第124話 子ども相手に卑怯だぞ!

――――【ブラッド目線】


「リーゼさまっ! オレがこのガキを倒したら、報酬はたんまりもらいますぜ」

「相手は子どもですので、あまり手荒な真似は……」


「それはできねえ相談ですねえ。なにせ、こいつは生意気なんで痛めつけて分からせてやんねえと」


 アンドレなのかオンドレなのか分かんないが、傭兵崩れっぽいおっさんは俺のまえで息巻いている。おっさんの雇い主はどうも貴族っぽく赤くて瀟洒なドレスを身にまとっていた。


 子どもの姿である俺の心配のことをする彼女は常識人のようだが、なぜこんな男を雇ったのかが不思議でならない。


「おじさんはボクより強いんだよね? ボクの父上は弱い者いじめしちゃダメだって教わってるんだけどなあ」


「うるせえ、ガキ! この場に上がったらガキだようが関係ねえんだよ。強いもんが弱いもんをどうしようが勝手だ、このボケがっ!」


 おっさんは唾を吐き捨てながら正論を吠えていたが……。


――――なにあの男、サイテー!


――――決闘は喧嘩じゃねえぞ!


――――子ども相手に余裕もねえとか情けねえ。


「なっ!? クソガキだぞ、てめえら分かって言ってやがんのかよ」


 王子妃選を観覧に来ていた観衆からおっさんに対して非難の嵐が渦巻いてしまっていた。ヴィオレットから聞いた話では、なかなかフォーネリア王国は強かで王子妃選を見にくる者たちから観覧料を取り、国庫へ入れているらしい。


 また王子妃選の候補者にベットできるようで、候補者が王子妃になれば大金を手にすることができるという。候補者を競わせて賭け事にするとかなかなかのお主も悪よのうなどと思ってしまった。


「勝ちゃいいんだよ、こういうのはなぁ!」


 おっさんは観衆のヤジに臆することなく腰に帯びた剣を抜き放ち、啖呵を切った。俺はおっさんから一切目を離すことなく白手袋をはめ、ボタンを留めていたときだった。


「おら、見届け人っ! さっさと始めろや」


 見届け人というのは審判とはことなり、決闘を途中で止めることはない。ただ勝敗を判定するだけの存在である。


「お互いに覚悟はよろしいですか? 死すら厭わない覚悟がおありなら始めます!」


 俺が見届け人の言葉に頷いた瞬間におっさんは突きを放ってきた。


 あまりにも遅くて、俺はおっさんの懐に入るとおっさんは……。


「どこ行きやがった、あんのクソガキが!」


 きょろきょろと舞台を見渡し、俺を探していた。


――――あははは!


――――馬鹿だろ、あいつ。


――――そこにいるぞ、おっさん!


「なんだと!?」


 観衆から指摘されてやっと気づいたおっさん。


「てめえ、いつの間ぃぃ!?」


 正直どう倒すべきか迷っていた。倒すことは簡単なのだが、できれば能力は最後まで隠しておきたい。


 だからワンパンで倒すなんて真似をできなかった。


 そういえば思い出した。


『きゃはははは』

『待て、愛っ! ちゃんと服を着きろ~』

『や~、あはははは』


 愛が幼稚園児だった頃、お風呂から上がったあと裸で走り回るので捕まえようとしたのだが、なかなか捕まえられなかったことを。


 あのときの愛のかわいさったら……。いまももちろんかわいいがちっちゃい女の子っていうのはマジ天使である。


 おっと俺が愛が小さかった頃に思いを馳せていると、おっさんが青筋を立てて怒っていた。


「ふざけやがって!」

「ボクは真剣なんだけどなぁ」


 俺はただおっさんから逃げ回ることにする。


 そうなると、もうただの鬼ごっこだった。


 俺を斬りつけようとおっさんは必死で剣を振るうが何度も空振りする内に体力を失っていく。当てることより空振りすることの方が体力消費が激しいのはボクシングでも分かることだ。


「はあ、はあ、ちょこまかと……」

「ねえ、まだ続けるの? ボク飽きちゃった」


 おっさんは斬りつけようとしてきたが足がもつれてこちらに倒れてくる。


「おっと危ないや」


 俺は寄ってきたおっさんの顔を足裏で支える。


 なにか大事なことを忘れていたような……、そう思ったときは遅かった。


 おっさんの顔は馬糞を踏んだ靴の蹟がついてしまっていた。


 馬糞がついたまま倒れたおっさんがなかなか立ち上がらないことをじーっと見ていた見届け人が宣言する。


「勝者グラッド・ライオネル!」


――――汚ったねぇぇぇーーー!!!


――――ざまぁ! クソがクソにまみれやがった!


 見届け人の声が会場へ響いたときだった。負けたはずのおっさんの身体が震えており、負けたことがよほど悔しかったのかな? と俺は思っていた。


 だが……。


「や、やめろ……な、なにしやがるんだっ! ウギャァァァーーーーーーーッ!!!」


 おっさんがなにか叫んだとき、背中を突き破り角のような物が突出していた。


 観衆から悲鳴が上がっていたにも拘らず、一人だけ笑っている奴がいたことを俺の超視界は見逃さない。


 あのキモ神父だ。


―――――――――あとがき――――――――――

作者、初心者にも拘らず生意気にもプラモ作り用のアイテムを買ってしまいました。その名もマジスクです。端的に言うとデザインナイフ代替品ですね。なかなかの逸品でございます。

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