第85話 トロイの馬車

――――リーベンラシア・ブリューナク国境付近。


 愛が大木の大胆な行動にぼそりとつぶやいた。


「おーきんがこんなことするなんて……」

「ごめんなさい、愛さま……ボクだってこんなことしたくないんです。でも……こうでもしないと横田が信用してくれないと思うから……」


 御者席で馬車馬の手綱を握る大木は馬の足音と車輪と地面の出す騒音のなかでもきっちり愛の言葉を拾っている。大木の表情を覗き見る限り、唇を噛んで耐えがたい苦渋の決断をしたみたいになってた。


 大木はロープで身体を縛って拘束した愛、フリージア、リリーの三人を乗せ、馬車を走らせていた。行き先はもちろんブリューナク王国。


「お姉さま……」

「大丈夫よ、リリー。ブラッドさまのことだからきっと私たちには考えの及ばない策に違いありません」


 リリーは眉尻を下げ、珍しく不安げな表情をフリージアに見せた。フリージアは捕らわれの身でありながらもまったく動ずることはない。


 これは継母とリリーの理不尽ないじめにも耐え抜いた心の強さが成せることなのだろう。か弱いにも拘らず、困難に負けることのない芯の通ったフリージアにスパダリたちが絆されてゆくのも納得ができる。


 俺もフリージアの心の強さは好きだ!


 ドスケベなところを除いて……。


 俺はそれだけこっそり確認したあと定位置へと戻る。定位置へと戻ると馬が巻き上げた小石がパラパラと俺の身体に当たる。小石自体はどうってことはないが服のなかに入ってくる砂埃ばかりはどうしようもない。


「フリージアさまとリリーさま、それに愛殿を返せ!」

「おまえのことはー、見損なったぞー!」

「この卑怯者ぉぉボフゥ」


 大木の駆る馬車を追い、オモネールたち三人が騎兵を引き連れ叫んでいた。騎兵たちが弓に矢をつがえ、馬車に向けて一斉射する。


 しかし、無数に放たれた矢は馬車の車輪や荷台を掠めるが当たることはない。


 オモネールたちが率いる騎兵たちの練度には目を見張るばかりだ。


「馬鹿者ぉぉーーー。フリージアさまたちに当たったらどうするー」


 オモネールが片手で騎兵たちが矢を放たないよう制止していた。だがあまりの棒ゼリフだったのでソンタックにコビウル、騎兵たちはおろかフリージアたちまで半笑いになるのをこらえている。


 割となんでもこなせるオモネールだと思っていたが演技は下手くそらしい。


 あとでオモネールはちゃんと指導しておくとして、大木の駆る馬車はオモネールたちに追われながらリーベンラシアとブリューナクの国境を示す標石の前まで来る。


 越境して間もなくして、ブリューナク王国の国境警備の任に当たっている兵士たちと遭遇した。


「たっ、助けて! 追われてるんだ!」


 大木は御者席から立ち上がり両手を振り、仲間であることをブリューナク王国の兵士たちにアピールしていた。兵士たちは大木の申し出に顔を見合わせ対応を決めあぐねている。


「リーベンラシアの有力者を人質にしてるんだ!」

「それを早く言え!」


 兵士たちは大木の馬車を囲むようにして保護し始めた。


「くっ……逃がしたか」

「無念ー!」

「フリージアさま! リリーさま! ボフゥ……」


 オモネールたちは交戦を避け、撤退してゆく。


 思わずいい退き際だと喉から出そうになるが声を押さえた。十分に潜入するためのお膳立てをしたので大木を疑う者はいないだろう。



 ブリューナク王国の王宮に通じる城門で臨検を受ける。


「大木です。通してください」

「よし、通れ!」


 愛を敵視する横田というクラスメートが渡した通行証を見せると、城門の門番たちは大木の容姿が顔認証だとエラーがでるくらい以前と見る影もなく変化しているのに、すんなり通してしまった。


 こう易々と愛みたいなヤバい戦闘力を持った人間をなかに引き込んでしまうとは……。


 ブリューナク王国はガバガバだな。


 異世界でも指紋認証みたいな魔法技術は欲しい。


「止まれ!」


 王宮の手前で馬車は止められ、愛たちが荷台から下ろされる。


「ちょっと! どこ触ってますの!」


 イケメンの執事がリリーの腰元に触れ、降車を促したが、スケベそうな兵士でもないのにリリーがキレていた。


 なにをそんなにキレることがあるのかと不思議がっていると……、


「あなた方のお手を借りずとも降りられます。私の手や身体に触れて良いのはブラッドさまのみなのですから」


 エスコートしようとしていた執事にフリージアが答えていた。俺の手つきってフリージア姉妹が触れて欲しくなるほどドスケベなんだ……。


 手を差し伸べる程度でも迂闊に女性に触れられなくなるのは悲しいと思ってしまう。


 愛は兵士や執事たちに見えないように腰の後ろでピースサインをして宮殿のなかへと運ばれていった。


 俺はというとブリューナク王国は馬車の底にずっと隠れていたが、乗り手がいなくなり放置された馬車は高級ホテルのベルボーイみたいな執事が来て移動させられていた。


 そう、大木からの情報では王宮の馬車置き場は地下牢に最も近い場所だったのだ。


―――――――――あとがき――――――――――

今月、カドプラ(KADOKAWA PLASTIC MODEL SERIES)からめぐみんが出るようですが、作者あることに気づきました。

なんとこのカドプラシリーズ、大きな声では言えませんが……、



ヒンヌーキャラばかりなんですよーーーーっ!!!



ピンポーン♪ 

おっと誰か来たようだ。

(´ཀ`」∠) :_チーン……

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