第101話 一狩り行こうか、SSS級モンスターとやらを!

 ケルベロスが暴れているという現場へ到着した。見慣れぬ若い騎士からの知らせでガセという線も疑ったがどうやら杞憂だったようだ。


「オモネール、街の住人たちの避難は?」

「は! すでに完了しております」


「ソンタック、親父はなんと?」

「陛下はー明日にはー! 十個騎士団を派遣と!」


「コビウル、復興の計画は?」

「万事整っておりますぞ、ボフゥ」


 この子たち、本当に十代か!?


 俺がケルベロス討伐に出たとフリージアたちから聞いただけで即座にそれぞれの仕事をこなしていたのだから。


 マジ有能すぎる……。


「忠臣! 貴様はそこで高見の見物でもしていろ。俺が合図したら、そのときは……」

「畏まりましたぁぁーーーーーー!!!」


 冗談ではなくケルベロスと対峙するには小高い丘の稜線の反対側に陣取らなければリーベンラシアの騎士団とて即座に全滅してしまう。


 いわば『フォーチュン・エンゲージ』シリーズにおけるラスボス!


 それがケルベロスだ。


「ぼくは初めて、ケルベロスを生で見ました……」

「そうか、忠臣は初めてか。俺はある!!!」

「さすがブラッドさまっ!」

「ククク……そう誉めるな」


 もちろん『フォーチュン・エンゲージ』で、だけど……。


 ただ大木にありのままを伝えようとすると、腰に手を当て胸を張ってドヤってしまう。


「ケルベロスをまえにされても揺らぐことのない自信……私もブラッドさまの勇気を見習わねば……」

「さすが我が主ー!」

「ケルベロスもブラッドさまをまえにすれば、ただの犬コロですぞ、ボフゥ」


「「「「確かに!」」」」

「ははははははは、煽てるでない。まあその通りなんだかな!」

「「「「はははははははは!」」」」


 オモネールたちは笑ってこそいたが、声が上擦ったり、震えたり……額からの汗や固く結んだ唇からも相当緊張していることが手に取るように分かる。


 そんななかでもマイペースに自信過剰なブラッドの言動は頼もしいと受け取られてしまったらしい。


 原作だとその自信過剰が災いして、ケルベロスに大敗してしまうんだけどね……。



 ブオオオオオォォォ!!!



「村が消えてしまいました……」

「マジかよー」

「ブブ……信じられませぬ……」

「……うそだろ」


 轟音が頭上を通過したので稜線から頭一個分を出して覗いてみると眼下に広がっていた村が炎に包まれ、瞬時に消えてしまい四人の表情は真っ青になっていた。


 それもそうだろう。


 魔獣ランク、SSSトリプルエス級に列せられるケルベロスは怪獣映画さながらの巨躯に加え、三つの頭を持ち、それぞれの口から炎、毒、氷の強力なブレスを吐く。


「ククク……ケルベロスは台風や地震、大規模な竜巻や山火事といった言わば災厄と同義! だが恐れるな、魔王と称される俺か、最凶の魔獣と呼ばれるケルベロスか、どちらが強いかタイマンで雌雄を決してやる!」


 稜線に隠れるオモネールたちに向かい、演説とともに拳を突き上げるとそこにいた俺の取り巻きたちは歓声をあげて俺の背を押す。


「トウッ!」


 稜線の向こうにジャンプして出るとブレスの影響か、呼吸すると猛暑……いやサウナルームの扉を開けたような熱い空気が鼻腔に入ってくる。


 しっかりと目の当たりした光景。俺は先ほど炎を吐くと言ったことを訂正したい。


 炎を吐く×


 マグマを吐く○


 足が倍速で再生したときよりもさらに回っているような気がした。


 丘の稜線から一気に麓まで駆け下り、まだ赤黒く光っているマグマの残る村があった場所までたどり着いたが、途端に俺のまえに影が落ちる。


 まだ先にいるケルベロスが陽の光を遮っていたのだ。


 ケルベロスの頭の一つが俺の姿を捉えると、すぐさま巨躯が正面を向き、俺は三つすべての頭に睨まれていた。



 カルルルルルルルルッ!!!



 背を反らし、犬歯を見せつけ威嚇する姿は猛犬注意などというレベルではない。


 なんせ城くらいのデカさがあるのだから。


「ケルベロスよ! 俺に服従し、犬になるなら手荒な真似はしない。多少の知能があるならば俺に腹を見せろ」


 無駄だと思ったが一応こちらの意思は伝えておく。


 ケルベロスの頭すべてが鼻から息を吸い込んでいるようだった。


 交渉決裂だな。


 クソミーニャでも意思疎通は可能だというのに。


 ハバネロのような激辛の香辛料で内臓すら鍛え上げた俺だ。ケルベロスのマグマを吸い込み、お返しすることは可能だと思ったが、なんだかケルベロスの吐いたゲロを飲み込むようで、生理的に無理っぽかった。


 俺はありったけの空気を吸い込み、肺に貯蔵する。ちなみに俺の肺は鍛え上げた筋力により空気を何倍、何十倍にも圧縮貯蔵が可能となっている。


 心臓など勝手に動く内臓などの筋肉を平滑筋と言うのだが、腕や足の筋肉などと違い自分の意思で動かすことができない。


 だが俺の筋トレは随意筋のみを鍛えるに非ず!


 俺は不随意筋すら鍛えることが可能になってしまっていた。



 ブオオオオオォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーォォォォォ!!!



 恵みの大地を不毛の地へと変える三種混合の死のブレスが俺に向かって放たれてしまう。



 ブホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーォォォォォッッッッ!!!



 ケルベロスの死のブレスに合わせ溜めに溜めていたガチャ石のような空気を一気に開放する。


【ブレス返し】


 ブレスを吐けるからといって、ブレスに強いとは限らない。自ら放った毒ガスアルデヒドで瓶などに閉じ込めていた場合、カメムシは死んでしまうのだから……。



 キャンキャンキャンッ!



 すべてのブレスが跳ね返ってきたことでケルベロスはまるで犬がトラバサミの罠に掛かってしまったかのような情けない鳴き声をあげていた。長っ鼻の顔からは酸を浴びたような湯気があがって、悶えている。


 そうなってしまえば四つ脚のケルベロスなど俺の敵ではなかった。最凶の災厄と呼ばれる魔獣でも……。


 ただのテーブル同然だ。


「腹の下に潜ればお得意のブレスも吐けまい。貴様が俺に服従するまで腹を叩いてやる覚悟しろ」


 お腹ぽんぽん攻撃を開始した。


 屈伸して飛び上がり、産毛しか生えていない腹にアッパーを放った。



 ギャウッギャウッ!



 動物虐待じゃ、ないよな?


 『フォーチュン・エンゲージ』では二百年もの間、人々を苦しめ続けてきたとんでもないもふもふなんだから。


 俺の強烈なアッパーを受けたケルベロスが泣き喚く。それもそうだろう、巨躯が浮いてしまうような強烈なモノ。


 意外と腹周りの外皮は柔らかく、貫こうと思えば貫けるんじゃないかと感じた。だがあくまで俺が狙うのは服従。


 魔王に相応しい従魔が欲しいのだ。


 三発ほど打ち放ったところでケルベロスは足取りがよろよろしてくる。まさかケルベロスも奴からしたら蟻みたいな俺に良いようにやられるなんて思っても見なかっただろう。


 ちらと丘の稜線を見るとオモネールたちが拳を突き上げて、俺を応援してくれている。


 倒してなるものか!


 倒れれば逆にブレスを吐くことができてしまう。


 俺は大丈夫でもやはり住む場所や耕作地に影響してしまうのだから。



 ケルベロスのお腹をぽんぽんしていると妙に静かになる。



 脚の下から出て、ケルベロスの表情を伺ってみると……。


「ククク、立ったまま気絶してやがる」


 白眼を剥いて、スタンディングダウンする姿は最凶の魔獣と呼ばれるだけあって、人間に倒されまいとする意地だったらしい。


「それでこそ、俺の従魔に相応しい」



 安全が確認されたところで大木たちを呼び寄せる。


「二百年間、誰も倒せなかったケルベロスをいとも簡単に倒してしまわれるなんて……やはりブラッドさまはリーベンラシアの国王……いや世界を統べるに相応しい」

「まったく以て同じくーーー!!!」


「では我らもブラッド大王さまに相応しい臣下を目指さなくてはなりませんな、ボフボフボフボフ」


 もう充分すぎるくらい君たちは有能だから!


 彼らの成長に合わせていたら、それこそ休養なしに筋トレしないといけない。いや筋力トレには休養が不可欠!


 どうすれば……と更なる筋肥大について思案していると大木が大声を上げた。


「ブラッドさまっ! 申し訳ありませんっ!! リッチスライムが【矮小化】を間違えてしまい、【幼体化レグレッション】をケルベロスに施してしまいました……」


 大木は平謝りに謝り倒していたが、俺には【矮小化】と【幼体化】の違いが分からない。


「謝るのはいい。とにかく変化があったのなら、ケルベロスを俺に見せろ」

「はい……」


 大木の後ろに隠れていたのだろう。大木は両手いっぱいに抱えた黒いもふもふを俺に差し出した。


 ころころしたもふもふした獣が一匹。


 三つの頭がある巨大な子犬がそこにいた。


「う、うむ……小型化に成功すればマシな方だろう」


 かわいいと言うべきか、三つの頭がキモいと言うべきか……。


 ただ従順にはなっているようで、


「お手」


 あおん♪


 俺が手を差し出すと前脚を置いてくる。


 ま、まあ想定よりころころしたケルベロスになってしまったが、仕方ない。


 そうだっ!


 もしこの【幼体化】を使えば……。


 良からぬことを企んでいたのが悪かったのか、ケルベロスを討伐して沸くテントのなかに伝令が駆け込んでくる。


「ブラッドさまっ! 大変です。フリージアさまが攫われました!」

「なんだと?」


―――――――――あとがき――――――――――

誘拐されると言ったら、ピーチ姫!

さすがに誘拐されすぎだろうと思うのですが、そこはゲームなので仕方ないですね。作者も愛されるガバい設定を考えていきたいと思います!

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