第147話 混ぜると安全【ざまぁ】

「コビウ……」

「了解ボフゥ、席を外させて頂きます」


 もしかしてコビウルと心が通じた? 俺がミーシャとサシで話をつけようと思ったら、コビウルは一礼したのち、その場を離れてしまった。


 コビウルが席を外したことでミーシャの毒舌は全開となる。


「キミみたいな馬鹿でも優秀な部下を持ってるんだなぁ」


「まったくだ。優秀かつ勤勉、忠義に厚く人柄温厚……なにより俺を慕ってくれているのが涙が出るくらいうれしいね。そんな優秀な部下のお陰で俺はな~んにもしなくてもいいようになった。どうだ? うらやましいだろ」


「ふんっ! ボクに優秀な部下自慢なんてしたって無駄! ボクは一人でも優秀だからね」

「貴様が優秀……ククク、ふはははははっ!!!」

「な、なにがおかしいんだよっ! 聖獣であるボクへの無礼は許さないよ」


 俺は無能なくせしてミーシャの有能アピールに思わず吹き出してしまった。


「なにがおかしいかって? そりゃおかしいに決まってんだろ、フリージア一人守れない貴様が守護聖獣を名乗るなど笑止笑止。もう耄碌したなら、この辺で引退してみたらどうだ?」


「ボクを馬鹿にするなっ!」

「じゃあ、俺も馬鹿にしてはダメだよなぁ。馬鹿にするから馬鹿にされるんだよ、もふもふ」

「ああ言えば、こう言う、キミって奴はつくづくボクの嫌いなタイプだ!」


「嫌ってくれて結構。ただ貴様はなにかと俺に絡んでくるよな。嫌いな癖に俺とちょいちょいコンタクトを取ろうとしてくるのはなんでだろうな? 貴様はもしかしてツンデレなのか? 俺とおしゃべりがしたいというなら、それなりの態度というものがある。そこのところをわきまえてもらいたいものだ」


「おまえだってフリージアを守れなかったくせにボクだけを責めるのはおかしいね」


「本来フリージアは俺を好きになることはない。他のスパダリたちが情けな過ぎるのを見かねて、俺が手を差し伸べたら、好意を寄せてきたんだ。あいつを守るのは俺ではない」


「……スパダリたちが情けないのはボクに責任があるとでも?」

「いや~貴様の制御が拙いのは貴様の責任ではないな。そもそも貴様程度ですべてを手のひらで泳がせられるなんて思ってないからなぁ、ククク……」


「キミ、立場ってものを知ってる? ボクが世界を滅ぼせる力を持っているということを……」

「もちろん、もちろん。それで脅して言うことを聞かせることしかできない情けない奴だってこともな」


「おまえみたいな下等な生物がボクに向かって利いていい口の利き方じゃないっ!!! 【サンダーボルト】」


 ミーシャの全身の毛が逆立ち、魔法が放たれ一撃必殺の雷撃が俺を襲っていた。


「うわぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!」

「あははははは! 苦しめ苦しめ。ボクを愚弄した罪だよ」


 俺が雷に撃たれたように身体を痙攣させるように震えているとミーシャの顔が醜悪に笑う。カメラがあれば撮ってフリージアに見せてやりたいもんだ。


「這いつくばってボクの足裏に口づけするなら、許してあげてもいいよ~。早くしないと焼き焦げて死んでしまうかもね~」


 人が苦しんでいるのに笑うとか、一之瀬と同様の人間……いやもふもふか。


 俺が苦しがってるのがよほどうれしいのかお腹を抱えながら、けたけたと笑っていた。


 愛のクズクラスメートたちとまったく同じ。


「ほらほら足りないならもっと強めてあげるよ~」


 ミーシャは「ピカー!」とか鳴くかわいいもふもふのように眉間に皺を寄せると俺に当てられている電撃を強めた。


 そろそろ茶番にも飽きてきたので……。


「あ~、めちゃくちゃ気持ちいいわ。最近、子どもの身体で慣れないものだから疲れ気味だったんだよな。貴様の電撃はそれなりのマッサージになったぞ。ほら見てみろ、汗が出ているからな」


 産毛の生えたつるつるお肌の前腕をミーシャに見せつける。そもそも大電流で高圧の電撃を食らっているのに普通に動ける方がおかしいのかもしれないが。

 

「なっ!? 本当は効いてるんでしょ! 痛いはずだよ、だってボクが放つ【サンダーボルト】なんだから!」


「いや。本当のことを言ってるんだがな……。まだ凝りがほぐれてない。電流が弱いし、強められるなら強めてくれ。そうしてもらえると助かる」

「うそだ! うそだ! うそだ! おまえはただの噛ませ犬に過ぎない存在なんだ! ボクより強いなんてことがあっていいはずがない! そうだ、世界を滅ぼせばボクが一番凄いんだよ! そうだ、その手が……」


「なあミーシャ、コビウルが引きずっていった物体をちゃんと見たか?」

「なんかキモいモンスターを引きずってな。それがなにかあるっていうの?」

「貴様もああなりたいか、と訊いている」


「キミは本当に馬鹿だなぁ、ボクがあんなモンスターに……」


 ふっ……と音を立てミーシャのしっぽの先の毛がはらりと宙を舞っていた。


「なにをしたんだっ!」

「ん? 俺が保護した女の子にユーセミリアっていう盲目の子がいてね、その子の真似をしてみた」


 本来は刀で抜刀しないといけないが左手で右手の小指を強く押さえて、その押さえを外すと風の刃があらゆる物体を切り裂く。


「どうだ? 俺の【エア居合い】は?」


 エアプと風の刃を掛けてみたんですがどうでしょう?


「ボ、ボクを脅しているつもりかい? 仮にキミがボクを殺しでもしたら世界が破滅する。そんなことになってもいいのかな?」


「やだなぁ、俺が聖獣のミーシャを殺すだなんて。殺したりなんかしないよ。だって俺、『フォーチュン・エンゲージ』のがばい世界観は嫌いじゃないんでね。ただ勘違いはするなよ。殺さないってだけで、貴様がモンスターと言った男マクシミリアン同様の異形にはなるんだからな!」


「なっ!?」

「どうする? 俺の靴の裏を舐めるなら許してやるが……」

「ぐぬぬ……ぐぬぬ……」


 俺が椅子にふんぞり返って足を組み、足裏を見せるとミーシャは前脚で俺の靴を抱え、そーっと舌を出した。


「貴様が俺の部下として手足となるなら、悪いようにはしない。励めよ、もふもふ」

「くっ、くっ、くっ、ぐぬぬ……」


 ミーシャは抱えたまま固まり舐めようとしない。やはりプライドが邪魔しているようだ。


「残念だ。部下になれば美味しい猫缶をやろうと思っていたんだがな。もういらないな。ケロヨンの奴、食べるかなぁ?」

「ミャミャッ!? なぜそれを早く言わないんだよ! なるなる! なるから早く頂戴!」


 聖獣がまさかこんなにチョロいなんて……。

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