第123話 身体はクソガキ、頭脳は脳筋

――――【ブラッド目線】

(フォーネリア王国貴賓室)


「とにかく私は兄の下にはいたくないんです。だからグラッドさまのお側にいさせてください」


 ヴァイオレットは小学生くらいの少年の姿である俺に身を寄せる。甲冑を身にまとっているというのに、まるで倒れそうになり支えを求めているかのように……。


 実兄から性的暴行とまではいかないまでも不遇な境地であるような節はある。はっきり言って、フリージアもそうだが不遇な女の子を見てしまうと放っておけない。それがたとえ罠であったりしても……。


 だがヴァイオレット自身にも甘えたところが何点か見られたので俺は彼女の意思と覚悟について訊ねてみた。


「はっきり言っておく。貴様に王族という地位を捨てる覚悟があるか? それがないのならば軽々に王宮を出るなどと口にするな。いまのように召使いたちがなんでも世話してくれるわけじゃないからな」


「もちろんです。もしグラッドさまの下に置いていただけるのでしたら、メイドのように扱ってくださって構いません。なんでもできるように頑張ります!」


 やる気が空回りするタイプっぽいけど、その意気やよし、って感じかな。


「貴様の覚悟は分かった。決行の日までは時間がある。それまで準備をしておけ。持っていける荷物はトランクケース一つだ」

「はい!」


 ようやく沈みがちだったヴァイオレットに笑顔が見られた。こんな俺でも女の子に生きる希望を与えられたのなら本望ってもんだ。


 しかしそんなヴァイオレットが急にもじもじと内股を摺り合わせ、恥ずかしそうに俺に訊ねてくる。


「あ、あの……その……メイド雇いになればグラッドさまの下のお世話もした方がよろしいのでしょうか? その……筆おろし……とか……」

「余計なことを考えるな。俺をいくつだと考えている。貴様は腐っても王族、プライドを持て!」


 俺が答えるとヴァイオレットはソファーのクッションに頭を突っ込み、なぜか愕然としている。


「そんな……グラッドさまに愛されないなんて……」


 最後にはクッションを抱えて、シクシクとすすり泣いてしまっていた。


 えっとそういうグヘヘヘなことって、女の子なら嫌がらない?


 それに俺の正体はキミたちフォーネリア王国が最も忌み嫌う魔王ブラッドだからね。この手のタイプはえっちすると、あとから話が違うとか言い出すんだ。


「とりあえず無茶な行動を慎み、決行の日まで待て」


 貴賓室からの去り際にヴァイオレットに声をかけるとプルプルと手を震わし、挙手していた。


 なんとかヴァイオレットに王子妃が決定するまでステイするよう説得できた。だがいくらフリージアに一目惚れしたとはいえ、妹であるヴァイオレットを売り渡そうとするなんて言語道断だ。



 王子妃選の会場に戻るとすでに選考が開始されていた。事前に書類選考があったようだが、いまはその確認といったところだろう。


 マ、マクシミリアン!?


 俺は自分の目を疑った。頭に麦藁帽子を被り長いブロンドの髪をたなびかせ、白いワンピースに身を包んだ彼女(?)が王子妃選参加者としていたのだ。


 なんで奴がこの会場に? しかも女装して……。


 どう考えても無理だろ……。


 元いた世界じゃジェンダーフリーが叫ばれてたけど、流石に乙女ゲー世界でそれは無理がありすぎんだろ!


 ま、まあいい……。



 女装したマクシミリアンの登場には思わず面食らったが、気を落ち着かせた頃には王子妃選は妃候補同士の決闘審査に移っていた。


 ホントにこれは乙女ゲーなのか?


 と思ったが、妃候補が代理を出して戦ってもいいことをいまさらながら思い出す。愛によると原作はアスタルを選ぶのか、足長おじさん的立場のジークフリートと恋に落ちるのか、はたまた……みたいなゲームらしい。


「ライオネル商会推薦エーデルワイス、決闘人を舞台へ」

「は、はい!」


 手を固く結び不安そうなエーデルワイスだったが俺は戦争に比べたら、単なる決闘の方が気が楽だった。


「心配ない。そこでリリネル姉さまと茶でも啜っているがいい」

「はいっ!」

「グラッド~! がんばって! 勝ったらお姉ちゃんの抱擁とキスをあげますわ~」


 リリーがハンカチを振りながら応援してくるが抱擁というのが間違いなくだいしゅきホールドであることは言うまでもないだろう。


 できれば負けたい……。


 ショタ大好きリリーに搾精されまくり、それこそ俺が法要を迎えることになりかねないのだから……。


 そんなことを思いながら、王子妃選の係りの者から呼び出され、舞台へと上がるとやたらイキッたおっさんがいた。


「リーベンラシアの商会が出張ってきて、売女を妃に据えようとか、とんだお笑い草だぜ。しかもその寄親が代理で戦わせるのがガキとか、もうアホとしか言い様がねえわ」


 顔にいまどきのシノギでもない頬の三日月傷、いかにも傭兵崩れか、ギルドから出禁になった冒険者といった風貌の男が初対面の俺に毒づいてくる。


「エーデルワイスは娼婦じゃないよ。だから連れて来たんだ。おじさんはそんなことも分からないの?」


 なんだろう? 自分の喋り方なのになんかイラッと煽るような口調……。


 それは俺だけが思っていたわけじゃく、傭兵崩れのおっさんもイラッときたのか、さっきはなかったこめかみに青筋が浮き出てしまっている。


「オレさまは寛大だ。おまえみたいなガキにでも許しを乞うチャンスをくれてやるんだからな。オレの靴を舐めて、『アンドレさまに二度と楯突きません』って誓うなら、許してやる」


「そっかー偶然だね。おじさんも靴を舐めさそうとしてたんだ。ボクもおじさんに靴の裏を舐めて綺麗にしてもらいたいなって。さっき馬のうんちを踏んでしまったから困ってたところなんだよ。エーデルワイスを侮辱した分、たっぷりおじさんにうんちを味わってもらうからね」


 はわっ!? ブラッドによってクソガキ語に変換されてるんじゃねえか!


 クソガキモードが発動してしまっていた。おまけに馬糞まで踏んでしまっているから、正真正銘のクソガキだ。


―――――――――あとがき――――――――――

ここで色々言ってるバンダイさんなんですが、ここにきてようやく本気を出すようです。品薄状態となっていたRG ガンダム ver.2.0を7ヶ月連続再販というまさに「戦いは数だよ兄貴!」を実践してくれるようです。

「敵は転売ヤーなんですよ? 徹底的にやらなきゃ」とブルーコスモスの盟主が仰りそうな徹底ぶりを期待したいですねwww

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る