第132話 第三の目
俺は盲目の美少女と肩がぶつかってしまう。
「申し訳ございません……こちらの不注意をお詫び申し上げます……」
腰まである長い黒髪は彼女の失った瞳の輝きの代わりに美しく艶のある光を放っていた。
「いえ、こちらこそ不注意でした。ごめんなさい」
従者も連れずに白杖を頼りに一人で歩く彼女に、話に夢中になり当たってしまったことを申し訳なく思ってしまう。
「ごめんない……」
杉の妖精も俺と行動を同じくしていた。現代人らしく障害がある人に対して、人権意識と言って良いのだろうか、優しくしないといけないと教わっているため申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「俺は……」
「はい、グラッドさまですよね。存じております。お優しい方々でうれしく思います。私、ユーセミリアと申します。何卒お手柔らかに」
俺が名乗ろうとすると盲目の美少女が先に言ってしまう。決してこちらが見えているわけではないのに明後日の方向ではなく、こちらの正面を捉えユーセミリアと名乗る美少女は口角を上げ俺たちに微笑んでいた。
親しいご近所に挨拶をするかのような物腰の柔らかい口調で告げたユーセミリアは軽く会釈すると白杖で地面に触れ、行ってしまった。
「彼女が次の決闘の相手……なのか?」
「そうだね……グラッド、彼女は見えてると思うから気をつけて」
「見えてるだと?」
「眼は見えないけど、心の眼で見えてるの」
杉の妖精のアドバイスはどこか観念めいたものがある。
しかしユーセミリアの眼が見えていようが見えていまいが困ったことになった。
――――決闘当日。
黒いレース生地のブラウスとスカート、大きなリボンのついたヘッドドレス……ゴシックロリータの衣装を身に包んだユーセミリアが舞台へと上がる。
「本日はお日柄も良く、またグラッドさまとお会いできてうれしく思います」
「ボクもお姉さんみたいな美人と会うことができてうれしい」
「ごめんない、私は自分の顔を確かめる術がございません。なので美人なのかそうでないのか分かりません。ただお褒めいただいたことに感謝申し上げます」
「いえいえ、本当のことを言っただけですら」
俺の誉め言葉にユーセミリアは照れてしまったのか白い肌が紅潮している。ユーセミリアが醸し出す雰囲気はおおよそ今から決闘しようなんて雰囲気じゃない。これで日傘でも差していれば、これからピクニックとかお茶会始まりそう、そんな感じだ。
ユーセミリアが手を差し伸べてきて……。
「どうぞお掛けください」
「え、ええ……」
いつの間にかバラソル付きのテーブルと椅子が用意されていたので俺はユーセミリアのお誘いもあり座ってしまう。これは運営が用意したものではなく、ユーセミリアの用意した物だと気づいた。
なにか罠があるのかと内心警戒したが特に変化がなく、着席を促した本人も腰掛けており今から決闘なんてするの? みたいな雰囲気になっている。
そのときはっと気づいた。
観衆の声がかき消されており、リリーたちの声までも聞くことができない。
おそらくユーセミリアの固有領域に入ってしまったのかもしれない。
だがユーセミリアは攻撃どころか、テーブルに用意されていたポットから紅茶を俺のカップに、そのあと自分のカップにも注いでいた。
ユーセミリアは「お先に失礼いたします」と一言告げ、注いだ紅茶に口をつける。毒など入っていませんよ、というアピールのようだ。
固有領域に入ってもユーセミリアから敵意というモノが感じられない。自意識過剰と思われてしまうかもしれないが、むしろ好意に近いモノを感じる。
フォーネリア王国へ出立するまえに愛から忠告を受けていた。
【おにぃは女の子には手を上げられない。そこを利用されないように気をつけて!】
確かに自分から女の子に手を上げるような真似は絶対に無理だ。その点、DVの噂がつきまとっていた一ノ瀬が凄いな、と思う。絶対にああなりたくない典型例であるが……。
俺がユーセミリアに淹れてもらった紅茶を啜る。
特段変な味がするどころか、普通に美味い茶だ。
「ふふっ、飲まれましたね。実はその紅茶には毒が入っています」
「なんだと!?」
紅茶を口につけるまえ、ユーセミリアに変化はまったくなかった。ユーセミリアが緊張をすれば俺のスキル【
不随意筋を随意筋として扱える俺にとって入ってきた毒など、胃をゴムポンプのように操作し、瞬時に吐き出すことなど造作もない。なのでユーセミリアが馬脚を表さないか、様子を探る。
「はい、私を好きになってしまう甘美の毒です。私の愛液を煮詰め、シロップとして含んでおります」
なんて物を入れるんだよっ!!!
突っ込みとともに吐き出そうと思ったが、フリージア、リリー、愛に顔騎され毎日母乳のように愛液を飲まされるていたことを考えるとユーセミリアのだけ吐き出すのは失礼だと思えた。
「グラッドさまはどのような女性がお好きなのですか?」
「貴様みたいに庇護欲をくすぐってくる女ははっきり言って好きだ」
「うれしいです」
「ただし、愛液を紅茶に盛るような女は嫌いだ」
「うれしいです」
???
俺……彼女に嫌いだと言ったよな?
だがユーセミリアは頬を赤らめ、微笑んでいた。
―――――――――あとがき――――――――――
作者、数ヶ月前に買い積み本になっていたあの本を読み始めました。『同志少女よ、敵を撃て』です。分厚さと戦記物(?)の雰囲気から難解な文章を想像していたのですが予想に反して、かなり読みやすい。それもそのはず、こちらの作品はカクヨムに……(詳しくは触れてはいけないw)。
読みやすさはWeb小説を意識されたものだったのかもしれません。興味のある読者さまはお手に取られてみては如何でしょうか?
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