第157話 残念な前世の彼女

「お願い……助けて! 助けてくれたら……」

「うるさい! 黙らないと殺すぞ!」


 クリスタは恐怖からか顔が歪む。ジークフリートはクリスタの喉元にナイフを突きつけ、俺を脅してきていた。


「貴様……元王子のくせに夜盗以下の存在にまで堕ちたか」

「ブラッド! ぜんぶおまえのせいだ! おまえはボクの大事な物をすべて奪ったんだ。今度はボクがおまえから奪ってやる」


「どうして俺の周りにはクズ男が集まってくるんだろうな……。おかげで俺は女たちから言い寄られ、精力をむしり取られる。夜は寝るよりも女との夜伽を優先させられ、筋肉を休ませる暇もない。貴様に幾人もの女から毎日種付けをせがまれるツラさが分かるか?」


 俺は赤裸々に転生後の弟であるジークフリートに悩みを打ち明けていた。


「おまえみたいにマウントを取り、自慢話をさもつらそう語る奴なんて絶対に兄とは認めないからなぁ!!! ボクがおまえの女たちを奪って……」


 ジークフリートの演説じみた大仰な語りが止まったことに違和感を覚えた俺は周囲を見る。すると俺の周りには、リリーを初めとする女の子たちが集まっており、ジークフリートのことを口々に噂していた。


「なんと気持ちの悪い男なのでしょうか、吐き気がします」


 リリーが広げた扇を口に当て、ジークフリートを蔑んだ目で見る。まさに悪役令嬢の面目躍如といった表情は僅かの間を見ていても凍りついてしまいそうなくらい冷徹だ。


「おにぃ……愛がやっちゃってもいい?」

「止めておけ。貴様の手が汚れる。それにあいつはスパダリだ」

「ごめん、あまりのキモさに忘れてた……」


 杉の妖精改め俺の妹、愛は俺に耳打ちしてくる。俺よりも『フォーチュン・エンゲージ』に詳しい愛が設定を忘れるくらいだ。それほどジークフリートの言動は目に余るくらいキモい。


「魔王ブラッドの心中をお察しいたします。あのような者が弟であるなど、相当ご苦労されたことでしょう」

「まあな。お互いダメな兄弟を持つと苦労するな」

「はい……」


 アスタルというクズ男を兄に持つヴァイオレットにすら、俺は同情されてしまう。どちらかと言うとヴァイオレットの方が苦労していると思うが……。


 みんな、ジークフリートのキモさに注目がいって、俺がフリージアを孕ませたことには気づいていない。


 ひとまず落ち着いたら、釈明会見を開くつもりだ。


 釈明会見中に俺が不可抗力逆レ○プで関係を持ってしまった地雷系淑女のみなさんから刺されないか心配していると、ずっとフリージアのストーカーをしていた男が気づく。


「フ、フリージア……なんだよ、そのお腹……冗談でしょ、嘘でしょ、相手は誰? アスタル? いやまさかブラッド? ボクに教えてよ……」

「ブラッドさまに決まっております、私の愛するお方は彼唯お一人なのです」


 あーあ、言っちゃった……。


 俺の両腕に抱かれているフリージアはお腹の子が俺の子であることをジークフリートに宣言してしまった。


「ボクはっ! ずっと子どもの頃から! キミのことが好きだったのに! そんな男と寝るなんて、信じられないよっ!!!」


 滝のように涙と流し、ぐしゃぐしゃに鼻水を垂れるジークフリート。奴の体液はクリスタにべっとりと付着してしまう。それだけに留まらず、クリスタと密着していた腰が彼女のお尻にへこへこと当たっていた。


 いやもう放送禁止レベルにキモさがヤバいだろ……。


 俺の周りに集まった女の子たちの表情をチラと伺うと、みんなは気持ち悪さからか一様に青い顔をしていた。


「キッモ! なにすんのよ! この馬鹿っ!」


 クリスタはナイフを持っていたジークフリートの腕を振り切って、俺の方に逃げてくる。


「あ、あの助けてくださいっ! 助けてくれたらなんでもしますから……」

「貴様の返礼は絶対にいらん。ただ弟の不始末は正さねばならん。そこで黙ってみてろ」


「裏切ったな、クリスタ! 女に弱いブラッドはおまえを助けるために無抵抗になるから、人質になるふりをすれば倒せるって言ったのはおまえだろ!」

「違うの、騙されないで、ブラッド。あの男は嘘つきなんだから。ブラッドも知ってるでしょ?」


 知ってる、知ってる。


 痛いくらいに。


 小動物のように言い寄ってくるクリスタだったが、俺に近づくことはある女の子が武力で制止していた。


「それ以上、主さまに近づくことを禁止します。あなたからは裏切りの心が透けて見えます」


 クリスタの喉元には切っ先が掛かり、彼女はピタリと足を止めている。


「な、なにすんのよ、この女! ブラッド、この女を止めてよ。私はか弱いの……」


 クリスタは俺を媚びた目で見てきて、ユーセミリアの剣を下ろさせようとしていたが、ユーセミリアは更なる火種にガソリンをぶちまける。


 前世で俺の元同僚三迫だったエーデルワイスに耳打ちして、すぐに理解した彼女はクリスタに詰め寄った。


「前世でも彼を裏切ったのに、また彼を裏切るつもり? 和葉は……」

「えっ!? 誰? 誰? 誰なのっ! なんで私のこと知ってんのよっ!」


「岡田くんを裏切ったあなたがよくもまあ彼を頼れたものね。感心しちゃう」


 三迫に詰め寄られた和葉はただただ混乱するばかりだった。


―――――――――あとがき――――――――――

カドプラにヒンヌー三人衆(?)が現れました。めぐみん、御坂美琴、ロキシー……。美プラ界隈はおっぱいが大きい方が売れるっぽいんですが、作者はそんなの関係なく買いますよ! アクアさま? そちらは別腹ですwww

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る