第98話 みんな違ってみんな良い

 愛は俺の背中にぴたりと身体を重ねてくる。


「おにぃは愛のこと……きらい?」

「……」


 そんなわけあるか! と強く強く否定したい……。


 目に入れても痛くないほど俺にとって大事な妹なんだから。


 いや待てよ、もしかしたらシスコンの俺に呆れて和葉の奴は愛想を尽かしたのかもしれない。和葉自身は俺が気をつけをできないからなんて言ってたけど。


 そんなことはもうどうでもいい。和葉との関係は終焉したのだから。


 それよりも目の前の愛だ!


 イカせて気絶させても【教誨室】が解けないと分かった以上、愛を説得して彼女自身に魔法を解いてもらうしか、愛とえっちする以外で脱出する方法がないのだ。


「愛はおにぃのこと……好きだよ」


 っ!?


 愛は俺のお腹に手を回してきてハグしながら告白してきた。


 愛が年齢を重ねる度に芸能事務所やモデル事務所からのスカウトは増えていった。断った件数も優に百社を越えるほどだ……。


 もちろん、愛のクラスの男子からのアプローチも多くあったが、それは愛自身が他に好きな人がいると伝え、すべて断っていたらしい。


 それでもしつこくつきまとう奴がいれば俺の出番で、タンクトップ姿でしつこい奴に挨拶するだけで、逃げ帰ってゆく背中を見て愛と二人で笑っていたものだ。


 しかし、まさかその愛の好きな人が俺だなんて夢にも思わなかった。


「俺は……」


 確かに愛のブラコンぶりは分かっていたつもりだが俺みたいなガチムチマッチョを恋愛対象として見ていたのが驚きでしかない。


「俺の前世は貴様の言う通り、おにぃだったかもしれない。だがいまの俺はブラッド・リーベン。赤の他人だ。それに加え俺に前世の記憶とやらは失ったようで持ち合わせてないな」


 ブラッドが余計なことを言わないか冷や冷やしたが、愛に諦めてもらうには最良の回答ができたと思う。


「おにぃ……ホントに愛のこと……忘れちゃったの? 愛が叱られて泣いてたらおにぃに抱っこされたことも、おにぃに手を引かれて夕日の道を歩いたことも、両親の代わりに参観日に来てくれたことも、高校生になってもいつもお風呂に入ってたことも……忘れちゃったの?」


 ……。


 俺の名誉のために言っておきたい。高校生まで一緒にお風呂というのは一度きりしかない。俺は高校生になったら、愛は当然俺とお風呂を入ることを拒否するものだと思っていた。


 いやむしろ中学生の時点でおかしかったのだ。


 一応ね、Yahoo!知恵袋で相談したんだよ。


―――――――――――――――――――――――

○ニンニクキンニクさん

 2020/8/8 22: 22           100回答


中学生になっても妹が一緒に風呂に入ろうとしてきます。俺はダメだと諭しているのに。妹は芸能事務所やモデル事務所からスカウトされるくらいかわいいです。どうすれば良いのでしょうか。


人生相談 10万閲覧

1万人が共感していません


回答(100件)

●近親相姦あかんさん

 2020/8/8 22: 30


おまえは頭がおかしいみたいだから病院行ってこい


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●妹できねえかな?さん

 2020/8/8 22: 49


裏山! 


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●愚者どもに鉄槌を!さん

 2020/8/8 23: 05


タヒねっ!!!


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―――――――――――――――――――――――


 酷くね? 


 回答はそんな感じで俺に対する罵詈雑言が並んで、まともな回答は一つもなかった……。


「おにぃ……なんで泣いてるの?」

「し、知らん! 目にタイガーバームが入っただけだ!」

「タイガーバームなんて、もうないし、入ったら目が見えなくなっちゃうよ」


 なぜか惰気を払うために目の周りへ塗っていたタイガーバームという国内販売をサ終した薬品名が口に出てしまった。


「愛ね、おにぃ以外の男の子に触れられてしまうと蕁麻疹が出るようになっちゃった……。でもね、不思議とブラッドだとまったく症状が出ないから。やっぱりブラッドはおにぃなんだと運命を感じちゃった♡」


 まさか、まさかなんだが愛は俺と常に一緒にいようとすることで自身をそうなるよう調教していた?


 それって俺が愛のパトーナーとして役目を果たさないと愛は幸せになれないってことなんじゃ……。


「愛の赤ちゃん部屋がおにぃのミルク、ほしいって泣いてるの♡♡♡」


 愛は俺のズボンの前立てをまさぐってきていた……。


―――――――――あとがき――――――――――

もうヤンデレ妹の求愛からは逃れられませんなぁw

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