第94話 無自覚女ったらし
大木の召喚モンスターによる掃討戦が進み、ブリューナク王国の者はほとんど捕縛されてしまっていた。
最後まで気を吐いていたアレスだったが、スライムや触手を持った植物モンスターに手足を絡め取られ、俺のまえへと差し出されている。両膝を床へつき、胴体と腕を一緒にロープで縛られている若い国王。
俺は完全にアレスの生殺与奪の権利を握っていた。
「私をどうするつもりだ、魔王ブラッド! いやリーベンラシアの馬鹿王子よ」
馬鹿王子……ジークフリートと懇意のアレスのことだ、あいつからあることないことをたくさん吹き込まれたのだと思う。
いや、フリージアとリリーに毎晩どころかいつも種付けを監禁さてた上でせがまれ、仕方なく姉妹と3Pしている俺は事情を知らない者からしたら間違いなく馬鹿王子と揶揄されてもおかしくない。
本当に不本意ではあるんだが……。
「ククク。安っぽい挑発だな。だが残念だったな、俺はジークフリートとは違うのだよ、ジークフリートとは! 貴様は俺を挑発すれば斬首ですべて罪を償えるとでも思っているんだろう。だが俺はその程度では許さん。馬車馬のようにぼろぼろになるまで働き、ブリューナクを自らの手で復興させろ。まあブリューナク王国は我がリーベンラシアの属国となるがな」
愛曰わく「アレスは良い子」だったらしく、アンメルツが何かしらの方法で操っていた可能性が高い。ただアンメルツは気絶したことで術が解け、険しかったアレスの表情は柔和なイケメンになっている。
これがアレス本来の姿なんだろう。
拘束されたアレスのまえにネモがゆっくりとした足取りで向かってゆく。アレスとネモの二人はまるで恋人のようだったと愛から事情を聞いて、アレスを処することが躊躇われた。
「アレス……」
「南美……」
ネモはアレスを見て、真珠のような大粒の涙をこぼしていた。
雨降って地固まる。
俺はそんな淡い期待を抱いていた。
パッシーーーーーーーーンッ!!!
俺は目の前でなにが起こったのか、分からなかった。数秒の後、ゆっくりと理解が追いつく。色々あったが感動の再会だと思っていた俺の期待は脆くも崩れ去り、そこにはネモはいつもの弱々しい姿はなかった。
「あなたは最低の人です! あろうことか私の目の前で浮気を見せつけるなんて! あんな、あんな、
うれしそうに腰を振っちゃう破廉恥なところを見たのは……。と、とにかく私とアレスの仲は今日で終わりですっ!」
ああ……そりゃそんなの見せられたらトラウマになるよな。
分かるよ、分かる、ネモのその気持ち。
恋人を寝取られた者の気持ちは、その苦汁を飲まされた者にしか真の意味での共感はできないだろう。
「いくら横田さんが色っぽかったからって、ほいほい靡いてしまうなんて、サイテーですっ!!!」
でたー! サイテーですっ!!!
地味に応えるこの言葉。
アレスは術が解け、完全に賢者モードのところに恋人関係だったネモからの「サイテーですっ!!!」攻撃をもらい、瀕死状態だ。
せっかく生かしたのに、ここでSAN値がゼロになり死なれては困る。
どちらにせよ、聖女であるネモの協力が得られない限り、ブリューナク王国は瀕死状態ではあるんだが……。
「私は魔王さまについて行きます! 浮気性のアレスと婚約するくらいなら魔王さまの性○隷の方がマシです」
は? 性○隷の方がマシとか意味が分からん!
いやそもそもなんで俺!?
「ネモっ! 俺は貴様の思っているような清廉潔白な男ではないっ!」
「はい、ブラッドさまは魔王さまですから、それは承知しております。はあはあ……魔王さまほどのお方が一人だけで満足できるなどと思ってませんから」
『フォーチュン・エンゲージ』全シリーズ制覇の愛なら分かるかもしれない。
聖女であるネモがフリージアみたいに【
もしスキル覚醒とか起こしたら、フリージア姉妹だけでなく俺は妹の親友……しかもJKとまで関係を持ってしまうそれこそサイテー野郎になってしまう。
ネモはなにが絶対に俺を離さないといった具合に俺に抱きつき、アレスに見せつけていたのだった。
どうしよう、この状況……。
―――――――――あとがき――――――――――
お盆ですぜ、お盆。と言ってもこちらのお話がリリースされる頃にはとっくに終わっているんですが……。お盆が終わる頃には原稿が帰ってきて追い込まれているような気が致します。そんな作者を励ましてくださるお優しい読者さま、フォロー、ご評価で応援して頂けると大変励みになりますのでよろしくお願い致します。
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