第105話 肉団子祭り【ざまぁ】

 ふと横に目をやると男性が手を伸ばし、うつ伏せで倒れていた。背中には太いブロードソードが刺さっていて、もう息はないと思われる。その隣には身につけていた衣服を割かれた女性の姿があり、下着をつけていない股の間からは……。


 青い顔で口が開いたまま、ずっとそのままの姿勢でいる。行為中に首でも締められて事切れてしまったんだろう。


 盗賊のリーダーと思われる大男に問うた。


「貴様らは自らの行いを悔いたことはあるか?」


「は? さすがは育ちのいい坊ちゃんだ! 大人顔負けの難しい言葉を知ってるんでちゅね~! でもなぁ、ここじゃ力こそ正義なんだよ! 顔を見られちまった以上、もう家に帰ってママのおっぱいは飲めねえぞ、ははっ!」


「母親のおっぱいはすでに吸ってはいない。だが貴様に心配されなくても大丈夫だ。母乳こそ出ないが、俺はもうこれでもかとおっぱいは吸っているからな」

「てめえ……いったい何者だ?」


 あまり学がなさそうな盗賊でも、そこはリーダー。俺とのやり取りで、俺がただ者ではないことに気づいたらしい。


「俺か? ただの商家の小倅だ。そんなことはどうでもいい、最期に訊いてやる。命乞いをしてきた者に慈悲を与えたことはあるか?」


「はははっ! そんなことねえよ、そういう奴に希望を与えてからぶっ殺してやると最高だぞ、なんでって顔して逝きやがるからなぁ!」


 周りにいた盗賊たちも大男に合わせて、笑っていた。


 残念ながらこいつらは生かしておく価値がない。


 俺の国ではないけど、現場での死刑執行が望ましいと思う。


「俺は貴様らと違い、多少の慈悲は持ち合わせている。命までは取ろうと思わない」

「なに言ってやがんだ? このクソガキがよぉ!」


 俺の肩を後ろから掴んできた盗賊C。


「うぎゃぁぁぁぁぁーーーー!!!」


 右手で盗賊の指を取りクイッと曲げると手の甲側へ百八十度折れ曲がっていた。


「手、手がぁぁぁ……」


 盗賊Cはうずくまって手首と爪がキスしてしまった手を痛がっており、それを見た他の盗賊たちが俺を囲むように集まってくる。


「それで全員か? 俺を殺すにはいささか数が少ないと思うんだがな……」


 ブラッドらしく敵を煽って焚き付けていた。普段なら勝手にハードルを上げて、余計なことを! って思うところだが、今日ばかりは違った。


 酷いことをする奴らを一掃できるからだ。


 俺はフリージアから分けてもらったソーイングセットを胸から取り出す。


「これが最後通牒だ。貴様らが己の罪に向き合い、この国の司法に身を委ねるなら見逃してやる。さもなくば貴様らの先行きは保証しない」

「ざけんなぁ!!! クソガキがっ! ぶっ殺してやるっ!!!」


「頭! 早くこんなガキ始末して、馬車にいる女とヤリましょうぜ!」

「おう! そうだな、やっちまえ」


 はあ……やれやれだ。


 実力も見せ、これだけ警告してもダメだなんて……。


 プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ、プッ!


 仕方がないので俺はソーイングセットから針を取り、口に咥えた。そのまま吹き矢のように針を射出し、盗賊たちに当ててゆく。下手に殴りつけるとこいつらをミンチにしかねないからだ。


「うわっ!」

「ぐわっ!?」

「うっ!」


 斧や棍棒、サーベルなどを振り回していた盗賊たちの悲鳴が聞こえてくる。手足が吹き飛ぶような重傷者はいないが盗賊たちは手足に貫通創を負っていた。


 ほぼ無力化した盗賊たちに告げておく。


「どうした? 早く逃げないと死ぬぞ」

「くそったれ! まだまだてめえみたいなクソガキに負ける俺たちじゃ……」


 大男がまだ戦えそうだったが、目の前から向かってくる黄色と黒の警戒色をした生き物に言葉を詰まらせる。


「キ、キラービーだ……」


 鳩ぐらいの大きさのある巨大なスズメバチ、奴らは人間の鮮血の匂いを嗅ぎつけ、集まる修正がある。弱った人間が奴らと鉢合わせになれば一溜まりもないだろう。


 キラービーを遠視眼で捉えていた俺は馬車に寄り、御者へ声をかけた。


「リリーを連れて、ここを離れろ」

「しかし、グラッドさまは……」

「俺のことは気にするな。それともなにか? 俺がこんなところで死ぬとでも思っているのか?」

「いえ、とんでもありません!」


 キラービーは基本的に血を流し、適度に弱った人間を好んで襲うから、俺たちに類が及ぶ可能性は低い。だがキラービーが気まぐれを起こさないとも限らないので俺が軽く馬車馬の尻を叩くと馬車は進み始めた。


「ウィンズワールホテルで落ち合うぞ。先に行ってろ」

「グラッド! 気をつけて!」


 リリーが俺に心配そうに手を振っていた。


 俺がリリーたちと話している間にも輸血に使う注射針のようにぶっとい針で刺されてゆく盗賊たち。刺された盗賊たちは身体が硬直し、身動きができなくなっているようだ。


「や、やめろぉぉ!!! おれの腕を……ぎゃぁぁ!!」

「あ、足がぁぁ!!」


 キラービーは動けなくなった盗賊たちをその大きな顎でえぐり、食いちぎる。腕や足が丸ごと肉団子へと変えられていった。


 ブーン♪


 キラービーはあらから盗賊たちを肉団子にし終えると悠々と編隊を組んで飛び去ってゆく。あとには骨と髪が残されていた。


「よし、これでいい」


 穴を掘り、簡素な墓標を立てて、盗賊たちに殺されてしまった人たちを埋葬した。正直こういった泥臭いところはリリーには見せられない。見せたりでもしたら感心して、すぐにえっちしようとか言いだしてくるからだ。



――――フォーネリア王国王都。


 リリーを先に行かせたには他にも理由があった。


「ボクぅ? お姉さんと遊びに来たのぉ?」


 俺がリリーに内緒で訪れていたのは娼館街で、店先だというのに娼婦がベビードールのような薄着で客引きをしていた。


「とある女を探している」


 愛から聞いた『フォーチュン・エンゲージ3 13人のお妃候補』の主人公エーデルワイスを……。


―――――――――あとがき――――――――――

おおう、高品質な嫁を生み出してきたオリエント工業の創業者さんの引退に伴い、事業終了とな!?

作者はお世話になったことはないのですが、それだけ拘り抜いたラブドールだったのだろうと。長い間、お疲れさまでした。

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