第135話 托卵

「もう泣かなくていい」


 俺を傷つけ、なにもできないでいたことで泣きじゃくっていたユーセミリアの下へゆく。心根の優しい子なんだろう。


 額の瞳がぎょろりと俺を睨んでくるが左手で彼女の頭を撫でると同時に動きを制限する。


「少し痛むかもしれないが耐えてくれ」

「はい……」


 右手で俺を睨んでくる眼の窪みに親指と中指を突っ込んだ。


「ううっ……」


 ユーセミリアが疼いたような声を上げるので思わず手を引きそうになるが、そのまま摘出作業を続ける。


 指が眼窩の奥まで達し、親指と中指がなかで触れ合ったかと思うとすぽんといった感じでユーセミリアの第三の眼が取れた。


 ふう……と俺は胸を撫で下ろす。


 眼を取ったことで血が噴き出るかと思ったら何事もなく、それどころか額の眼窩は埋まりまぶただった切れ目は消えてなくなっていた。


 ユーセミリアは疲れたのか、ふらふらと俺の腕に収まる。蛇になってしまっていた髪は美しい黒髪へ戻っていた。ただ失恋してしまい長い髪をばっさり切ってしまった女の子みたいで申し訳なさが立つ。


 俺に凄まじいほどの絶技を披露してくれた彼女だったが腕に収まった彼女は華奢な女の子にしか見えない。


 一体どれほどの修練を積んだというんだろうか。


 取れた眼を観ると瞳を模した水晶玉のような物で杉の子が教えてくれたとおり義眼のようだった。だが取れてもなお瞳孔が俺を睨んでくようで正直キモい。とりあえずハンカチに包んでポケットにしまっておく。


――――グラッドさま、格好良すぎる!


――――女の子を助ける姿に感動した!


 彼女を抱えて舞台を降りようとすると観衆から拍手喝采が飛んできて、どう反応したら良いのか戸惑ってしまう。


 だが観衆たちの拍手とは裏腹にそれをよろこばない者たちもいるようで……。


 ユーセミリアの下へと彼女の寄親が近づいきた。


 だけど……。


 近づいてきた瞬間、地面に二つのボール大のモノが転がっていた。俺はユーセミリアをお姫さまだっこしたまま寄親だった物体の間を抜けていく。


 通り過ぎたあと、観衆たちの悲鳴が会場に響いていた。寄親だった肉塊から噴水のように鮮血が噴き出していたからだ。


 ユーセミリアは俺に抱かれたまま白杖を持っており、目にも止まらぬ速さで抜刀、二人の寄親の首を一瞬の内に跳ねていた。


 誰もその神速の抜刀に気づけないでいる、俺以外は……。


 寄親を斬ったユーセミリアに変化はない。むしろ俺にだっこされていることの方が頬を赤らめるという変化しているくらいだ。


 彼女が恐ろしいと思った理由はただ抜刀が神速の域に達しているからじゃない。


 とにかく起伏がないのだ。


 人間、怒りだとか恐れだとか、いざこざから殺人に至るケースはたくさんあるけれど、その感情のもつれゆえに起伏は激しい。


 極端な例だと激高のあまり人を殺めてしまい、冷静になったあとで後悔してしまうなんて例は枚挙に暇がない。


 だけどユーセミリアは静かに呼吸するかしないかくらいの起伏くらいしか起きない。


「良かったのか? あいつらは貴様の両親だったんじゃ……」


「いえ、違いますので大丈夫ですよ。彼らは組織の人間で私を攫い殺人術を植え付けた者たちです。私の両親は彼らに殺されましたから。それにこれは彼らの言いつけを守っただけです。『敵は必ずれ』と」


「なるほど確かに忠実だ」


 まあ彼らもユーセミリアの敵になってしまうとは思ってもみなかっただろうけど……。


 ユーセミリアの髪は蛇が邪魔でそこそこの数を切らせてもらった。おかけで彼女の頭髪は失恋してしまいばっさり長い髪を切った子のようになってしまっていた。


 責任感じるなぁ……。


 俺がユーセミリアを抱えたままでいると杉の子が頬を膨らませている。


「おにぃはかわいそうな女の子を見るとネコちゃんみたい拾ってくるー」

「ああ……済まない。って愛よ、おにぃって呼んでしまってるぞ」


 はわわと両手で口を塞いで、愛はあわわ顔になってる。冷静沈着を通り越して、ダウナー系無反応だった妹がおかしくなっていた。


 俺には心当たりがあった。


 愛とえっちしてから、彼女はおかしくなったような気がする。確信はないけど……。そういう意味では普通の女の子になったとは言えるんだけど。


 愛の方を向いたユーセミリアは俺との関係を予想する。


「グラッドさま、そちらのお方とは深い深い繋がりを感じます。ただの恋人というわけではなさそうですね」


 なんと!?


「そちらの明るく華やいだ方も恋人……、そちらの落ち着いた方は前世でグラッドさまと仲が良く、一方が強く想いを寄せていたようですね」

「ユーセミリア……よろこべ、貴様は占い師として生きて行けそうだ」


 くすくすと笑うユーセミリア。


「前世? グラッドさまと私が前世でなにか……ううっ、頭が痛い……」

「えーちゃん、大丈夫?」


 エーテルワイスはユーセミリアの言葉に頭を抱え始める。愛がエーテルワイスを心配し、撫でていた。


 俺も彼女の下へ寄ろうとしたときだった。


「グラッドさま! 大変です!!! フ、フリージアさまが……」


 ヴァイオレットが真っ青な顔をして、こちらにやってきたのだ。ユーセミリアを下ろすと彼女は寂しそうな表情を見せるが、ヴァイオレットは関係なく俺に耳打ちした。


「フリージアがどうした?」

「は、はい……彼女は妊娠しているようで……」


 は? それって期間的にみて俺だよな、父親は……。


「アスタルは知っているのか?」

「いえ……まだ兄には……。フリージアさまと話しているとつわりのような症状を見せられたので……」


 このまま放っておいたら托卵じゃん……。


―――――――――あとがき――――――――――

やーっ! ちしかん活動は佳境に入り、ルージュを無事仲間に加えました、パチパチパチ! え!? ファントムとクインシー:エスケープクイーンですと!? くっ、メガニケ運営は周年前だといのに我々からいくら石を搾り取ろうとするんだっ!!! はい、引きますw

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