目はないことは明らか……。


 俺の目が捉えた槍は空気を切り裂いた炸裂音と共に通過する。


「あっ!?」


 ジークフリートが外したと悟ったときには俺は右手で奴の胴体を掴んでいた。


「俺もな、考えたんだよ。俺の筋力を最大限に生かすスキルをな」



 俺は考えていた、脳筋脳で……。


 俺の筋力を最大限に生かすために相性の良いスキルはなんだろうかと。


 結論は秒で出た。


『リッチル!』

『リッチー?』

『貴様のスキルで俺を【巨大化】させろ!』

『リッチ! リッチ!』


 ぴょんぴょんと楽しそうに跳ねるクリアブラックのスライム。


 リッチルは俺に魔法を掛ける。


 だが俺が思い描いていたのとはかなり違った。


 リチッルにより俺の身体は巨大化というより【肥大化】していた。大きくなったのが局所的なのだ……。


『リッチル……貴様はこのヤバい股間で人前に出ろというのか? 戻せ……』

『リッチー……』


 股間だけがアームストロング砲になってしまっていた……。こんなのが入る女の子なんて竜種か、巨人族くらいなんじゃないだろうか?


 失敗したと悟り、リッチルは垂れスライムになり申し訳なさそうにしている。


『なるほど、そうか……貴様でも俺の身体すべてを大きくすることはできないのだな……。ならば腕だけを大きくすることはできるか?』

『リッチー!』


 むむむとリッチルの眉間……があるわけじゃないがリッチルの中央部分に皺がよっており、なにか集中しているように見えた。


 ぼんっと音がしたかと思ったら俺の手首から先だけが巨大化しており、拳を握ると二~三トンは優にありそうなハンマーとなっている。


『ククク……素晴らしい! でかしたぞ、リッチル! 褒美にヒヒイロカネをやろう』

『リッチ! リッチ! リッチー!』


 手を元に戻してもらい、サラサラとヒヒイロカネの粉をリッチルの頭の上に振りかけるとそのままクリアブラックの身体のなかへと取り込まれてゆく。


 しばらくするとクリアブラックの身体の中心にあった黄金色の金属は煙のようになり、消えてしまった。満腹になったのかリッチルはぽわりと息を外へ吐き出していた。



「さあ、他人ひとさまに散々迷惑を掛けた貴様だ。俺にお仕置きされる覚悟はできているんだよな?」

「ひっ!?」


 巨大化した手でジークフリートの身体を掴み、少しずつ握り込む。


「なあジークフリートよ、貴様は調子に乗りすぎたんだ。俺が貴様を何度見逃してやったと思ってるんだ? 俺はいつでも貴様を殺せた。だが殺さなかった理由はなぜだか分かるか?」


「ひぐぅぅぅっ!!! 痛い痛い痛い!!! ほ、骨がぁぁぁ!!! 肉が身体に食い込むぅ!!!」


 握る力を徐々に強めることで、ジークフリートの身体からミシミシと軋む音がする。さらに強めるとパキッ、パキッとなにかが割れた音へと変化していった。


「俺は本当に貴様へ不幸を背負った女どもを託そうと思ったのに貴様が不幸を作り出した結果、貴様には託せなくなったじゃないか! どうしてくれるんだ貴様は!!!」


「ぐるじぃぃぃぃ……。止め、止めてぐれぇぇ……、おまえはボクの兄なら慈悲を……慈悲を与えるのが筋ってもんだろう!!!」


 どこまでも上から目線のジークフリートに呆れてしまう。


「さらばだ、弟よ」


 グチャ……。


 俺は握っていたジークフリートを握り潰すとグロい音がしていた。


 終わった。


―――――――――あとがき――――――――――

ぬおーっ! ソフィエラ作りてえ!

作者の罪プラが増えてるというのにも拘らず、ブキヤめ……邪神ちゃんを発表するとかまた罪なことを……(いいぞ、もっとやれ!)

もうこれは早く原稿仕上げるしかないですね。

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