第120話 変態神父

 おバカなジークフリートは俺とリリーの正体にまったく気づいていなさそう。


 だが俺はこれまで味わったことのない気色の悪さを感じていた。


 終始ジークフリートをたしなめていた神父が俺をまるで視姦するような目で見ていたのだ。


 まさか好意を持たれているっ!?


 考えたくはないが聖職者は禁欲生活の反動で良からぬ欲望を爆発させてしまう者もいる。前世でも歪んだ少年愛を持っており、それがバレて神父が逮捕されるなんてニュースが流れてきてたりしてた。


 そのニュースに出てきたヤバい聖職者たちと顔がそっくりなんだよ!


 ヤバいっ!


 こっちに近づいて来やがった!


「おやおやまあまあ、かわいらしいお坊ちゃんですね。お名前は?」


 俺はあまりのキモさからリリーの足にしがみついて、後ろに隠れてしまう。


「リリネルお姉さま……」

「はあんっ! かわいいっ!」


 俺の半分演技、半分本気を目の当たりにしたリリーの顔がほころぶ。俺はそれどころじゃないと言うのに……。


「ごめんあそばせ、神父さま。後ろにいるのは私の弟ですの。少々人見知りが激しいようなので、ここはどうかお許しいただけますとありがたいですわ」


「はあはあっ、い、いや、名前を訊くくらい構わないだろう? だ、だめかな? おじさんがキミと遊んであげるって言ってるんだ。ねえ? そうだ! お菓子をあげよう。修道女シスターどもが……失礼、修道女たちが丹精込めて作ったお菓子だよ」


「いらない……」

「と弟が申しております。引き取りを」

「あなたに言っているんじゃないよ、私は弟さんに話があるんだ!」

「きゃっ!」


 興奮した神父はあろうことかリリーを押しのけて、俺に迫ろうとしている。リリーは押されてバランスを崩し転びそうになったが、俺が転ぶ寸でのところで彼女の身体を支えた。


「ありがとう、グラッド」

「気にしないで、お姉さま」


 名前は神父にバレてしまったが、どうせ偽名なので問題はない。


 だが……。


 リリーを傷つけようとしたことは到底許されることではない。一時は姉妹仲が最悪な状態になってしまっていたが、色々あって二人は仲直りしている。俺はそんな心身ともに美しくなった姉妹を愛でることを無上のよろこびなのだ。


 断じて姉妹丼ができることがうれしいのではない。


 俺が神父の手を取ろうとしたときだった。


「謝罪してください! 私の寄親であるリリネルさま、グラッドさまへの乱暴は神竜が許そうとも私が許しません!」


 エーデルワイスが神父のまえに出て神父を真っ直ぐな瞳で見据え、毅然とした態度を取っていたのだ。


 転生しても魂は三迫なんだと思い知らされる。


「小娘程度が分をわきまえろ! ディバインドラゴンを愚弄する気かっ!!!」


 そんなエーデルワイスにも神父の手が伸びようとしたときだった。


「あら、神父さま。まだお兄さまのお妃選びは始まっておりませんわ。場外乱闘はお止めになってくださいね」


 おしっこ姫!!!


 じゃなかった……ヴァイオレットは懲りずにまた甲冑を纏い、凛とした笑顔を浮かべながら興奮している神父をたしなめた。


「ヴァイオレットさま!? なぜこのようなところに?」

「ええ、そちらのグラッドさまにご用がございましてね」


 なんか俺……モテモテじゃね?


 まったくうれしくないけど……。


 おしっこを漏らしたところを見られ、俺を抹殺しにでも来たのだろうか?


「私もそちらのグラッドくんにご用がありまして……」

「申し訳ありませんが私、神父さまにお譲りする気はありませんの」


 おしっこ姫のくせして、意外と強引……いや、元々そういう子だったか。子どもである俺に公衆の面前で裸になれ! なんて命令してきたし……。


「リリネルさん……でよろしかったかしら? 私、フォーネリア王国第二王女のヴァイオレットと申します。弟さんをお借りしてもよろしいでしょうか?」


「いくらお姫さまと仰いましても、弟を簡単にお貸しするわけには……」


 リリーはヴァイオレットの突然の申し出に眉尻を下げて当惑気味に返答する。エーデルワイスも自国の王族に逆らうわけにもいかず、おろおろしていた。


 それに、もしエーデルワイスが王子妃になればヴァイオレットが義妹になるから今から彼女と揉めるのは得策ではない。


「リリネルお姉さま、ボク……ヴァイオレットさまのところに行ってもいいよ。ただし、ボクたちを神父さまから遠ざけてくれるのなら」

「そういうことでしたら分かりました。接近禁止命令を従者に命じておきます。さあ、こちらへ」


 俺はおしっこ姫の差し出す手を取り、歩を進める。


 リリーとエーデルワイスが傷つけられないこととキモ神父よりまだおしっこ姫の方がマシだと思ったからだった。



――――フォーネリア王国の貴賓室。


 ヴァイオレットに手を引かれ、貴賓室に招かれた俺。


「みなさん、下がってください。この先は私とグラッドさまとお話がございますので」


 お漏らしの原因を作ってしまった俺に腹を立てたヴァイオレットが復讐を果たすために人払いをしたんだろう。


 俺は覚悟を決め、ヴァイオレットの出方を窺う。


 しかし次の瞬間、身構えた意味を無くした。


 なっ!?


「グラッドさま……数々のご無礼をお許しください!」


 ヴァイオレットは俺の目のまえで土下座していたからだ。


「と、突然なんですか!? ボクはもう怒ってませんからお顔をお上げください」

「はい……」


 あれだけプライドの塊のような姫騎士が頭を絨毯にこすりつけるように土下座する姿にただ事ではない様子を感じてしまう。


 俺は土下座する彼女のそばで手を取り、顔を上げさすと半泣き……いやもう涙に濡れた顔で俺に懇願してくる。


「グラッドさまにお願いがあります。私を連れて、この国を出てくださいませんか?」

「えっ!?」


―――――――――あとがき――――――――――

作者、ガチ初心者にも拘らず中華美プラに手を出してしまいました。御模道のATKガール錦衣衛JW059、笠を被り弓を持ったモデルと言えば分かるかな?

これについて語ると長くなりそうなので割愛w 一言で言えば武装モードはメチャメチャ作者好みということで。

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