第155話 お腹を大きくした元薄幸ヒロイン
――――【ブラッド目線】
良かった。
夫婦喧嘩は犬も食わないとはよく言ったもので、ジークフリートとクリスタが言い争っている間に、攫われたかと思われたヴァイオレットを岩場の陰で見つけた。丘は秋吉台のようにカルスト大地になっており、石灰岩みたいな岩が露出している。
そして……。
「貴様まで露出することはなかろう……」
「はうんっ! これは違うのですっ」
大きな岩の裏に隠れていたヴァイオレットはこそこそと自家発に勤しんでおり、俺に見つかったことで顔を真っ赤に染めてしまう。
さらにはダムの放流量が増えに増えまくっているところに俺が来たものだから、ダムが決壊したように噴射してしまっていた。
「もうお嫁に行けそうにありません……」
俺の目のまえでイッてしまったヴァイオレットは両手で顔を覆い、涙に暮れていた。
ただ本気で泣いているかと言うと少し怪しい。
ちらちらと指の隙間からこちらの様子を伺い、俺の出方を探っているように思えた。
「貴様ほどの器量があれば男は黙っていてもやってくることだろう。それに俺が責任を取りたくとも、貴様は俺のことが嫌いなんだろ?」
「分かっているくせに意地悪をするあなたは嫌いです……」
いや分からん……。
ヴァイオレットは拗ねたように俺に背を向け、その場を動こうとしない。
「貴様のお遊びに付き合っている暇はない。俺はフリージアを迎えにいかねばならんからな」
「私か、フリージアさん……どっちが大切なんですかっ! 答えてください!」
え?
ヴァイオレットさん、なんか急に重たくなってません?
どっちが大切もなにも女の子がいじめられていたら、助けるものじゃないのか? 俺が答えに窮しているとヴァイオレットは俺の胸を拳で叩いてくる。
「なんで優しくするんですか! 魔王のくせに……」
「魔王は関係ない。俺の女がいじめられていたら、助けるに決まってるだろう」
おいっ! ブラッド!
なんで俺の女とか変な言葉を挟むんだよ! 誤解を受けたらどうする!
あ、いやヴァイオレットからキモいって思われて、嫌な重たさはなくなるかな?
「あなたは卑怯者です!」
そらきた、ほらきた。
ここでヴァイオレットから俺は思いっきり平手打ちを食らうんだ。
最低の男だってね。
「私はフォーネリアを離れてもあなたの監視を続けます。あなたに手込めにされる女の子が出ないよう
私の身体ですべてあなたの性欲を受け止めます!!! それがフォーネリア王国王女であり聖騎士であるこの私ヴァイオレット・フォーネリアの役目なのですっ!」
まさか姫騎士さまが性騎士に目覚めちゃったとか?
――――【フリージア目線】
「フリージアっ! キミは晴れて私の伴侶となる資格が……」
私が軟禁されている部屋へとよろこび勇んで駆け込んできたアスタルの声が詰まりました。
彼の視線はいやらしくも私のとある部分に集中しておりました。
「なんなんだ……その腹は……」
「見て分かりませんか? 子を宿しているんですよ」
「誰の子だぁっ! 答えろ、フリージアっ!」
「なぜそんな簡単なことが分からないのですか? あなたに攫われたときから、ずっと言っているでしょう? 私が愛するのはブラッドさまだけ、と」
「まさか!? 魔王ブラッドの忌み子を腹に宿しているとでもいうのかっ!?」
「もちろんです! ブラッドさま以外の子を宿すことなど論外なのですから」
「くそっ!!! 虫も殺さないような顔をして、ブラッドといかがわしいことをヤっていたとは……。おまえの両親にまんまと騙されたっ!!!」
アスタルは私にまで聞こえるような大きな歯ぎしりを立てて、苛立ちを隠そうともしません。
「この代償はおまえとおまえの両親に支払ってもらう! フリージア、おまえは俺を騙した。その罪は未来永劫目覚めることのない眠りについてもらう。覚悟しろ!」
「私を眠らせても無駄です。必ずブラッドさまが熱い口づけで私を起こしに来てくれます」
「フリージア、どうやらおまえは死に急ぐタイプのようだ。ならここで私を騙した罪を償ってもらおう!」
勝手に自分の思い描いていた私の理想像と違うことに腹を立て、幻滅しているアスタル。
横恋慕とはこうも醜いものなのでしょうか?
「あなたが私に対してどう思われようが構いません。ですが私はあなたに憧れや愛情を持つことは一生ないと思います」
「この世で最後に言いたいことはそれだけか! 良かろう、ならばここで魔王の子とともに死ね!」
私が死んでもブラッドさまと私との愛の結晶だけは守らないと! そう思い、私はお腹を抱えて地面に這いつくばったのです。
「いまさら命乞いか? だがもう遅い! フリージア、ここでおまえの人生は終わりだ!」
アスタルは剣を抜くと高く掲げ、私の首へと振り下ろしたのです。
ブラッドさま……この子の顔をあなたと共に見れないことをお許しください。
謝罪の祈りを捧げたときでした。
もう刃が私の頭を捉えたと思われたとき、剣の先が偶然にも……いえ偶然なんかじゃありません。
剣の先はブラッドさまの首に当たり、二つに割れていたのです。
「ククク、なかなか楽しそうなことをしているじゃないか。俺も混ぜてくれないか? こう見えて俺はボッチなんだ」
「ブラッドさま……」
身を呈して私を守ってくれたブラッドさま……。ああ、私はブラッドさまのお子を身ごもれて、なんとしあわせ者なんでしょうか!
―――――――――あとがき――――――――――
お腹がおっきくなってしまったフリージアなんですが……実は……。
ピンポーン♪
おっと宅配便が来たようです。
「はぁ~ぃぃぃ……」
:(´ཀ`」 ∠):
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