第104話 馬車移動には盗賊が付き物

 アウッ! アウッ!


 街道を進んでいるとゲージに入れていたケルベロスのケロヨンがかわいく吠えている。


「出してあげてもいいかしら?」

「勝手にしろ。だがあまり人前で見せるなよ」

「もちろんです」


 俺の名誉のため、言っておくがケロヨンという名前は断じて俺が付けた名前ではない。


 ゲージから幼体化したケルベロスを抱えるとリリーは犬吸いを始める。


「あ~ん、ケロヨン。かわいいですわ~」


 ケルベロスも満更ではなく尻尾を激しく振り、三つ頭がそれぞれリリーの頬を舐めていて、実に微笑ましい光景だ。


 頭が三つあろうが、リリーにとってはかわいい子犬にしか見えないらしい。男と女のかわいいの基準は異なるので、そこは否定するつもりはまったくない。


 ケルベロスが俺とも遊びたいみたいでリリーが抱っこしているとしきりに前脚で犬掻きをしている。


「俺の従魔ならお手の一つでもしてみろ」


 するとケルベロスは子犬のくせして、俺の差し出した手の上にぶっとい前脚を乗せてきた。これは絶対に将来大きくなると素人でも予想できるくらいの……。


 大きくなるんだけどね、とんでもなく。


 仕草に関してはまあいやつてはある。


「まったく忠臣のネーミングセンスと言ったら……俺は黒狼牙と名を与えてやるところだったのに」


 黒狼牙という名を聞いたリリーとケルベロスは二人して、有り得ないといった表情を見せ首を振る。


「ブラッドさま、お言葉ですがその名は相応しくありません。なにせこの子はほら」


 リリーはケルベロスの脇を抱え上げ、俺にお腹を見せる。


 アウウゥゥゥン……。


 俺が下半身に目をやるとケルベロスは鳴き、尻尾で大事なところを隠していた。


「この通り女の子なんですから」


 リリーから知らされ、少し罪悪感が沸く。なぜなら魔獣とはいえ女の子を腹パンし続けたのだから……。


 そのなかでも救いはケルベロスが特に気にも留めておらず、リリーと戯れているところだった。


 グルルル!


 ケルベロスがまるで瘴気を含んだような紫黒い唸り声をあげる。急に俺にやられたことを思い出したのかと懸念したが、どうやらそうではないらしい。


「ケルベロスをゲージへ入れておけ。見つかるといろいろと面倒なことになる」

「はい……」


 ク~ン……とケルベロスが鳴いて寂しそうにするが、リリーがケルベロスをゲージに戻したときに、外からの声が馬車のなかにまで響いてきた。


「止まれ~!!!」


 両脇の木陰から鎧を身にまとった兵士二人が出てきて、俺たちの乗る馬車を呼び止める。


 御者が臨検かと勘違いしたのか呼び止めに応じたところで俺たちの馬車は明らかに身なりのよろしくない者たちに囲まれていた。


 窓を覗き込んだ禿頭の男がリリーに視線をやる。


「さすが妃選のまえだぜ! 上玉の女がわんさと王都に向かってきやがる。なかでもこいつはとびきりの美人ときてやがる」


「あなた方のような下賤な輩に誉められてもちっともうれしくありませんわ。私が誉められて、うれしくなるのはただお一人。ブラッドさまだけです」


 リリーは恐怖するどころか禿男の言葉に眉根を寄せ嫌悪感を露わにした。


「そこで待ってろ。すぐ片付けてくる」

「はい、グラッド」


 すぐに演技モードになれるリリーだったが、一応「危ないわ」みたいな言葉がないのは俺への信頼の証なんだろう。


「ほげっ!」


 俺が馬車のドアを勢いよく開けると張り付いていた禿男がもんどりうってステップから転げ落ちる。


「やりやがったな! クソガキぃ!!!」

「まあ待て。ひゃははは、ガキぃ! 運が良かったな、てめえのねーちゃんが俺らに犯されるところを見ながら、あの世に行けるんだからなぁ!」


 禿男が怒っていたが後ろからきた一際大きな男が現れ、禿男を窘めた。おそらくこいつが盗賊のリーダーなんだろう。


「貴様らに訊きたい」

「ガキのくせに生意気な口聞いてんじゃねえぞ! これだから商家のお坊ちゃまは育ちがなってねえって言われるんだよ!」


 ええい、ブラッドめ!


 俺は盗賊たちに訊ねてみようかと思ったのだが、グラッドになってもどうしても元キャラのくせは抜けずに尊大になってしまう。


「「黙れ!!!」」

「ひぃっ!?」


 俺と盗賊のリーダーの両方から叱責された禿男。


「貴様らは俺の姉のように令嬢を攫っているのか?」


「ははは! ガキのくせによく分かってんじゃねえか! 貴族や商家の令嬢を攫って、おれたちが充分に分からせてやったあと、身代金と交換って寸法よぉ! 冴えてるだろ?」

「だったら男はどうするんだ?」


 大男は剣を抜いて俺の首を目掛けて薙いだ。


「いらねえ、男はさっさとこうやって片付けて……」

「ん? 片付けがどうしたんだ?」


 剣の刃先はちゃんと俺を捉えていたが、ちゃんと捉えていただけに折れて、刃先がなくなっていた。


「ククク……何もないなら、俺が貴様らを片付けていいってことだよな?」


 一応善人だったらマズいので確認を取っておいたが、ちゃんと悪人だったのでしっかり教育しても問題ないよな?


―――――――――あとがき――――――――――

リリーと言えばリリーバイス! あ、すみません、メガニケネタです……。彼女もブラッドよろしく武器中心の世界で素手で戦う脳筋メスゴリラなんですがいつ実装されるんでしょうかね? 故人は実装しないという不文律のようですが……。とりあえず2周年のシンデレラに期待ですね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る