第122話 妹を売る最低の兄

――――【フリージア目線】


「フリージアさま、お気づきになられましたか?」

「ここは……?」


 家族から身売りされ、目覚めたときには豪華な天蓋付きベッドで寝かされていました。私が自宅で寝かされていたベッドなんて比べ物にならないくらい……。


 目を覚ますと恐らくずっと私の側で控えていたのでしょう、黒髪で落ち着いた雰囲気のするメイドさんが声を掛けてきたのです。


「フォーネリア王国の特別貴賓室にございます。申し遅れました、私はフリージアさまの身の回りのお世話をするように仰せつかったネルと申します」


 深々と私に頭を下げて、お辞儀した彼女は続けました。


「アスタル殿下よりどんなことでもフリージアさまのご要望に添うようご命を受けております」

「でしたら私をリーベンラシアへ帰してください」


 私は即座にネルさんに要望を伝えたのですが……。


「申し訳ござきませんが、そのご要望にはお応えできません。あくまでフォーネリア王国でできることのみとなっております」


 彼女は落ち着いた様子で首を横に振るだけ。


 ネルさんは外で待機していた同僚に声を掛けたあと、私の着替えを手伝うつもりのようですが……。


「そちらではありません。私がこちらに来るときに着ていたドレスがあったはずです」

「申し訳ござきませんがそのお召し物はアスタル殿下のご命令で捨ててしまいました」

「では捨てた場所へ向かいます」


 私が着ていたドレスはブラッドさまからいただいた大切な物……。それを気を失ってしまったとはいえ、勝手に捨てられしまうなんて、自分の至らなさが許せなくなります。


「お待ちください、外へは……」


 ドレスを取り返そうと部屋のドアを開けたときでした。


「目覚められましたか。やはりあなたは美しい……。フォーネリアにいるどの女性と比べても、あなたより華のある女性はいないでしょう」


 ドアのまえに私を強引に連れ去った男性が目のまえにおり、白い歯を見せ微笑んできました。ですが誘拐犯に返す笑顔など、私は持ち合わせてなどおりません。


「そんな美辞麗句はいりません。好きでもない男性からいくら甘い言葉を掛けられようとも私の心は動きませんから」

「それだ! 私があなたに好意を抱いたのはその凛とした佇まい。


 誘拐犯はさっと私のまえに薔薇の花束を差し出しますが……。


「いくら豪華な衣装や物を贈られても私があなたになびくことはないのです。せっかくのお花ですがお返しいたします」


「そうですね、いくら薔薇であってもあなたの美しさのまえでは色褪せ、真紅すら枯れて茶色く見えてしまう。こんな物は捨ててしまいましょう」


 誘拐犯はそう一言、私に告げると薔薇を差した花瓶を取り、バルコニーから投げ捨てたのです。


「こんなことをしても無駄ですよ。私の愛するお方はブラッドさま唯お一人です。どれほど、あなたから愛情を注がれようとも気が変わることはございません」


「なぜあなたは節操のないブラッドなどを愛されるのですか? あの男はあろうことか、あなたの妹リリーとも関係している、いやリリーだけではない、聞けば異世界から召喚された娘ともいかがわしい行為に及んでいるそうではないですか……。呆れて物が言えませんよ」


「あなたはブラッドさまのことをまったく理解されていません。私たちは誰一人としてブラッドさまから関係を強要されたことなどないのです。むしろブラッドさまにおねだりをしているのは私たちです。ブラッドさまは常に『俺のような男ではなく、別の男に嫁げ』と口癖のように仰っています。その意味が分かりますか?」


「分かりませんね、浮気性の男のことなど……。分かりたくもない」


「あの方は私たちのことを誰よりも思ってくださっている方なのです。その愛は海より深く広い……。あなたの仮初めの愛情など比べてはいけないほどなのです」


「そう仰ると思っていましたよ。ですが魔王とまで称されるブラッドがいなくなれば、あなたは正気を保っていられるかな?」


「なにをすると言うのですか? いくらあなたが人を誑かす小賢しい魔法が使えるといってもブラッドさまを倒すことなんてできるはずがありません。あの方は控え目に言って地上最強、海内無双のお力があるのですから」


「確かに私の魔力をもってしてもブラッドの力を削ぐことは難しい……」

「そうです、そうに決まっています」


 ブラッドさまが負けるはずがないんですもの。


「だが奴の女好きが命取りになる。私はね、役立たずのヴァイオレットに呪詛を埋め込んだんですよ。お人好しで女好きの奴のことだ、無能ながら容姿にだけは恵まれた我が妹が私に虐げられていると聞けば、手元で保護しすぐに生殖行為に及ぶことだろう。そうなれば奴は最後、あのブリューナクで見せた馬鹿げた力は消え失せる」


「そんな家族を売るなんて……」

「ははは! これは傑作だ。家族に売られたあなたが私の妹を心配するとは……」

「私は確かに両親から売られたのかもしれません。ですが……」


 リリー……。


 あなたは違うと信じているわ。


―――――――――あとがき――――――――――

そろそろ終盤、最後まで書き切れたらご評価してもらえるとうれしいです。

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