第131話 盲目の美少女

 リーゼの一件を受け、自らの命惜しさからか、五名の妃候補が辞退してしまう事態になっていた。そんななかでも気を吐くマクシミリアとスノリの戦いを仲間たちと観戦している。


 一体全体どういうトリックを使ったのか分からないがマクシミリアンはマクシミリアと名乗り、どこからどう見ても身体つきから声までも女の子になっているようだった。


 マクシミリアとスノリは共に赤い羽根付き帽子に白いくて大きな襟、そして原色のジャケットとマントを纏っており、まるで三銃士のような格好をしていた。


「そこのあなた! 剣の錆びになりたくなければ、この勝負降りてください」


 二人の違いと言えばスノリが眼鏡を掛けていることくらいか。生真面目そうなスノリが細身の剣を抜き、マクシミリアに切っ先を突きつけながら言い放つ。


「あははは、面白い冗談を……その減らず口を永遠に閉じさせてあげる」


――――いいぞ! もっとやれ!


――――美少女剣士同士の対決じゃねえか!


――――尊いっ!!!


 決闘を楽しみにしている観衆から大きな声援が飛んでおり、どちらの声援が優勢なのか分からないくらい二人の人気は二分されている。


 ただ俺は、元のマクシミリアンを知っているだけに美少女かつ女言葉になってしまった奴を見ると想いは複雑だ。


 お互いに細身の剣を抜き、対峙する。


――――始め!


「食らいなさい!」


 見届け人の合図が掛かったことで、まずスノリが仕掛ける。歩を進めながら素早い突きをマクシミリアの肩を狙い放っていた。


「あなた実力ってば、この程度なの?」


 ひらりひらりとマクシミリアはスノリの突きを回避しながら間合いを詰めてスノリの耳元で囁き、挑発していた。


「くっ!? 馬鹿にしてーー!!!」


 怒ったスノリがマクシミリアに斬りつける。


「おっと! 危ない危ない」


 後ろに飛んでマクシミリアは剣で受けもせずにスノリの斬撃を軽く捌いてしまう。


 着地するとマクシミリアの乳房が波打って揺れる……。その動きはパットを入れたような揺れ方ではなく、ごくごく自然だった。


 まさか胸にスライムでも仕込んでいるんだろうか?


 ここはスノリに頑張ってもらい、是非ともマクシミリアの秘密を暴いてもらいたい。俺はマクシミリアの脱衣を願ったのだが、俺の想いとは裏腹なことが起きる。


「茶番はおしまい。弱いあなたに付き合っている暇はないの」


 俺の記憶の片隅にあるマクシミリアンは原作で復讐に炎を燃やすイケメンだったが、俺が出会ったときはかなり情けない奴になっていた。


 それが今や何が起こったのか不思議なくらいイケメンぶりを発揮している。


 まあ余裕ムーブからのざまぁ敗戦はありえるが……。


「スラッシュアロー!」

「くうっ!」


 マクシミリアの刺突でスノリの右肩の袖が切り裂かれ、じわりと鮮血がにじんでいた。


「あはははは! あはははは! 最も切れろ、切れろ! そして肌を晒してゆけっ!」


 マクシミリアは興奮しながらスノリの服をレイピアで切り裂いてゆく。


「どうだ、どうだ! 見切れまい!」


 いつの間に絶技とも言える剣技を身に付けたのだろうか? いや元々そういうキャラだったか……。


 とうとう下着だけになってしまったスノリ。褐色の肌ににじむ無数の鮮血の筋が痛々しい……。


 マクシミリアは剣を高く掲げ、声を張る。


「みんなに聞くよー! こいつを全裸にして欲しい奴は声を上げろ!」


――――わーーーっ!


――――やっちまえ!


――――全裸! 全裸! 全裸!


「あははは! 分かってる分かってる。きっちり剥いてあげるからー!」


 スノリはそうはさせまいと間合いを取り離れるが、マクシミリアはまるで細身の剣が伸びたかのような錯覚を起こさせる突きでスノリの上下の下着を斬りつけた。


――――わーーーっ! わーーーっ!


 舞台にはらりと落ちるスノリの下着に男の観衆は沸きに沸いていた。スノリは相当プライドが高いのか全裸にされても胸を左腕で覆い、股間で剣を構え具を隠していた。


「あははは! スゴいな、その闘志だけは讃えてあげる。だけど精神論だけで勝てるわけないよねぇ~」


 マクシミリアはスノリの剣を弾いて飛ばす。ついに頼みの剣がなくなってしまい、心の折れたスノリは舞台の床にへたり込んでしまった。


「勝者マクシミリア!」


 俺はライバルにも拘らずスノリのまえに飛び出して、ローブで彼女を覆っていた。


「お姉さん、大丈夫?」

「ううっ、ううっ……こんなぁぁぁ……こんな屈辱……味合わせられるなんて……わぁぁぁ……」


 こういうのは子どもの特権だろう。俺は他の大人に咎められることもなく、スノリのセコンド(?)よりと舞台へ上がることができていた。


 プライドが崩壊してしまったスノリは滝のような涙を流し、俺が背中をさすっている間もギャン泣きしてしまっていた。


 もちろん、キモ神父がまたなにかやらかさないか警戒していたのだが、動きどころか姿すら見えない。


「ガキ……おまえを見てたら、なんかムカつくやつ思い出したわー。次に戦うことになったら裸程度じゃすませねえぞ」


 俺がスノリに肩貸して舞台を降りようとしたとき、マクシミリアが俺に凄んできていた。俺は無視して舞台を降りる。


 なるほどフォーネリアの王子妃選を意識してあれでも猫を被っていたのか……。


「あなたが王子妃選に出たいと言ったから……もうこれでもないかと恥を掻いてしまって……」

「これに懲りたら、二度と馬鹿な真似は止めような」

「はひ……うっ、うっ」


 まるで露出狂みたいな格好のスノリを寄親へ引き渡す。彼女の寄親との会話からするに腕試しのつもりだったんだろうか?


 そういやヴァイオレットもフォーネリアの乙女は人前で肌を晒されるのが最も恥みたいなことを言っていたような気がする。



 それにしてもマクシミリアのあの嗜虐的な性格……どこかで……。



 俺はたまたま山道をドライブしていたときに全裸で道端にうずくまる女の子を保護したことがある。訊ねると、男に求められたが拒否したことで車から下ろされてしまったらしい。


 俺は訴えることを勧めたが彼女は俺の提案を断った。なぜなら女の子は男に恥ずかしい写真を撮られてしまっていると打ち明けてきた。ただ写真を撮られたこと以上のことはされていないという。


 全裸でいた女の子は俺の同僚の三迫で、山に放置した男は一ノ瀬だった……。



 そんな感慨に耽っていると愛じゃなかった、杉の妖精が声を掛けてくる。


「おにぃ……じゃなかった。グラッド、ボク……あいつは転生人だと思う」

「なんだと?」


「確証はないよ……でもあいつを見た途端吐き気と蕁麻疹が同時に襲ってきたから……あいつはおにぃの……」


 杉の妖精こと愛にマクシミリアの正体について聞こうとしていたときだった。ドンとなにかが俺の肩に当たっていた。


「申し訳ございません……こちらの不注意をお詫び申し上げます……」


 丁寧に頭を下げる長くて美しい黒髪の令嬢が小さな俺に深々と謝罪していた。が、彼女の目は終始閉じたままだった。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、今更ながらBuster doll ガンナーを作り始めました。おお、マシニーカblock2に進化したと謳うだけあり、スサノヲ系素体とはジョイント部分に変更点が見られます。まだ組み上がってませんが完成が楽しみです! いや決してチラリと覗くおへそが見たいだなんて思ってもいませんよw

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