第146話 あれはいいツボだ【ざまぁ】
「遅いぞ、コビウル」
「ボフッ! も、申し訳ございません」
俺の言葉に冷や汗を掻いて焦るコビウル。
遅いどころかジャストタイミングなんだがなぁ。
そこはブラッド語が出てしまう。ただ以前のブラッドに比べると丸くなっているようで……。
「いやいい。よく来た。あとで茶でも飲むぞ」
「ブラッ……グラッドさまとお茶が飲めるなんて恐悦至極にございまボフゥ」
「おっとまったりしている場合ではない。さっさとあの細切れ肉を壺に入れなくてはな。コビウル、頼めるか?」
「はい、よろこんでボフゥ!」
「あ、いや冗談だ。俺が入れる」
まさかよろこんで、バラバラ死体になりかけのマクシミリアンを壺に入れる作業を手伝ってくれるなんて……。
苦楽を共にできるのが友だち。
コビウルたちはもう俺の部下じゃなく、友だちと言える存在だった。向こうはそう思ってなさそうではあるが……。
ごろっと転がったマクシミリアンのパーツ。切断面はきれいなもので血などはほとんど出ていない。
ユーセミリアは見慣れる……もなにも見えないが……女の子たちに見えないよう現場を布で覆ったコビウル。俺はその間にもコビウル持参の壺へジークフリートのパーツを入れてゆく。
壺の口は小さいのに明らかに大きいマクシミリアンのパーツが吸い込まれていった。
二人で作業を協力して終えたところで訊ねた。
「貴様と俺は友だちだよな?」
「ボフッ!? 滅相もございません!!! そんな我が主と友だちなどと畏れ多い……」
「そうか、なら仕方あるまい。だが俺は貴様のことを友だちだと思っている」
「ありがたきしあわせボフゥ~ううっううっ」
「泣くな! 鼻水を垂らすな!」
「あううう~、う、うれしくて涙が止まりませぬ」
禍が去ったことでコビウルの疲れを癒やしてもらうためにこじんまりとした茶会を開いていた。
俺の足下にはコビウルが持ってきてくれた壺がある。壺は『嘆きの壺』と呼ばれ、かつて位人臣を極めた太股の太いどエロい女錬金術師が事故でバラバラになってしまった恋人の身体を再生させるために用いたとされる呪いのアイテムなのだ……。
くぅぅぅん……。
リリーがゲージから放っていたケルベロスのケロヨンが俺の足に頭を擦り付け、愛らしい声を上げていた。
「おう、貴様もなにか欲しいのだな。よかろう干し肉をくれてやろう」
あうっ、あうっ、あうっ!
三枚の干し肉を差し出すとケルベロスは俺の周囲を回りながら全力でしっぽを振っていた。頭を撫でると目を細め、他の頭も撫でてとせがんでくる。異形でもこうやって愛らしい姿を見せられると絆されてしまう。
ケルベロスは三つの首ごとに一枚づつ与えられた干し肉を平らげた。
この子たちと言って良いのか分からないが『嘆きの壺』により『フォーチュン・エンゲージ』の魔獣ケルベロスが産み出されたとされる。ケルベロスが存在するならと俺は先んじてオモネールたちに探索させていた。
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【三十分】
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どいう仕組みなのか分からないが壺の胴の文字盤にはそんな表示が出ている。乙女ゲーム世界なのであまり深く突っ込むと頭が痛くなるので深入りは禁物だ。
マクシミリアンが再生されるまでにしばらく時間がかかるようなので歓談を楽しんでいるとコビウルが困り顔で愛に訊ねていた。
「忠臣を問い詰めたら、リッチルを連れていったと。オモネールは予想を立てました、愛さまは変身しているはずだとボフゥ」
「うう、さすがおにぃの頼れる部下ぁ……降参」
「ボフボフ……あのときは不覚を取りましたが、二度と無様な失態はとりますまい」
「マドレーヌがあるんだけどなぁ~」
「なんですと!?」
「見逃してくれたらあげちゃってもいいけど、どうする?」
「いただきますボフゥ」
マジチョロい……。
どうやらコビウルは愛に一服盛られ寝てしまい、逃走を図られたらしい。なのにこれである。
ただ愛が無事ならコビウルを叱責するつもりはない。甘いと言われるかもしれないが……。そもそも監督不行き届きなのは前世で兄である俺なのだ。
チーン♪
まるでコンビニの電子レンジが温めを終了したかのような音が響いた。
「みんな目を瞑れ。俺が言うまで開けるなよ」
「え? なになに?」
「いいから目を閉じていろ。貴様らには見せたくないからな」
リリーが何事かと興味を示してくるがあとで散々文句を言われそうなので予め指示しておく。俺の足下から木陰に隠した『嘆きの壺』。
「さすがにこれは気色の悪いものボフゥ」
「まあな。ただ俺は生きていれば問題ない」
「このオレがキモいだと!? こんなイケメンを捕まえてなにを言ってやがるっ!」
復活したマクシミリアンが騒ぎ立てているが自分の姿をまだ見ていないようだ。壺の外にはマクシミリアンと思しき身体があるがコビウルと二人で布で覆い女の子たちから見えないよう配慮する。
その後、壺を用いた女錬金術師についてなのだが、恋人を復活させたはいいものの本来と違う箇所にパーツがくっついてしまったことに絶望し、再生した恋人とともに死を選んだエピソードが語られていた。
「うそだろ、おい! なにやってくれたんだよ!!! こんなんじゃ人前になんて出れねえだろうがよぉぉ!!!」
『嘆きの壺』はマクシミリアンの頭を前後逆に、上腕に膝から先を、太股には前腕を接合していた。
「なかなかの唯一無二のイケメンじゃないか、相当モテるぞ。見世物小屋でな」
「高く売れそうボフゥ、ボフボブフフフ」
コビウルとマクシミリアンのニューボディを褒め合っていると気配を感じた。
「そこで見てるんだろ! クソミーシャ!」
「ミミミャ?」
白い獣の姿を現したものの、人前だからか人語を喋ることはなかった。
―――――――――あとがき――――――――――
どうでもいい豆知識。
乙女ゲーのアンジェリークと錬金術シリーズは同じコーエーテクモから出ております。いえ本作とはまったく関係はございませんよ。
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