第112話 兄を追い掛けるヤンデレ妹

――――【愛目線】


「おにぃ……」


 フリージアちゃんが攫われたって聞いた瞬間におにぃの顔が蒼白になってた。ブラッドがあんな顔をしたのは断頭台に送られることが決まったときだけだ。


 ブラッドの中の人になってしまったこともあり、口では「フリージアなど捨て置け」みたいなことを言ってるけど、あの慌てぶりからして、おにぃはフリージアちゃんのことが相当好きだ。


 そもそもおにぃはかわいそうな女の子を見ると助けないでいられない体質……。それでもって、助けた女の子はご多分に漏れずヤンデレちゃう。


 なのにおにぃは怖いくらい鈍感……。


 三迫さんはおにぃのこと、絶対に気になってたと思うのに、おにぃは鈍感過ぎて気持ちをぜんぶスルーしてた。


「ねーぽん……ごめん、やっぱり……」

「ううん、お兄さんのことが気になるんだよね。大丈夫! いつも愛ちゃんに助けられてたから、私もちょっとだけど、努力してみたの。それに大木くんや魔王さまの部下さんたちがいるから」


「ありがとー。このお礼は必ずするね」

「ううん、お礼なんていいの。だから無事戻ってきて」

「分かった!」



 私はリーベンラシアに残っ別れて、おにぃのいるフォーネリア王国まで来てた。


 宿屋街と言えばこの辺なんだけど、デモプレイしたみんなとているときと実際に歩くのとじゃやっぱり違ってる。


 赤い糸はおにぃのいる方向を指し示しているから、道に迷うことはないんだけど。


「まさかボクを連れてくるなんて……。悔しいけどボクでも運命の魔女に抗えないよ」

「はい、ネコ缶!」

「ボクはネコじゃないっ! フェンリルだ。あんな下等な獣といっしょにするな」


「愛に論破されたくせに?」

「うぐぐ……あ、あれは淑女に対する礼儀というものだよ。キミの兄貴だって、女には弱いだろ? ワザと負けてあげたんだって」

「ふーん……」


 おにぃも愛もいない間にこのもふもふが悪さしないか、心配でいっしょに連れてきた。普段はフェイクファーみたいに首に巻き付けてるんだけど、負け惜しみに時々、文句を言ってくる。


「ミー公は紳士なんだね」

「そうさ、ボクは聖獣のなかでも最も紳士と知られてるんだ。フォーネリアのディバインドラゴンとはわけが違うんだよ」

ゆちゃんを護らずに見捨てたの? なんで?」

「あのときは仕方なかったんだよ、あいつの魔力が強すぎて……」


「おにぃは守りたい人のためなら命掛けなんだけど」

「あんな脳筋とボクを比べないでくれるかな。ボクは世界一聡明な獣なんだよ」

「カラスと残飯漁りでいつも負けてるくせに?」


 ミー公とひそひそ声で話していたら、馬車が通り過ぎった。


 なんか一瞬悪寒が走って、おにぃみたいな転生人が乗ってたような気がするけど、いまはおにぃ探しの方が大事。



――――【マクシミリアン目線】

(街道を行く馬車の車内)


 なっ!?


 あの美しくいて、それで可憐。少し気だるげな表情がオレの股間にドストライクなJKがなんでここにいやがるんだっ!?


 オレはあいつを一目見た瞬間、世界が変わった!



 一之瀬秀人だった前世で岡田の野郎がやたら女子社員にモテることにイラついてたときだった。


 あんな気をつけすらできねえガチムチの筋肉だるまのどこがいいんだよっ!


 一人社用車で外回りしていて、取引先のまえに車を停めただった。歩道にゴミみてえに人集りができてて、なにかと思ったらあのJKが歩いてやがったんだ。その隣にはいかにもいじめられそうって感じの地味なJKがいたが……。


 オレは仕事そっちのけで、そのJKに声を掛けた。


『キミ、かわいいね。もしかしてJKアイドルだったりする?』

『ねーぽん、かわいいだって。良かったね』


 オレはどちゃくそかわいいJKに声を掛けたはずなのに、なせが地味な方のJKを誉めたことにされてしまう。


 違うっ! てめえじゃねえよっ! って叫びそうになるが、ねーぽんと呼ばれた地味JKは空気を読んだ返答をする。


『わ、私じゃないよぉ。きっと愛ちゃんのことだから……』

『うーむ、だったら見る目のない大人だー。いったいどこに目がついてるんだろう? 愛の隣にはとってもかわいいねーぽんがいるのに……』


 ねーぽんは愛と呼ばれたJKのマスコット的存在なのか!? しかし、それは愛の推しであってオレの推しじゃねえっ!


『なあっ、愛ちゃんは学校帰りなんだろ? これからオレと遊びにいかね?』


『おじはバリバリ仕事中だよね? なのにナンパ? 外回りのときに休憩するのはいいけど、ギャンブルやナンパをする奴は人間のなかでも最低の人種っておにぃが言ってた』


 誰だよ、そのおにぃって奴は!


 こんなオレ好みのJKにいらねえ教育しやがるとは……。


 ここはオレがそんなダメな教育しかできねえ、馬鹿おにぃの洗脳から解いてやんねえとなっ!


『ナンパなんかじゃないよ。ただのデート。オレとお茶を飲むだけで一万円あげちゃう。どう? 一万円なんてキミには大金でしょ?』


『ねーぽん、これって刑法二百二十四条の未成年者略取・誘拐罪に当たらない?』

『ええっと……どうなんだろう。でも大人が未成年に声を掛けるのは良くないよね』

『じゃあ、お巡りさんにつーほーして訊いてみよ』


 パシャリ♪


 愛の奴あろうことかスマホを取り出して、オレの顔を写した上でスマホをタップし始めやがった。


『や、やだなぁ、ジョークだよ、ジョーク。これはキミたちを和ませるためのジョークなんだからね』


 クソッ!


 腹立たしいことに愛のツンツンした塩対応にも拘らず、オレの股間が愛とヤリてえ、と轟き叫んでやがる!


 仕方ねえ……。


 プランZでいくわ。


 できれば、こいつは使いたくなかったが既成事実を作っちまえばこっちのもんだ。


『オレは悪い会社員じゃないよ。真面目な会社員。だから愛ちゃんとねーぽんの二人をお家まで送っていってあげようと思ってたところなんだ。だってこの界隈を歩いていると危ない人がいっぱいだからね』


 超絶イケメンのオレが愛に向かって秋波を送ると、ふざけたことに愛はビーム砲を避けるが如く華麗に回避する。


 ふざけんなよ!



 げっ!?


 美紗子の奴がこっちに向かってきやがった。


『課長っ! なにやってんですか! 外回りに行ったきり……あれ? 愛ちゃん? それにお友だちの根元さんよね? どうしたの、こんなところで』


『三迫のお姉さん、どもです。実はー変な人に絡まれてて、ねーぽんとお巡りさんにつーほーしようか話してたー』

『変な人?』


 ねーぽんまで愛の言葉に同意して、ぶんぶんと首を大きく縦に振ってやがる。


『美紗子! こんなところで油を売ってんじゃねえぞ、さっさと帰っぞ!!!』

『課長、幾らなんでも未成年……しかも部下の妹に手を出すとか最低ですねっ!』


『部下の妹だぁ? なに言ってんだ、オレはそんなこと……』


 美紗子が分けの分かんねえことを言ってくると思ったら、そっと耳打ちしてきやがった。


『はあっ!? 岡田の妹だあ? つってもねーぽんの方だろ?』


 美紗子とねーぽんが首を振っていた。


『んな、まさか、岡田の妹が愛だとかふざけた冗談は言わなねえだろうな!』

『岡田智は愛のおにぃだから! JKを仕事中にナンパしたり、パパ活を誘ってくるキモ上司とおにぃを比べんなし』


 ガーン、ガーン、ガーンと頭をハンマーで叩かれ、鐘のような音がずっと響いていた。


 岡田の野郎……兄貴という立場を利用して、愛と手を繋いだり、愛の風呂を覗いたり、愛の使用済み下着の匂いを嗅いだり、歯ブラシを舐めたり、愛を睡姦したり……ヤリたい放題やってるに違いねえ!


『ふざけんなよ! 岡田の方が犯罪者だろうがよぉ! オレはただ愛がかわいいと誉めただけだっ』

『それがキモい』

『は、犯罪だと思います……』

『こんな上司を持って恥ずかしい……』


 なっ!?


 このイケメンで仕事も出来るオレがこんな屈辱を味わったのは初めてだ! しかもオレの部下である岡田に!



 オレは一目惚れした愛を岡田に奪われ、その報復として岡田の彼女である和葉を奪うことを決意していた。


―――――――――あとがき――――――――――

マジか……バンダイさんよぉ! まさかのぼっちざろっくのぼっちちゃんをプラモ化するとか……。

様々なご意見はあるのものの、挑戦しようとする心意気やヨシ! 作者もえちえちでカクヨムの限界にチャレンジしようと思います!(ヤメレ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る