第129話 新たなる仲間

 枝豆の妖精よろしく杉の妖精が俺たちのまえに出現していた。容姿は幼い頃の愛にそっくりで口調もやや舌足らず。


 本人は杉の妖精と言い張り、取り付く島もないが魔女のようなとんがり帽子にマント、ブーツにステッキと魔法少女に近い。


 あのときの愛らしい愛が戻ってきたことに歓喜して人目も憚らず、抱き締めて頬ずりしたくなる衝動を抑え、我慢し普通に振る舞う。


「得意技は【杉花粉】! 受けた相手は鼻水くしゃみ、涙が止まらなくなるよ」


 それって最早、あか剤とも呼ばれる嘔吐剤に分類される毒ガスの類なんじゃ……?


 目のまえの魔女っ娘が化学兵器のような魔法を扱えるとしたら、それこそ危険が危なすぎてすぐにでも魔女狩りの対象になりかねない。


 特にあのキモ神父にだけは見つからないようにしないと……。


 杉の妖精の正体がバレバレなんだが、本人が違うと言い張るのだから俺は強く問い詰めることができない。


 なぜなら……俺も愛にではないと言い張り続けていたのだから……。


「杉の妖精さん?」

「そうなのだ!」

「私はエーデルワイスと申します。よろしくお願いしますね」


 エーデルワイスは没落したとはいえ貴族令嬢。だが正体不明の愛……じゃなかった杉の妖精にカテーシーを行い、丁寧に挨拶を交わしていた。


 そのとき、ふと思った。


 確か……三迫は前世で愛と交流があったと思う。


「なあ、エーデルワイス。キミはあの娘のこと覚えてる?」

「いえ……どうしてそんなことを? グラッドさまはあの方をご存じなのですか?」


「いやボクも何も知らないな。リリネルお姉さまが招いた助っ人なんだろう」


 記憶が曖昧なのか、杉の妖精の変装が巧みなのか、判然としないがエーデルワイスは魔女っ娘が愛であるということに気づいていなさそう。


 俺はリリーに話題を丸投げする。


「私は……なにも……」

「リリーちゃ~ん、あなたは愛のことを……じゃなかったボクチンのことを知っている。ボクチンもあなたのことを知っている。それでおk?」


 杉の妖精はリリーのまえで穴の開いた黄銅の硬貨を紐に吊して揺らしていた。


 そんな安っぽい催眠術に、いくらリリーでも掛かるとは到底思えない……。


 しかも間違えて愛とか言ってるし、五円玉を持ってる時点で元いた世界と関わりのあることは明白。


「ハイ……私ハ杉ノ妖精ヲ知ッテイマス。杉ノ妖精モ私ヲ知ッテイマス。オkデス……」


 なっ!?


 リリーは急に口調がロボちっくになり、杉の妖精の言葉をオウム返しのように返している。いくらなんでも子どもでも掛からないような催眠術にリリーはずっぽりはまってしまってた。


 恐るべし杉の妖精……。


 まあ『フォーチュン・エンゲージ3』を未プレイな俺に取って、内容に詳しい愛がいてくれる方が心強いことは間違いない。



 杉の妖精を仲間に加えるも王子妃選の参加者登録は三人しかできないので、杉の妖精はエーデルワイスの従魔扱いとなった。ちなみに杉の妖精の従魔はリッチルなので更にややこしい……。


 彼女を仲間に加え、俺たちは他の参加者の決闘を観戦していた。


「はははは! ねえキミの実力はこんなものなの? もっとご主人さまのために一生懸命働いたら? こんなに弱いとキミのご主人さまが泣いちゃうよ?」


 ジークフリートはスライヒという小国の姫コーネリアに仕える騎士アランを剣技で圧倒していた。


「ぐはっ……」


 アランは甲冑こそ着込んでいるがヘルムは身に着けず赤髪の素面を晒している。そんなアランはジークフリートの重圧魔法を食らう。


「キミ程度の護衛騎士はボクのまえでは頭が高い。ずっとそのままでいるといいよ」


 四つん這いになり、必死に重圧に耐えるアラン。なんとか剣だけは離すまいと柄を手のひらの下に置いている。


「まだまだ頭が高いなぁ。うりうり」


 ジークフリートはアランの後頭部にブーツを乗せ、頭を下げさそうとしていた。


「安心しなよ、キミが負けてもコーネリアちゃんは問題ないから」

「うぐっ……問題ないとは……どういうこと……ですか?」

「ボクの妾として飼ってあげるからさぁ!」


「それでも……騎士の……端くれか?」

「うるさいんだよぉ! 勝ちゃいいんだよ、勝負はさぁ! ボクね、ブラッドの卑怯なやり方で負け続けた。だからボクも勝つためには手段を選ばないことにしたんだよ」


 え? 俺ってそんな卑怯な真似したことあった?


 小声でリリーに訊ねると、彼女はあり得ないといった表情でぶんぶんと首を横に振り、ジークフリートの戯言を否定している。


 おそらく力がないできジークフリートは俺がなにかチートでも使ったとでも勘違いしてるんだろう。


「早く降参しなよ、でないとボクはキミのこと……殺しちゃうよぉぉ!!!」

「も、もう止めてください! アラン、あなたは十分戦いました。もう良いのです」


 なんども頭を執拗に攻撃するジークフリートのまえにコーネリアが立ったことにより見届け人が宣言した。


「決闘者以外の者が舞台へ上がったため、アランの負けとみなす。勝者ジークフリート!」

「はははは! 見たか、これがボクの実力だ」


 ジークフリートは拳を突き上げ、よろこんだあとアランに侮蔑の言葉を吐いていた。


「ばーか、ばーか! おまえみたいに弱い騎士がボクに敵うはずがないんだよ、身の程を知れよ、雑魚騎士が!」


 あーあ……勝者なのにあまりにも態度が悪すぎて、観衆からもブーイングが飛んできていた。そんなブーイングにジークフリートは切れ散らかしていたが……。



 決闘が終わり、しばらくすると王宮の中庭へ至る道の途中に人集りができて、なにやら騒々しい。ぴょんぴょんととある部族のように飛び跳ねて、大人たちの頭で隠れた先を確認すると王子妃選の中間発表がなされており……。


―――――――――――――――――――――――

グラッド・ライオネル 98ポイント


アラン・シェザール 48ポイント


ジークフリート・リーベンラシア 15ポイント


アンドレ・ニールセン 棄権

―――――――――――――――――――――――


 参加者の代理人が名を連ねており、俺が最初に名前が記載されていた。人集りを無理やり掻き分け、まえに出たジークフリートが掲示板を拳で殴りつける。

 

「あの憎たらしいクソガキが一番なのに加え、なんで勝ったボクがアランより低ポイントなんだよ!!! おかしいだろ!」


 決闘に置けるポイントが低いことに業を煮やしたジークフリートは運営に楯突いていた。


 どうやら決闘には美観を求めるようでただ勝てばいい、というものでもないらしい。


 俺は愛からその忠告を受けていたので無闇に相手をいたぶるような真似はしなかった。


 おそらく子どもの姿のままで大人と戦った勇気みたいなのが評価され、高得点に至ったと思われる。


―――――――――あとがき――――――――――

あと少しで完結ということで作者、『同志少女』を読もうと思ってます。はまって戻ってこれなくなるかもしれません……。戻って来ない場合は★とフォローで作者を召喚できますのでよろしくですw

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