第103話 身体は子ども、頭脳は脳筋
リリーが膝に手をつき、息を荒くしながら俺のまえに姿を現した。
「はあ、はあ、ブラッド殿下!」
「リリー!? 危ないから、あれほど学院で待機していろと伝えていただろ」
「これがじっとなんかしていられますか! お姉さまが誘拐されたのよ。お願い……ブラッド殿下……お姉さまを取り戻して欲しいの……」
まさかフリージアをいじめていたリリーから、そんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかった。
「ブラッド殿下? 泣いていらっしゃるの?」
「痴れ者がーっ!」
「ひっ!?」
「目にサンドブラストを受けただけだ」
「殿下……それで目が潰れていないのが凄いです!」
ただの冗談なのだが……。しかし来たるべき日に備え角膜も鍛えておくべきではある。
リリーやオモネールたちが固唾を飲んで見守るなか、俺はかねてよりの実験を試みることにした。本来はフリージア姉妹から精力を搾られないで済むんじゃないのか!? という使い道だったけど……。
「忠臣よ! リッチスライムに命じて、俺を子どもに戻せ」
「「「「「ブラッドさま、なにを!?」」」」」
大木を含め、その場にいた者たちが口を開けて、俺の突拍子もない提案に驚く。
「いまはなにより時間が惜しい。早くしろ」
「分かりました。リッチル! ブラッドさまを【幼体化】するんだ!」
大木がリッチスライムを両手て抱え、命じた。リッチィー♪ と鳴き、ピョンピョンと飛び跳ねたリッチスライムのリッチル。
リッチルか放った光が俺の身体を包んでいたが、眩しくて目を閉じた。
再び目を開けたとき、俺の視線は大木の胸元より低く、大木の抱えたリッチルと視線がちょうど合っていた。
着ていた服のシャツは萌え袖以上にぶかぶか、ズボンの裾はお奉行さまの袴かよってくらい引きずってしまう。
「かっわいい! はあ、はあ……ショタ童貞おいしそ。お、お姉さんと遊ぼ。いろいろ教えてあげるからね♡」
んぷっ!
リリーは俺の子ども化した姿を見るや否や、ハグしてきた。俺の顔に当たる柔らかなリリーのおっぱい。
フリージアほど大きくはないが、彼女も素晴らしいモノをお持ちで……。
「お姉さんがリードしてあげるから安心して♡」
リリーの舌舐めずりを見た瞬間、ぞわぞわっと怖気が背中に走る。
なっ!?
リリーは俺の手を引き、テントへ引きずり込もうとしてくる。
子どもになった俺を逆レ○プしてくるような令嬢に安心なんてできるか!
まさかリリーはショタ趣味もあるというのか!?
これじゃ俺の実験は大失敗じゃないか!
いやいまは、それどころじゃない。
「リリー! 遊んでいる暇はないぞ、早くフリージアを助けにゆくのだ!」
「はっ!? そ、そうね。いまはお姉さま救出が先決だわ。でも助け終えたあとは私とお姉さまでかわいがって、あ・げ・る♡」
リリーはじゅるると唾液を啜り、口角の端から垂れたよだれをハンカチで拭う。その所作はさすが貴族の令嬢といったところで美しくはあるんだが……。
幼体化したからといって童貞に戻るということはないと思うのだが、リリーに目を付けられてしまって俺は不安でしかなかった。
――――フォーネリア王国との国境。
「ククク……これで俺をブラッドだと誰も分かるまい……」
あれれー? おっかしいなー。
とか言って犯人を煽るク○ガキ……。
ふりふりの長袖ブラウスにジャボタイ、そして短パン。これで虫眼鏡とスケボーにサッカーボールが揃えば異世界名探偵ができる! かもしれない。
フォーネリア王国の王都エクリアに通ずる街道の途中、俺たちの乗る馬車は停車した。
「馬車を止めて、こちらへ」
御者が槍を持った兵士の指示に従い、道の端へ移動させるともう一人の兵士がドアをノックした。
「失礼いたします。通行証の提示とお名前の確認をお願いいたします」
乙女ゲー世界だけあり、モブ兵士といえど言葉遣いは丁寧で、これには俺もにっこりしてしまう。
窓を開けたリリーは兵士に通行証を渡し、答えた。
「はい。私はリリネル・ライオネルと申します。ライオネル商会会頭である父の代理でフォーネリア王国へ参りました。そちらは私の弟、グラッド・ライオネルです」
通行証をまじまじと見つめる兵士。
「なにか問題でもございまして?」
リリーが微笑みながら、兵士に訊ねる。
「いえ、なんでもございません。どうぞフォーネリア王国の旅をご堪能ください」
「そう。ありがとう」
身分を偽り、偽名を名乗ったリリー。
適材適所という言葉があるが、『フォーチュン・エンゲージ』ではリリーは人を欺いたり、騙すことが得意だった。最期はそれが真実の愛のまえには敵わず、ブラッドと共に断頭台ざまぁされてしまうのだけれど……。
いまはそのざまぁを成功させた姉のフリージアを救いにいくため、人を欺いているのたから不思議なものだと思い、顎に手が自然と寄ってしまう。
フォーネリア王国の国境検問所を越え、馬車が走りだすとリリーは隣に座る俺を抱きしめてきた。
「は、はあはあ……じゅるるっ、ブラッドさま! 先ほどの私の演技、如何でしたか?」
リリーは俺に対してツンデレなところがあるが、グラッドには終始デレモードである。
「ん? あんなものは演技とは言わん。もっと劇場に足を運び、オペラの一つでも学んでみろ」
「ああん! ブラッドさまの厳しいお言葉、この私の胸にキュン♡と突き刺さりますわ~」
終始俺に熱い視線を送ってくる令嬢の名はリリネル・ライオネル。そして、俺の仮の名はグラッド・ライオネル。俺は半ば強引にリリーの弟ということにされてしまった。
うん、宿に泊まるときは必ず別室にした方が良さそうだ。
―――――――――あとがき――――――――――
ブラッドは名探偵コ○ンというよりコナン・ザ・グレートのような気がするんですが……。まあ異世界では細マッチョということでお許しくださいw
おっと、忘れてた……リリーにショタ食いされるシーンが見たい読者さまはフォロー、ご評価お願いいたします。
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