第91話 脳筋無双2
アンメルツが皮膚の爛れた男に紫色の怪しい粉を掛けると、男からもくもくと煙が立ち込め姿が見えなくなった。
「あははは! あんたたちはもう終わりなのよ。あたしはあんたたちみたいに甘くないの。リッチ化した堤の前じゃ誰も勝てないから。あんたたちが命乞いしたって、あたしは許さない。特に岡田! あんたは特別にあたしが嫌というまで苦しめて、苦しめて殺してやるから!」
すげえな。
うっかり放屁カウンターを決めた俺が言うのもなんだが、クラスメートを治癒させるどころか、平気でゾンビにさせるなんて……。
さっきまで失禁してるんじゃないかと思うほどビビってたアンメルツが見てるのもムカつくくらいドヤってるんだ、リッチになったら相当強いことが予想される。
「はあ……御託はいいんだよ、御託は……。早く始めてくれ。準備運動で出た汗が引いてしまい、身体が冷えて堪らないからな」
「あっはっは、ホント馬鹿王子とか呼ばれてるのもよく分かるわぁ~! 自分の力を過信して、わざわざ堤が完全体になるまで待つなんて! でもね、その馬鹿さ加減が命取りよ」
「俺の心配より己の心配をしたらどうだ? 貴様は己の容姿に自信があるようだがこんな豚の便所のような宮にいれば、ただでさえ見れない顔がもっと見れなくなってしまう。せめて、そこにいるフリージアぐらい心根がよければ救いなんだが、貴様の性根は汚水よりも濁ってる」
「ムカつく。堤、早く片づけて」
煙が晴れるとフード付きの黒いローブを着た奴が全貌を現す。骨が露出した肉体……いや骨格に辛うじて肉片がついてるような躯。眼球があった場所はランタンのように赤い光が灯っているようだった。
アンメルツの命令を受けるとリッチの手のひらか俺の方を向く。無詠唱で放たれた【ファイアボール】。ただし威力は並みの魔導師が放った物とは段違いだ。
それこそ小さな太陽を召喚したのかってくらい大きな火球で当たらずとも勝手に衣服に火がついてしまうよううな代物……。
――――うわぁぁーっ!!
――――火、火がぁぁぁ!?
――――あ、あづいぃぃっ!!!
リッチの側にいた者たちの衣服に火かつき、さらには鎧がどろどろに溶け、味方の犠牲すら厭わないムチャクチャな奴だ。
俺に眼前に迫る真っ赤に燃えさかる火球。
まあ大気圏再突入を生身でできてしまう俺には暖房の風が当たった程度にしか感じない。
「ていっ!」
俺は火球に向かって手を伸ばし、ただ叩く。
「あはははははっ! 馬鹿じゃない、手が溶けて無くなるわよ~! その程度でリッチの【ファイアボール】が防げるわけ……」
「危ないっ!!!」
アンメルツは俺をあざ笑っていたが、アレスは危険を察知してアンメルツの抱えながら飛び退いた。
「避けるだけじゃなく、反撃もしなさいよっ! まったく使えないんだから」
アレスはアンメルツから叱責され、「済まない」と言葉少なげに謝罪していた。そんな二人をじっと見つめていたネモは胸を手で押さえている。
かわいそうに……やっぱり浮気されたことがショックだったんだろう。
俺がネモに同情の念を抱いているというのに、元賢者だったというリッチが馬鹿みたいになっていた。
【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】【ファイアボール】
作戦自体は悪くないが……。
なんせ俺の後ろには愛やフリージアたちがいるのだから。
「せいっ! はっ! やっ! とうっ!」
リッチが闇雲に速射砲のごとく桁違いの【ファイアボール】を放つものだから、後ろへ逸らさないよう弾き返していた。
さながら温泉卓球といった雰囲気だ。
――――【ファイアボール】がこっちにっ!
――――うぎゃぁーーー!!!
――――く、来るなぎゃぁぁぁーーーーーーっ!
俺の打ち返した火球がブリューナクの貴族や兵士たちに当たり、消し炭と化している。
ああ……。
分かるよ分かる、その気持ち。
俺も
「おいおい、無駄な攻撃どころか、味方に被害が及んでいるぞ。貴様は賢者だったんだろ? これじゃ同士打ちもいいところだろ?」
俺の意思に反してオートマティックに煽ってくれるブラッドだったが、その煽りにもリッチは無反応。
「……」
ゾンビ化すると人と話せなくなるコミュ障を患ってしまうんだろうか?
「俺を倒したければそんなチンケな魔法では無理だぞ。貴様の持てるすべての力を使わなければ、な!」
俺がリッチを煽ると奴の目の光りが強くなり、こちらに向けて手をかざす。
【
おおっ!?
「ブラッド!?」
「ブラッドさまっ!」
「殿下っ!!!」
俺の視線がどんどん下がってゆき、やがてすべての人、物を見上げるようになってしまっていた。
ああ、なるほど!
俺の身体はリッチのデバフで小さくされてしまったのだ。差し詰め、手乗りブラッドといったところか。
「あははははは! 小さくなったらいくら魔王でも弱くなるわよね~! 流石よ、堤。魔王を倒したご褒美に抱かせてあげてもいいわよ~って、もう無理か~、ざんねん~」
アンメルツは身体を使って、クラスメートたちに命令を聞かせていたのか。どうやってクラスを支配するようになっていったのか気になっていたが、自分から秘密を明かしてくれた。
アンメルツはクソ女らしく自分の立場が逆転したかと思ったら、醜悪な笑みを浮かべている。
そりゃ、そんなクソっぷりなら愛に完敗するだろうな。
「じゃあ魔王を踏み潰してあげよっかぁ!」
にやにやしながら、俺を靴で踏み潰そうとしてくる。
「あはははははっ! 踏んで上げたわ、早く潰れ……」
偉く大仰なことを吐くから、途中で変身を止めずに待ってやったが期待外れもいいところだ。貴様らのために待ってやった時間を耳を揃えてきっちり返してもらいたいな。
「ハヤク、フミツブシテクレヨ!」
俺はアンメルツの靴底を片手で支える。アンメルツは顔を真っ赤にして俺を全力で踏み潰そうとしてくるがまったく圧力を感じなかった。
「イイナガメダナー。サスガネンジュウ、ハツジョウシテルビッチダナ」
アンメルツのローアングルを合法的に眺めていると、
「キメえんだよっ!!!」
スカートの裾を手で押さえて、後退りしていた。身体が小さくなっても俺の筋力はまったくデバフできていないとか、ポンコツもいいところだ。
リッチは俺に手をかざそうとするがまったく照準を合わせられていない。俺は小さな身体を生かし、リッチの足まで駆け寄っていた。あまりにも俺が小さくて魔法を撃つことすらままならないらしい。
大体のファンタジーだとリッチは人間ではなくモンスター扱いされる。
なら……。
俺はリッチの足の親指を掴むとそのままドラゴンスクリューの要領で思い切り捻りを加える。すると
リッチのつま先に捻れの力が伝わってゆき、足、腰、胸、頭と順番に回転していった。
ビチャーーーーンッ!!!
床に思い切り叩きつけられたリッチの身体。完全なスケルトンとは言いがたく、骨はばらばらになっていなかった。
確かリッチは人間ではなく、モンスター扱いだったよな? だったら面白いことができるかもしれない。
「タダオミ! テイムノジュンビヲシテオケ!」
大木に向かって俺は叫んでいた。
―――――――――あとがき――――――――――
おふぅ、マルチャーナ先生のコスがヤバいですなw
透け透けブラウス着て、羞恥に堪えているあの表情……某所でもコメントされてましたが、まさに家元感がありまする。ただ作者……お丸茶先生がおりませんので……。持ってたらコスガチャ回してたかも。
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