第148話 話が違う【ざまぁ】

――――【クリスタ目線】


 エーデルワイスが王子妃選を降りたことで残ったのはフリージアだけ。あの娘は決闘に参加してないから、実質私が王子妃選で一位!


 これで貧乏生活とはおさらば。


 イケメン王子の傍らで贅沢三昧の玉の輿生活が始まるの。


「うひ、うひひひ……」

「気色が悪いぞ、クリスタ。ウジ虫モンスターかと見間違えて火焔魔法で屠るところだったじゃないか」


 もうすぐそこまで来た夢の生活を思い描いて、浸っているとジークが余計な邪魔を入れてくる。


「はあ? 鏡よ鏡、このフォーネリア王国で最も美しいのはだ~れ? 『それはクリスタさまにございます』。あら、ありがとう。そうよね、私しかいないわよね、王子さまの伴侶は!」


 私が鏡を見ながら自分の美しさに酔いしれているとジークは深いため息を落とした。


「なあフランドル神父。クリスタは昨晩拾い食いをしてなかったか? どうやら危ない物を口にしてしまったらしい。元々良くなかった頭がさらに劣化してしまった。だだでさえ残念の集合体のような女なのに。フランドル神父は卑しいこいつが昨日何をしていたか知っているか?」


 拾い食いっ!?


 失礼過ぎるわ! 私はそんなこと……たくさんしてた。で、でもそれは貧乏だったときだけよ! いまは……たまにしてるだけ……。


「私は所用で出かけておりましたので……昨晩のことは殿下しかご存知ないかと」

「なるほど……。誰も知らないということか」


 神父さまに訊ねても分からなかったことで、ジト目で私をじっと見てくる。


「ジーク、あんた随分と私のことを悪く言ってくれるじゃない。でも分かってんの? 私がこの国の王子妃になれば、いずれは王妃。ブラッドに情けなく負けて、なんの地位も名誉も財産もなくなったあんたを支援してあげられるのは私だけなの。一言アスタルにジークに援助を止めようと提案したら、あんたはお仕舞いなのよ」


「ぐ、ぐぬぬぬぬ……ボクがおまえを拾わなければ野垂れ死んでいたくせに……仇で恩を返すなんて、なんて女だ!!!」

「恩を仇で返すでしょ。ホント、ジークって馬鹿呼ばわりされてるブラッドより馬鹿なんだから」


 ジークは見た目はいいけど、中身は馬鹿な見た目をしている。なんか構文みたいになってしまったわ。


「まあまあ、二人ともその辺で。クリスタさまはジークさまのお力を借りて、王子妃選一位になったのですよ。ジークさまもクリスタさまがいなければ援助が受けられないことをお忘れなく」

「「うううっ」」


 神父さまにたしなめられ、ジークは苦虫をすり潰したような顔で私を見ていたけど、私だって言いたいことがたくさんあるのよ!



――――フォーネリア王宮。


 私は異世界恋愛物に出てくるファンタジーな王宮に招かれ、メイドたちが甲斐甲斐しくお世話をしてくれていた。


「こちらのお召し物でよろしいでしょうか?」

「う~ん地味ね。もっと派手なのはないの?」

「ではこちらはいかがでしょうか?」

「それもダメね、ここにあるドレスで最高のものを持ってきて頂戴」


「畏まりました」


 あ~ん、これよこれ。こういうのでいいの。やっと巡ってきたビッグウェーブ、乗るしかないわね。


 純白のドレスに着替え終えるとジークと神父さまが様子を見に来た。


「どう? ジーク。私の絶世の美貌をまえにして憎まれ口すらでなくなったの? ふふっ、美しいって罪よね」


「馬子にも衣装というが、フォーネリア王国はよほどバフの効く衣装を持っているみたいだね。ボクの目が眩まされて、クリスタが輝いて見える。フランドル神父、【幻覚解消ディスペル】を頼む」


「はあっ!? ふざけんじゃないわよ。これはね、私からほとばしる美しさなの。ジークの目が元々腐ってるのよ」

「ボクの目が腐ってるだって? 聞き捨てならないなぁ」


「まあまあ、抑えて抑えて。とても美しいですよ、クリスタ。ジークさまはお疲れになっているのです」

「ボクは疲れてなんか……むぐぐ」


 神父さまはにっこり微笑んで、馬鹿ジークを部屋から追い出していった。


 まあ分かる人にはちゃんと分かるのが私の美貌なのよ。馬鹿には私の魅力が分からないのよねぇ。



 新郎となる者とお目通り式のため、私は王宮の回廊をずっと歩いていた。


「神父さま? ずっと廊下を歩いてるけど、どんどん王宮から離れていきますけど?」


「はい、間違ってはおりませんよ。儀式ですので王宮では行われません。あと少しですので頑張りましょう。向こうの丘にあなたの来訪を待ち、首を長くして待っておられる方がいらっしゃいます」

「ふ~ん、そういうものなのね……」



 首を長くって……。


「ドラゴンじゃんっ!!!」


 回廊は小高い丘の天辺まで続いていて、その終点には祭壇があり、祭壇の奥は穴が開いていた。穴の真ん中には大きな大きな……。


「クリスタ、我が国の守護聖獣デバインドラゴンと末永く暮らしてください」


 えっ!?


 神父さまは私の背中を突き飛ばした。私の身体は鱗に被われたドラゴンの背に当たり、地に落ちる。


「いったぁぁぁーい! 神父さまっ! これはいったいどういうことなのっ!!!」

「よろこんでください、クリスタ。あなたは竜の巫女となりデバインドラゴンの妻となったのですよ」


 グルルルルル……。


「いやちょっと!?」


 ドラゴンの長い首が私の行く手を阻み、しかもお腹が鳴り、明らかに腹を空かせているのが分かった。


「これってもしかして……生け贄?」

「ご名答! ジーク殿下と違い、クリスタの頭の回転の良さは素晴らしいですね。それでは私はこの辺で。あとは若い者に任せます」


「って、なにお見合いの仲人みたいなこと言ってんのよ!」


 グルアアァァァァァ!!!


「ひっ!?」


 死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!!!


 こんなとき智くんがいたら……。


『和葉は先に逃げろ』

『でも智くんが……』

『俺のことは気にするな!』


 智くんなら私を庇って、『俺を先に食え!』って言ってくれるはずなのに!


 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたく……。


 突然、目のまえが真っ暗になる。ドラゴンの顎が私の頭の上に被いかぶさっていたのだ。


―――――――――あとがき――――――――――

今日(10/2)、抱えていた懸案事項が解決とまでは行かずとも前進したことでひと安心しました。もう計画が進まないかと不安で仕方なかったんですよね……。ということでやる気も出たので本作をぶりばり書いて完結させたいと思います。最後までお付き合いいただけるとうれしいです。

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