第89話 脳筋無双1

「な、なによっ! なにが起こったの!?」


 玉座の間を通過する際にチラと見えたふんぞり返っていた女は目の前で起こったことを把握できておらず、これでもかと狼狽している。


 たぶん、あいつがネモをいじめていた奴でリーベンラシアとブリューナクとの戦争を主導したすべての元凶だろう。


「ブラッド! ねーぽん!」

「ブラッドさまっ!」

「ブラッド殿下!」


 ある程度予告済みだったが、それでも愛、フリージア、リリーが俺の突然の登場に驚いていた。


「ひいいいーーーん! あ、愛ちゃん!!!」

「やっほー、ねーぽん。ただいまーおひさしブリュッセル」


 愛はネモに微妙なギャグをかまして、場はやや重の空気が流れている。


 俺がネモを腕から離すと彼女は丁寧にお辞儀した。


「ありがとうございました、魔王さま」

「礼には及ばん。さっさと愛の下にゆけ」

「はいっ」


 ネモは愛の下に駆け寄るとロープでぐるぐる巻きにされた愛に抱きついた。


「愛ちゃ~ん!」

「どうしたの、ねーぽん」


 そうなのだ、まだ愛たち三人はかわいそうにロープで縛られていて……。


 こんな酷いこと誰がやったんだ!!! 


 俺たちでした……。


「愛、フリージア、リリー、あと忠臣。茶番は終わりだ。いつまでも悲劇のヒロインを演じている場合てはないぞ」

「そだね、じゃあ……」


 いつでも自分の手で解けるように細工がしてあったロープを解こうとしたときだった。


「なにボーッと見てんの! 岡田と根本をとっとと片付けなさいよっ!」


 玉座に座っていた女がヒステリックに叫ぶと傍らに控えていた眼鏡をかけた委員長タイプの男子がすぐさま反応する。


「そうはさせん! 【ファイアーボール!】」


 愛とネモを狙い放たれた火球。


 初歩の魔法だが術者の技能が高いのだろう。放たれた火球は両手を広げても抱えきれないくらいの大きさ、通常は野球のボールくらいなのだから。


「あははは! みんな燃えて無くなっちゃえぇ!」


 玉座の女は俺たちに放たれた火球を見て、けたけた笑っている。クラスメートに対して、あんな危ない魔法を放つよう命令して、笑うような奴だ。相当性根がひん曲がった女なんだろう。


 その一方、俺は火球に対して背を向け、愛とネモを両腕で抱えていた。


「ブラッド……」

「魔王さまっ」


 妙にしおらしい声になる愛、それとは対照的にネモは俺の身を案じてくれているようだった。


 この火球の大きさから考えられる威力はフリージアたちにも害が及んでしまうに違いない! なので俺はポンとヒップアタックの要領で火球をほんの軽く押し返して、延焼がフリージアたちに及ばないように努めてみた……。


 までは良かったのだが、意識的に力を弱めようとしたためにお腹に力が入ってしまった。



 プスッ♪



 俺のおしりの穴から噴き出した可燃性ガスは火球を押し返しただけでなく玉座の方向へ突風を起こしながら、



 バァァァァァァァァァァァァァーーーーン!!!



 大爆発を起こしてしまっていた。


 ま?


 玉座の女はアレスがマントの裾を掴みながら前に立ち、爆炎を防いでいたことで無事な模様。恐らくなにか神性の者の加護を受けたアイテムなのかもしれない。


「ぐわあああああーーーーーーーーーーっ!!!」


 一方、俺に魔法を放った男は防御が間に合わなかったのだろう、全身が焼けただれ見るも無残な姿を晒してしまっている。


 フリージアとリリーは!?


 二人を見るとフリージア姉妹にはほとんど類焼してなかったが、フリージアのスカートの裾に潜んでいたミーニャが出てきて、防御魔法を張っているようだった。


 ミーニャを見ると『やるならやると言ってくれ』みたいな顔つきをしている。


 そんな顔をするなよ、俺も大爆発を起こすなんて思ってなかったんだから。それに勝敗の決まり手が透かしっ屁とか一生の恥になりそう……。


―――――――――あとがき――――――――――

そろそろ愛たそとおにぃのラブラブシーンを書こうと思うんですが、やっぱり怖いなぁと思う作者です。迷わず行けよ、行けば分かるさ、という読者さまは是非フォロー、ご評価お願いいたします。後押しないと怖いので、ない場合は全カットでも構いませんか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る