第139話 前世を思い出した聖女
――――【リリー目線】
「リリエルさん、こちらをグラッドさまからお預かりいたしました」
盲目の女剣士ユーセミリアが戻ってきて、私にひと欠片のレンガを渡したのです。まさかブラッドさまがこんなお姿に!?
「リリエルさん? こちらはグラッドさまではありませんよ」
「おほほほ! 分かっておりますわ、そんなこと……」
恐ろしい子……。
私の心を見透かしてきて、丸裸にしちゃう。
ああ……ブラッドさまのまえですべての衣服を脱ぎ捨て、彼の視線をすべて浴びて視姦されたい……。
とろとろ流れるブラッドさまを恋しく思う涙を彼がすすって……。
「あの……リリエルさん……私まで恥ずかしくなってしまいますので恥ずかしい妄想はお一人でお楽しみいただけると助かります……」
はっ!?
ユーセミリアは顔を真っ赤にして羞恥に塗れているよう。彼女は心が読めるというより感覚を相手と共有できてしまうのかも……。
「ユーセミリアさん、勝手に人の心のなかを覗くのはいいご趣味とは言えませんわよ」
「ごめんなさい……そんなつもりは……。それよりも今はグラッドさまのことを……」
「ええ……」
かなり逸れてしまいましたので、彼女に従いレンガに刻まれたブラッドさまの金言を確認しました。
「そうですか……グラッドと顔を合わせられないのは残念の極みですが、弟がそのような判断をしたということはなにか考えあってのこと……。またユーセミリアにお願いするかもしれませんがよろしくお願いいたします」
意外でした……。
すぐに戻ってこられると思っていたのに。
ブラッドさまも、お姉さまもいない……。
こんなときは私がしっかりしないと。
【アスタルはクズだ!】
レンガに掘られた文字になにも驚きはしませんでした。だって私にとってブラッドさま以外の男性はすべてクズなのですから。
私は隣の部屋で休んでいたエーデルワイスを呼び出し、伝えたのです。
「エーデルワイス、グラッドは王子妃選を辞退した方がいいって言ってるの。あなたの意思が訊きたいわ」
「グラッドさまがそう仰るなら降ります」
「理由は訊かないのね……」
――――【エーデルワイス目線】
ずっと感じていた懐かしさと優しさと温かさ。冬の雪が溶けるようなゆっくりとした早さだけど前世の記憶が私の心のなかに蘇ってくる。
グラッドさまの女性に対する接し方は前世で職場の同僚だった岡田智くんにそっくりだった。前世では男運にまったく恵まれず、一ノ瀬みたいなクズ男に騙されてしまうこともあった。
だけどそんな私に手を差し伸べてくれたのは岡田くんだった。岡田くんのことが気になって仕方なかったけど、悲しいかな彼には彼女がいた。
私は彼の幸せを願い、そっと身を引いたつもりだったけど、まさか岡田くんが一ノ瀬に殺されてしまうなんて思っても見なかった。
グラッドさまがユーセミリアさんを助ける際に見せた優しさは前世で同僚だった岡田くんそのもの。それにユーセミリアさんが小声でグラッドさまに囁いていた一言一句を私は聞き逃しませんでした。
彼女の言葉で私は確信にいたりました。
「二度目の人生は愛する人のために生きたいと思います」
「えっ? エーデルワイス、どうしちゃったの!?」
リリエルさんが意思が薄弱だった私の変わりようを見て驚いていた。
これはゲーム世界。
そして私は『フォーチュン・エンゲージ3』の女主人公で聖女の力を秘めている。
ならグラッドさま……いいえ、岡田くんが幾人もの女の子に愛されていようとも関係ない。私はただそのなかに入れてもらうだけ。
一番にはなれなくても前世よりも彼のそばで過ごしたい……。
―――――――――あとがき――――――――――
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