第107話 前世の同僚との思い出
「名前以外に覚えていることはあるか!?」
「うーん、うーん……それ以外は……」
俺はほぼ確実に前世の記憶を引き継いでいたが、エーデルワイスは前世の記憶に欠損があるのか、名前以外は確実に覚えいない様子だった。
それならそれで好都合とも言えた。
三迫美紗子なんて名前、探してもそうそういるような名前じゃないんだから。
まさか転生したら前世の同僚を推して、王子妃にするんて思わなかったよ。
三迫は割とサバサバした女子社員で仕事着はいつもパンツスーツ、フェミニンな装いでいる和葉とは正反対だった。性格もほぼ正反対で職場で二人が話しているところをあまり見たことがない。
席が隣同士で三迫はサバサバしていることもあり、俺は彼女とは男友だちのように接しており、お互いに上司である一之瀬のことを愚痴っていた。
『ホント一之瀬の奴、無茶ばっかり言うよな』
『確かに。一日でプレゼンの資料集めて、明日の会議で発表とかおかしいって』
『あいつ……わざと知らせなかったとか』
『あー! ありうるわ……』
そんななかでも三迫は仕事ができたので、俺は彼女に随分と助けてもらった。そのお返しに食事を奢ると言っても、和葉に悪いと遠慮し、いつも振られていたけど、代わりにお高いケーキやクッキーの詰め合わせなんかを贈ると喜んでくれていた。
『こんな高いのじゃなくてもいいのに』
『いやいやこれくらいしないと割に合わないって』
『そ、そう? 岡田の負担にならなきゃいいんだけど……』
『全然だね。むしろいつも手伝ってくれる三迫に感謝しかないって。なんか困ったことがあったら、いつでも言ってくれ』
『じゃ、じゃあ……あのね……岡田に相談があるの』
いつも歯切れのよい三迫だったが、その日に限ってやたらもじもじしており普段のサバサバが抜け、なんだかしおらしい態度がとてもかわいく感じた。
『あのさ、うちの親がおまえもそろそろいい歳だからお見合いしろって、写真を持ってきたんだ』
『そうか、で三迫はそのお見合いを受けるのか?』
俺が三迫に訊ねると無言でスマホを見せてくる。
『おー、なんか爽やかそうなイケメンじゃん! 会うだけ会ってみれば?』
男の俺から見ても、こりゃ優良物件で断る方がもったいないと感じてしまった。まああくまで外見からの判断だが……。
『上場企業の御曹司でなにをさせても優秀、おまけに人柄もいいらしい』
『ひゃーっ、いるとこにはいるんだな、そういうチート人間が……』
『断ろうと思ってるんだ』
『は?』
このとき俺は失礼な話なんだが、三迫の頭がどうかしていると思った。
そりゃそうだろう、そんなチート御曹司と結婚できりゃこんなクソブラック会社……いや会社はそこまで悪くないな。とにかくクソ上司のいる会社とおさらばできて、確実に玉の輿に乗れるんだから。
『だけど断りきるには、それなりの理由がないと向こうも納得がいかないらしい』
それって、チート御曹司が三迫に惚れてるって奴なんじゃ……。
『た、頼むっ! 一生のお願いだから、岡田が私の恋人ってことにしてくれないか? 岡田くらいしか頼める男がいないんだよ、私には……』
放っておくと三迫は俺の目のまえで土下座でもしかねないほど、いまにも泣き出しそうなくらい切羽詰まった表情をしている。
『ああ、それくらいなら構わないぞ。あくまで断るためだけってことなら』
『そ、そうか! 本当に本当に助かる!』
それから間もなく俺は三迫の両親に恋人として紹介され、結局、俺みたいな筋トレしか趣味のない男でも三迫に恋人がいると分かるとお見合い相手は渋々納得せざるを得なかったようだ。
そのあと三迫になぜあんな優良物件を断ったのか、理由を訊いても答えてくれなかった。
『気づきなさいよ、この鈍感……』
と、彼女が小声で囁いていたような気がしたが、まさかそんなのとは有り得ないと思ったものだ。
―――――――――あとがき――――――――――
いま(8/24)、人妻ASMRを書いているんですが色々難しいですねw そもそもASMR自体が難しいです。だから挑戦してみる価値があるんですけどね。色んな意味でギリギリですが、頑張ってみます。
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