第149話 先走り

 俺はアスタルに強い不信感を抱いていた。実の妹であるヴァイレットをまるで自分の手駒のように扱うような奴がエーデルワイスをしあわせにできるとは到底思えない。


 もちろん俺こそがーデルワイスをしあわせにできるなんて自信過剰なことは思ってない。そもそも不可抗力とはいえ、複数の女性と関係を持ってしまった俺は最低のクズ男であるという自認があるから……。


「グラッドさま、汗が凄いですよ」

「今日はちょっと暑いからな」

「そうですか? 私は肌寒いです」


 しかもいま、俺は仮の姿でショタ御曹司のグラッド。グラッドのまま、ブラッドを嫌うヴァイレットと関係を持ってしまった。


 なのにヴァイレットを連れて駆け落ちとか……。


 でもこのまま彼女がフォーネリア王国にいても、アスタルがいる限りしあわせになれそうにない。


 誰かいい人がいれば……。


 またリーベンラシアに戻ったら、オモネールたちを紹介しようか。


 俺の周りには、どうしてかわいそうな美少女が集まってくるんだろうな、そんなことを考えながら回廊を歩いているときだった。


「あの丘の向こうに我が国の守護聖獣デバインドラゴンの巣があります」


 ヴァイレットが指差したときに翼竜を思わせる翼が羽ばたきしているように見えた。


 ここへ来るまえにヴァイレットは俺に教えてくれていた。


『フォーネリア王国はずっと秘匿し続けていた事実ですが……正妃つまり王子妃選で一位で通過した者はデバインドラゴンの生け贄。そして二位の者、副妃が正式な王子妃となるのです』


 ヴァイレットから聞くまえから愛から聞かされ、知ってはいたが関係者から直に聞くのとでは違った印象だ。


 よりやるせない気持ちでいっぱいになった。


 エーデルワイスは途中棄権したので誰が正妃になったのか、分からない。ただデバインドラゴンの生け贄になってないか気になってヴァイレットに案内を頼んだ形だ。


「お兄さまにこんな前時代じみたことは止めようと進言したのですが、聞き入れてもらえることはなく……」


 ヴァイレットは首を横に振り、悔しさをにじませていた。


「どの時代でも常識人は苦労するものだな」

「グラッド……さま?」


 もちろんフォーネリア王国ではヴァイレットは異端なんだろう。ヴァイレットが常識人というのは、あくまで俺の前世での話。そんなヴァイレットが俺の言葉に首を傾げていたら……。


「た、助けてぇぇぇ!!!」

「!?」


 聞いたことのあるような、ないような女の子の叫び声が聞こえてきた。


「生け贄に選ばれたと思われる婦女子に違いありません!」


 ヴァイレットは甲冑姿にも拘らず、素早いダッシュを見せる。出会ったばかりの頃は残念さが目立ったヴァイレットだが、彼女なりにこつこつ努力してきた結果だろう。


 自ら研鑽に努められるなら、俺はもう不要かもしれない。


 ヴァイレットをフォーネリア王国から連れ出し、人知れずブラッドに戻れば彼女は自由の身だ。


 先行するヴァイレットを追い掛けて、丘の天辺まで登ると丘全体が巣穴になっていたようでなかには巨大なドラゴンが鎮座していた。サイズ的は王宮にあるデバインドラゴンのオブジェとほぼ一致するんじゃないだろうか。


 叫び声を上げていた女の子はドラゴンの口のなかにすっぽり身体が収まり、つっかえ棒を噛ましてなんとか生き長らえているといった感じ。


 つっかえ棒がめきめきと音を立てており、もう幾ばくも猶予がなさそうだ。


「お願いっ! 誰でもいいから助けてぇぇ!!! 助けてくれたら、えっちさせてあげるから~!」


 帰ろう。


 あの手の地雷系女子に絡むと碌でもないことに巻き込まれそうな予感がする。


「助けます!」


 えっ!?


 ヴァイレットは一言告げるや否や俺の危惧をよそに崖を滑り降りて、デバインドラゴンのまえに立って剣を構えていた。


 フォーネリア王国の守護聖獣じゃなかったのか? あんな風に剣を向けていいんだろうか……。


 と思いつつも俺の肩に乗って欠伸してるミーシャをボコった俺が言うことじゃないか。


 仕方ない。地雷系女子はどうなってもいいが、ヴァイレットとは約束がある。


 俺はそのままデバインドラゴンの腹に向かって飛びかかって行った。


―――――――――あとがき――――――――――

本作が完結しましたら、『性欲処理メイド』の改稿作業→カクヨムコン用の新作→『性欲処理メイド』の2章という順に執筆していこうかと思っております。またお時間あるときにでも読んで頂けるとありがたいです。

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