第125話 変異種狩り

「ほごぉぉぉ……うぎぎぎぃぃ……」


 もがき苦しむおっさんの身体から角みたいな物が生えてくる、まるでホラー映画のなかでなにか体内で暴れているように……。


 観客たちにも異変が起こる。何事かと固唾を飲んで見入る者、あまりの気持ち悪さに席を立つ者に二分されていた。


「ふぎゃぁぁぁっ!!!」


 角みたいな物がおっさんの皮膚を突き破ったことにより悲鳴を上げていた。おっさんから生えた角みたいな物の正体はどうやら、脚だったようで胸、腹、腰の側面から合計八本生えており、まるで蜘蛛みたいだった。


「敗者はすぐに舞台から降りなさ……ひいっ!」

「殺してくれぇぇぇーーーーーっ!!!」


 見届け人が四角四面の文言を告げるがおっさんは死にたいくらい苦痛なのか、涙ながらに懇願していた。


 おっさんのあまりの異形っぷりに見届け人はおしりを打って転んでしまう。そこへおっさんから生えた脚が襲いかかろうとしていた。


 あんな先の尖った脚の一撃を食らえば、普通の人間は貫通して死んでしまうじゃねえか!


 俺は咄嗟におっさんから生えた別の脚を掴んで、揺すりバランスを崩す。硬いかと思った脚を掴んだ感覚は昆虫より柔らかく蜘蛛そのもの。


「うんしょぉ!」


 このままおっさんを放置すれば観客はおろかリリーやエーデルワイスにも被害が及んでしまいそうだ。


 もう能力を隠しておきたいなどと言っている場合じゃない。


 バランスを崩したため、見届け人に向かっていた脚は彼から逸れ、舞台の床を叩いていた。


「早く舞台から降りて安全な場所へ。それから観客をすべて外へ出して」

「は、はいっ!!!」

 

 見届け人はもんどり打つように慌てて舞台を降りると王子妃選の管理責任者と思しき者のいる席へと向かっていった。


 すぐに指示が出され、係員により観客が席を立ち、会場から出てゆく。


「リリー、エーデルワイス。貴様らも早くこの場を去れ。さもなくば危険だ」

「ですがグラッドさまが……」


「エーデルワイス! ブラッ……グラッドがこの程度の化け物に負けるわけがありません。早く外へ。そうでないと足手まといになりますよ」

「は、はい……」


 さすがリリーと言ったところか。俺のことをよく分かっているリリーはエーデルワイスの手を引き、会場の外へ誘導してくれていた。


 彼女たちの退出を見届け安心したのも束の間、おっさんは雇い主の下へ行っていた。


「な、なあ、リーゼさま……あんたなんだろ、オレの身体をいじったのは……いてえんだよ……なんとかしてくれよ、この痛みをよぉ……」


「な、なんなの!? こんなの知らない……ただの荒くれ者なら頼りになるって言われただけなの……」


 リーゼと呼ばれたおっさんの雇い主は口に手を当て、事態が飲み込めず狼狽しているだけ。


 はあ……おっさんの雇い主でも異形化の事情を知らないならもう止めようがなさそうだ。


「ふざけんなぁぁぁーーーっ!!!」


 おっさんはぶち切れ雇い主に向かって、手ならぬ脚を上げていた。


「お嬢さまっ!!!」


 危機を察知し、若くて優秀そうな従者が雇い主を突き飛ばしておっさんの脚の一撃を食らう。


「ドミニクっ!」


 雇い主が立ち上がり、おっさんの一撃を食らった従者の下へ駆け寄るが従者が助かる見込みがないのは明らかだった。


 胸部と腹部の間で真っ二つにされてたんだから……。


「そもそもあんたらが王子妃選に出るって言わなきゃ、オレはこんなことになってなかったんだよぉぉ!!! どうしてくれんだよぉぉ!!!」


 雇い主の従者を殺したのに、自分がさも被害者であるかのようにおっさんは主張する。


「被害妄想もそれくらいにしておけ」

「リーゼさま、あんたはあとだ。まずはそこのうるさいクソガキを始末してからだ」


 おっさんはしりから白い糸を噴射し、雇い主の身動きを封じてしまった。


「てめえさえいなけりゃ、オレは王子妃選を勝ち上がりたんまり得た報酬で借金を返し、また遊んで暮らせてたっていうのにすべて台無しだ!!!」


 なんだろう……この感じ。


 そこはかとなく漂う、カイジとかウシジマくんに出てきそうなどうしようもない人間っぽさ。


「安心しろ。どちらにせよ、貴様が俺に勝ったところで貴様の人生は良い方向には転ばない。転ぶにしても転落というものだ」

「うるせえ!!! これでも食らえ!」


 おっさんは蜂のように胴体を折り曲げ、しりあなを俺に向け糸を吹き出す。


 一般人なら絡め捕られるかもしれないが、俺の赤ちゃん汁よりも遅いのなら避けるなんてことはたやすい。


 糸が眼前に迫るが俺はただ振り向く程度の小さな動きで回避すると糸が横を通り過ぎる。小さな動きだったため、おっさん蜘蛛は気づいておらず、そのまま糸を出し続けていた。


 俺は糸を掴むとそのままカツオの一本釣りの如く舞台の反対側へおっさん蜘蛛を叩きつけた。


「ぐへぇぇぇっ!!!」

「途中で糸を切れば叩きつけられることもなかったのに無様だな」


 俺が当たるギリギリまで避けなかったことでおっさん蜘蛛は糸を出し続けてしまったのだ。


 蜘蛛の脚もおっさん自身の身体もかなり関節がグロい方向に曲がってしまっているけど、呼吸はちゃんとしている。


 大木がいればむしろモンスター化させて生かすという方法もあるんだろうけど……。


 どうしたものか?


 俺がおっさんの処遇を決めかねていたときだった。


「おお、魔に魅入られし魂は……すぐに天へ導かねば! 魔・即・浄!!!」


 あのキモ神父の声が聞こえきたかと思ったら、奴は観客席の最も高い場所におり、銀色に輝くロッドを翳していた。


 するとまだ息のあったおっさんの身体が光出して……そのまま爆散するように消えてしまう。


「貴様……」

「生きとし生ける者にはすべて死を迎えます。ここで死んだ彼も運命だったのでしょう! それではまたキミとの対戦を待ちわびておりますよ」


 俺はキモ神父を「おまえが絶対やっただろ」ってな目で見ていたと思う。


 キモ神父の後を追うこともできたが、残念なことにキモ神父がおっさんの異形化に関わっているという確固たる証拠はない……。オモネールたちがいれば違っただろうに、彼らがリーベンラシアの防備に当たらなければならなかったことが悔やまれた。



――――翌日。


 エーデルワイスとリーゼロッテの対戦では俺たちが勝利を収めたが、リーゼはおっさんの異形化と従者の死を目の当たりにして、王子妃選を辞退してしまう。


 そんな沈んだ空気のなか、アスタルがバルコニーから現れて、高らかに宣言した。


「尊い犠牲者が出てしまったことに哀悼の意を表する。だが王子妃選はそのまま継続するっ!」


 アスタルは手を翳し、言うだけ言って終わるとマントを翻して王宮のなかへ引きこもってしまった。


「グラッド……そんなに震えて、どうしたの?」

「なんでもない」


 リリーが気をつかい訊ねてくる。俺があまりにも拳を強く握っていたからだ。


 エーデルワイスを巻き込んでしまっている俺が言うべき言葉じゃないかもしれないが……。どうやらコイツは犠牲者が出ても中止することはないらしい。いやそれは仕方ないか……。


 だが、どう転んでもフリージアが妃になる出来レースに段々と腹が立ってきていた。


―――――――――あとがき――――――――――

ネット情報なんで、あくまで参考にねw

発射速度比較

蜘蛛の糸    24.2m/秒(時速8km)

射○時の○液 133.9m/秒(時速48.2km)

と圧倒的に精○の方が早い、もとい速いのですwww

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る