第93話 達磨さんが転んだ【ざまぁ】

「キミが心からみんなに謝る気があるなら、ボクの魔獣たちの孕み腹にしない。どうする?」


 大木はじっとアンメルツと目を合わせ、訊ねる。そこには、いままで彼女にいじめられていた気弱なヲタ男子というイメージはなかった。むしろ彼女の身を案じているといった雰囲気だ。


 大木はそれだけに止まらず、返答に窮しているアンメルツに譲歩する。


「ボクも横田さんにいじめられていたから酷いことをしてしまったことはちゃんと謝りたい。スライムを使って女の子であるキミの服を溶かそうとしたこと、更にほぼ裸になったキミにエロいことをしようとしたことは人として最低だったと思う。ごめんなさい……」


 ネモに対する仕打ちを見聞きするだけでもアンメルツの大木に対するいじめは想像を絶する物があったんだろう。それでも大木は水に流して、アンメルツに深々と頭を下げ和解しようとしていた。


 俺は人間として成長した大木にサムアップしてやろうとしたが、ブラッドの身体だと偉そうに腕組みして頷くことが精いっぱいだった。それでも大木はうれしそうにしていたのだから、本当に良い奴になっている。


 一方のアンメルツは出血が止まらない腕を押さえ、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「分かった……。ちゃんと謝る。だから許して」

「分かってくれて良かったよ。怪我もたぶん……うっ!」


 やや緊張した面持ちだった大木がアンメルツに対して、緊張を崩し笑顔で握手を求めようと手を伸ばしたときだった。アンメルツが隠し持っていたナイフで大木の腹を抉っていた。


「忠臣!」

「おーきん!」

「大木くん!」


 大木は大きな腹を抱えて、膝を床へついてしまう。腹からは赤黒い液体がだらだらと垂れ、アンメルツの足下にまで広がっていった。


「ひゃはははははははははっ!!! ホント、あんた……馬鹿なのぉ? あたしがあんたや岡田や根本に頭を下げるとかあり得ないって! つかキモいヲタに人権とかねーし。あたしにんな、キモ画像で抜いた手で触れようとすんなよ、吐き気がするって」


 大木を刺したナイフを持ったアンメルツの手にも赤い鮮血のような液体が付着している。


 なるほど! 鍛えた大木とはいえ流石に俺のように刀槍不入とはいかないはず。刺されたと思った大木はちゃんと保険をかけていたらしい。


 しかしなぜだ?


 俺の下で働くようになった人たちはやたら頭が回るようになるのは……。俺が馬鹿王子と揶揄されるかしっかり働かないと、と思うのだろうか?


 まんまと大木の罠に掛かったアンメルツはうずくまる大木を見て、まだ嘲笑っている。


「いひひ、いひひ! マジざまぁ! 誰がおまえらみたいなクソ雑魚に謝ったりするか、ボケがっ! 絶対に復讐してやるから覚えて……えっ!?」


 笑っていたアンメルツだったが、大木が何事もなかったかのようにすくりと立ち上がった姿を見ると、彼女の顔から見る見るうちに血の気が引いてゆくのが手に取るように分かる。


 大木は溜め息混じりに心情を吐露した。


「キミが本当になにも学ばない子で良かったよ。ちゃんと反省でもされてたら、こんなことはできないからね。スライモン! 樹李亜ちゃんの四肢を溶かしちゃって!」


 床に広がっていた大木の腹から流れた液体はアンメルツの両脚へ絡みつく。更にナイフを持った手にも増幅して、しっかりと赤いゼリー状の物体がアンメルツの手を覆っていた。


「ひっ!?」

「今度は服なんかじゃ済まさない。ボクを殺そうとしたんだから、その覚悟はあるよね?」

「やめろ、やめろって! やったら、おまえを殺してやるからぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!」



 四肢がなくなりだるまになったアンメルツを筋肉質のオークが抱えていた。雰囲気からして魔獣たちの統率役っぽいようだ。アンメルツはオークたちになにもされていないのに、レイプ目になっている。


 たぶんこの先のことを想像して、そうなってしまったんだと思う。ちょっと想像力が豊か過ぎるような気もするが……。


 飛び跳ねたり、左右に重心を傾け踊ったりして嬉々とするゴブリンたちに大木は命じていた。


「一応クラスメートなんだ。おもちゃにして壊すようなことはしないであげて」


 もうどうしようもないアンメルツだが、そんな彼女にも大木は気遣いを見せていた。


 ブリューナクのベッドルームへとドナドナされてゆくアンメルツを見届けた俺たち。


 おっと忘れるところだった。


 俺は捏ねに捏ねた物体を大木へ見せる。


 「これ、クラスメートです」と言いかけたが不謹慎過ぎると思い、口を噤んだけど……。


「忠臣! こいつをスライムとしてテイムできるかやってみろ!」

「ひっ!? ブラッドさま、いくらなんでもそれは無茶なのでは!?」


「我が肉体よ、一つ質問がある。そこにある物体Xはモンスターか否か? 『はい、モンスターです』」

「「「「……」」」」


「えっと、ブラッドさまの一人芝居ですよね?」

「断じて違う! 俺の筋肉には大賢者ならぬ大脳筋が詰まっているのだ」

「分かりました……そこまで仰るなら……どうにでもなれっ! 【魔獣登用テイム】」


 大木がリッチスライムを抱え、契約を済ますとスライムの体表に奴隷紋のような意匠が刻まれていた。


「そんな、いやまさか……で、できました……」


 大木は驚いていたが、俺も驚いていた。


 だがブラッドなので……。


「どうだ、恐れいったか忠臣よ! 俺を疑うなどまだまだ忠誠心が足らぬようだな、ハハハハハ!」

「流石、ブラッドさまです!!!」


 さも当然みたいに腕組みして身体を反らし、偉そうに振る舞ってしまう。


 俺が大木を糾弾せずに仲間としたのは単に愛のクラスメートだったからとか、いじめられっ子を哀れんだだけじゃない。ちらっとフリージアの谷間から覗いたもふもふに視線をやるとさっと隠れてしまった。


 クククッ。ミーニャよ、覚悟しておけ。


 大木が更なる成長を遂げた暁にはおまえのシナリオ通りにことが進まないからな!


―――――――――あとがき――――――――――

次回はなんと愛たそが……( ´艸`)

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