第153話 激おこ聖女
俺の身体からほとんどと言ってよいほど、血が流れなかったことに驚き、ジークフリートは声を震わせなから俺を批判してきた。
「お、おまえは……悪魔に魂を売った魔王だ! ボクの
「いや無傷ではないぞ。しかし、おかしいもなにもこの程度のダメージコントロールすらできないのはいただけんな」
ついさきほどまで槍が刺さっていた貫通創はうっすらと残り、銃弾に撃たれたかのような星の形をしている。
「くそ! おまえがクソガキのままなら、きっとやれたはずなのにクソドラゴンめ、余計なことをしてくれた!」
あら、お下品。
三回もクソなんて言っちゃダメですよ、ジークフリートさん。
「貴様の一縷の希望を絶つようで申し訳ないが【幼体化】していても俺の能力は変わらん。なぜなら俺の能力は魔法やスキルの類でなく、ただのフィジカルに過ぎないからだ」
「うそだ! そんなことがあっていいはずがない! 悪魔に魂を売ったおまえの話など信じないぞ」
あれなのかな、俺が魔王だと信じ切って、みんな、俺を畏怖するあまりデバフが掛かっちゃってるとか……。
俺は回り道していたことが少し嫌になった。
「ふう、こんなことならオモネールたちの手を煩わせるより、貴様に頼んでおいた方が良かったな」
「なんのことだ!」
「貴様が俺の身体を傷つけられたことは賞賛に値する。なんせ俺の部下たちですら困難だったんたからなぁ!」
一応ジークフリートを誉めているつもりなんだけど、ブラッドゆえにマウントを取っているように聞こえるのは気のせいか?
フリージアがアスタルに誘拐されるまえのことだ。
俺は
その剣ならば俺を倒せると見込んだからだ。
忙しい中、平地はもちろん高山も深海も極北の地も駆けずり回ってくれた彼ら……。俺が舌を撒くほど仕事のできる彼らは見事期待に添い、俺を倒せる黒曜剣を尋ね当てた。
すぐさま俺は試し斬りを命じた。卓越した剣の技量を持つソンタックが恐る恐る黒曜剣の柄を握り、俺に刃を向ける。
『出来ませぬーーーーー!!!』
そりゃそうだろう、仕えている主人へ刃を堂々と向けられる者が何人いるかというのか。
しかも一際俺に対する忠誠心の強い彼らである。
ソンタックが黒曜剣の刃先を地につけてしまうのも仕方ないことだ。
だがそこはパワハラ上司もいいところのブラッド……。
『この腰抜けが! 貴様は俺を強くする気はあるのか? ないのなら、さっさと家に帰り母親のおっぱいを飲んですやすや眠れ! そして一生起きてくるなっ!』
うっわぁぁぁぁ……。
最低だ……。マジ最低。
俺からモラハラを受けたソンタックの顔ったらない。もう涙と鼻水の洪水で酷いのなのんの。
異世界本能寺が秒読みに入ったんじゃないかと思うほどだ。
『オモネール! コビウル! ソンタックに【
『そ、それでは殿下の御身が……』
『いくら殿下でも無茶ボフゥ……』
バフをかけたくなかった二人は俺の心配をしていたが……。
『痴れ者が! 想像してみろ! 俺の目のまえに強敵が現れれば、どうなる? 貴様たちはおろか、貴様たちの家族や領民が殺され、犯され、奴隷のような扱いを受けるに違いないっ! そうなりたくなくば早くソンタックを強化し、俺を襲わさせろ!』
『『『ブラッド殿下!!!』』』
『我々が浅はかでした!』
『そんなに深くー我々のことを考えてー』
『いらっしゃったなんてボフゥーーーゥゥゥ』
『止めんか! 男の涙など無価値だ!!!』
俺は【狂戦士化】したソンタックから滅多切りにされていた。【狂戦士化】したのにソンタックは涙を流しながら俺を斬るものだから、彼には悪いがキモいとちょっと思ってしまう。
ただ俺の目的を達することができたので思わず感嘆の言葉が漏れる。
『素晴らしい! 見ろ、この赤い血を! 俺は魔王などでなく人間なのだ、クククククク』
俺が笑うと【狂戦士化】していたソンタックの手が止まる。
『手がー! 手がー! ブラッド殿下の強さのあまり剣が震えませぬーーっ!』
『そんな!? 【狂戦士化】が制限時間も経たずに解けてしまうなんて……』
『ボフゥ……やはりブラッド殿下は桁違い……』
血を噴き出して、よろこんでいるものだからみんなドン引きしてしまったらしい。そんな血だらけの俺の下にややこしい人物がやってくる。
『なにをされてるのですかっ!』
そこにやってきたフリージアが俺の姿を見て、絶句していた。
『酷い……。ブラッドさま、こんなにも傷つけられて……いますぐ治癒を』
『ま、待て! これは鍛錬の一貫で』
『こんなにも血を流しているというのに鍛錬もなにもありません。私の大事なブラッドさまを傷つけたのは誰なのです! 怒りませんから、自ら名乗り出てくださいっ』
『これはー私がー、ブラッド殿下からー』
『言い訳して良いわけありません! いくら信頼の厚いソンタックさんでもやり過ぎです! ブラッドさまがこんなにも傷ついていらっしゃるじゃないですか!』
『あの、フリージア、これはだな……俺がソンタックに命じて、斬らせたのだ。奴を叱るのは止めよ』
『いいえ、いくら命令でもやっていいことと、悪いことがあります!』
結局ソンタックのとばっちりを受けてオモネールとコビウルまで彼女から激おこされてしまっていた。
三人には悪いが、彼らがフリージアに叱られてる間に俺は傷口を筋肉で塞ぐ鍛錬を繰り返していた野だ。
「ということだ。分かったか! ジークフリートよ!」
「なにがだよっ!!!」
ジークフリートはユーセミリアと違い、俺の心は読めないらしい。
「まったく貴様という男は俺の弟のくせにその程度のことも分からんとは……呆れたぞ」
「ぐぬぬ……」
いや分かる方がスゴいだろ……。
ブラッドの無茶ぶりに俺は驚く他なかった。
―――――――――あとがき――――――――――
歯の詰め物が取れたので嵌めてもらいに行った3日後、今度は別の歯の詰め物が取れてしまいました……。彼方を立てれば此方が立たず、人生難しいですね! (それほどの話か?)
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