第126話 秘め事
――――【フリージア目線】
夜の帳が落ち、珍しく私を誘拐したも同然のあの王子が顔を出しませんでした。もし顔を出せば彼が諦めたくくらい、ブラッドさまとの甘い夜について、うんと語って差し上げようかと思っていたのに残念です。
幽閉されているとはいえ、王宮内なら自由に歩けるので私のお世話をしてくれているメイドさんたちに挨拶を交わしながら歩いていると……。
「
「いやいやキミが直々に出迎えてくれるなんてね」
「なにを仰いますか、私に学問の手ほどきをして下さったのは大司教ではありませんか」
あの王子の声が聞こえたので鍵穴から覗くと、とても口に出すことが憚れる場面に出くわしちゃったのです。
大司教と呼ばれた男性はアスタルの手を取り、愛おしそうに撫でていました。こういうのを愛さまは確か……BL、そBLが好きなご令嬢のことを貴腐人と仰っていたような気がします。
さらに二人はベッドへ移り、大司教がアスタルのブラウスのボタンを外した隙間から胸元を弄り始めました。アスタルと大司教があろうことか熱い抱擁ののち、口づけを交わしていたのです。
「どうやら私のバベルの塔が限界らしい」
大司教はアスタルをベッドに押し倒して上になり……。
こ、こんなシーン……見ちゃっていいのでしょうか?
私に仕えてくれているメイドさんたちが噂話に花を咲かせてしまうのも仕方ないことなのかもしれません。
『ねえ知ってる? アスタル王子ってば男の人が好きなのよ』
『え~!? うっそー、信じらんなーい』
『嘘じゃないって! だって王子と大司教がキスしてたんだもーん』
『マジー!?』
『キスだけじゃないの。硬いモップの先で穴をグリグリとお掃除してたんだから!』
『もうヤダー、あはははは』
私の頭のなかにはメイドさんたちが噂話をする姿がまるで本当のことのように浮かんできていました。私も一度でいいから愛さま、ネモさま、リリーと共に枕を囲んでガールズトークなるものをしてみたかったです。
大司教はアスタルをたっぷりかわいがったあと、部屋から出てこようとするので私はとっさに飾り物である甲冑の後ろに隠れました。
「アスタル王子、あなたの胎内に私の聖液が入ったのです。今のあなたならば魔王ブラッドすら凌駕する力が得られることでしょう!」
大司教が去り、しばらくして……。
「おえええーーーーっ。くそっ、あのクソ坊主め……吐き気がするっ。ディバインドラゴンの復活がなれば真っ先に奴を餌にしてくれる!」
アスタルは大司教に恨み言をたっぷり吐き出していたのです。フライングゴーストのようにふらふらとドアの方へ寄ってくるので私は油断をしておりました。
ギリギリまで様子を窺っていればいいと。
ですが急にドアが開いて、私は飛び出したドアを避けるために転んでしまったのです。
「立ち聞きに覗き見とはなかなかの趣味ですね、聖女フリージア」
「……両親を口車に乗せ、私を誘拐同然に連れて来たあなたより幾分マシかと思います」
「なるほど。ところで幻滅しましたか?」
「幻滅? 幻滅という言葉はあなたに幻想を抱いている者でなければ無くすことはできません。そもそも私はあなたに幻想など抱いておりませんので」
「ははは……手厳しいな。あなたはもっと大人しい淑女だと聞いていたが」
「はい、私はなにもできない鳥籠のなかの小鳥でした。ですがブラッドさまが私を変えてくれたのです。いいえ、変えるだけでなくすべてを与えてくださったんです。いまの私があるのはブラッドさまのお陰。あなたの抱いている幻想のなかの私はもういないことを悟ってください」
「あなたの怒気を孕んだ表情も嫌いではない。まあ私に笑顔を向けてもらえるとうれしいのだが……」
「そんな日は未来永劫来ることはないでしょう。何度も申している通り、私の愛する男性はブラッドさま、唯お一人なのですから」
「はははは!」
「なにがおかしいのですか?」
「私の計画が成れば魔王ブラッドの記憶はあなたから完全に消え失せる。いや記憶どころか魔王ブラッドの存在そのものが無くなる方が早いかな?」
「私がブラッドさまを忘れる? そんなことになれば私は命を絶ちます。ブラッドさまのいない世界など生きている価値などありません!」
「はははは! そうはさせない。この私がブラッドの持つすべてを奪ってやるのだから」
いまにもブラッドさまに縋りたい気持ちとブラッドさまにご迷惑を掛けてはいけないという相反する気持ちがぶつかり合い、私は私が分からなくなってしまったのです。
―――――――――あとがき――――――――――
作者、入荷情報を掴み、喜び勇んでガンベに行ってきました。はい、到着して見事撃沈しましたね。深く深ーくユーコンよりも深く……。主役級、準主役級は潤沢に生産されるんですが、マニアックな機体はとにかく少ない。必ず買い切るんで数が集まったら受注生産とかしてくれませんかね、バンダイさん……(・_・、)
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