第84話 ゲームなら妹と子作りしてもいいよね?
「おにぃ、カードはそっちに並べて。おーきん、キャラはそこでいいよ」
「あ、ああ……」
「了解です、愛さま!」
いつもは気だるげな愛がてきぱきとボードゲームの用意を済ます。大木は愛に心酔しているのか、畏まった顔で敬礼していた。
ボードゲームの舞台は異世界であり、多人数乗りのオープンカーではなく、馬車という違いはあるものの、おかしなところは感じられなかった。
ボードにはマス目があり、その中央にルーレットがあるところは同じ。
愛がなにか取り組んでいても自然体というか、いつもマイペースに感じる。そんな愛を見て真剣さが足りないという指摘が来ることがあるようだが、指摘してきた者たちは愛よりパフォーマンスが劣り、愛の才能に嫉妬していることがほとんどだ。
もしかしたら愛にとって真剣というのは変に気負わないことを差すのかもしれない。今は真剣というよりうきうきしたような気分なんだと思う。
俺じゃなきゃ見逃しちゃう奴だ。愛の兄だからこそ、表面的に感情の起伏があまりなさそうに見える彼女の内面を知ることができる。もちろん、なんとなーくではあるんだけど……。
でも不思議だ。
愛はブラッドである俺ではなく、フリージアを俺だと思っている。なのにフリージア抜きのボードゲームにうきうきしてるなんて……。
俺が不可解さを覚え、思考モードに陥っていると、
「ブラッド、ブラッド」
「ブラッドさま、ブラッドさまの番ですよ」
二人から何度も促されていた。すでに二人は馬車にそれぞれ赤と青の棒人間を差して、ルーレットの出目に合わせたマス目に
「ククク……待たせたな! 俺のターン!!! 世界よ、回れ! 俺のためにっ」
「……」
「ブラッド、一マス進んでいいよー」
あれだけ意気込んで出た目の少なさに虚無感が湧いてくる。愛が淡々と声をかけてくれたことがせめてもの救いか。
【人生急いても仕方ない。ひと休みひと休み】
馬車を進めるとマス目にイラッとくる記載があった……。
二巡目の大木はすでに十マス目に到達している。
【ディスティニーカードをドロー】
「やった、街を荒らすゴブリンの討伐に成功したよ!」
千ゴールドと百の名声を得た大木……。
愛は更にその上をゆく。名声値が一万を越えてしまい、女男爵となってしまう。
「う~陞爵なんていらないのに」
その一方、俺はいまだに始まりの街付近にいて、デットヒートを繰り広げる愛と大木に比べ、蚊帳の外にいた。もう喉からこの先はお若いお二人で……とお見合いの仲人みたいな言葉がでそうになっていたときだった。
【ディスティニーカード】のマス目に止まった愛はゆっくりとカードの山から一枚を手に取る。
「ドロー! 一番目のプレーヤーと三番目のプレーヤーは結婚し、行動を共にすること」
は?
そんな人生ゲームあり?
「見せてみろ」
俺は訝しんだ。
愛は素直に俺にカードを渡す。すると愛が読んだ通りの文言が書いてあった。
「じゃあ、ブラッドは愛の横に並ぼー」
愛は、四巡はしているというのに未だ十マスも進んでいなかった牛並に遅い俺の馬車から青い棒人間を引っこ抜き、愛の赤い棒人間が乗る馬車へ移植してしまう。
「岡田愛です。不束者だけど、よろしくね!」
ぺこりと頭を下げた愛。ゲームとはいえ、愛みたいな美少女から結婚のご挨拶をもらうとドギマギしてしまう。
いや愛は妹なんだ!
「ブ、ブラッド・リーベンラシアだ。遊戯とはいえ俺の妻となったからには覚悟しろ」
ブラッドだけに前世の妹に尊大な態度をとってしまう。俺はかわいくて優秀な愛に対して尊大な態度なんて取れないし、取りたくもないのに……。
だが愛はどこ吹く風でスクールバッグのなかに手を突っ込んでいて、手を引き抜く刹那に〇.〇という表記と共に赤い箱が見えたので慌てて声を掛けた。
「なにか分からんが覚悟は決めているようだな。あまり忠臣を待たさない方がいい」
「ブラッドさま、ボクはいつまでも待ちますが……」
「貴様は黙っていろ。これは俺と愛の問題なのだ」
「ごめんなさい……」
「いや俺もいい過ぎた」
俺と大木がお互いの悪かった点の反省会をしているが、愛は相変わらずマイペースである。
「そう? ブラッドが言うなら止めとくね」
「してルーレットはどちらが回せばいいのだ?」
「代わりばんこで回せばいいと思うよー」
と言った愛だったが、いきなり、
【人生急いでも仕方ない。ひと休みひと休み】
休みのマスに行ってしまう。
「あー、休憩になっちゃった。ブラッド休もっか」
「なんだその様は……まあ仕方ない」
「でもね、結婚済みなら特殊効果が発動するよ」
え?
俺は愛が引いたカードを読み返し驚愕の事実に気づいたときには、彼女は俺たちの馬車に棒人間を一つ追加していた。
「貴様、まさかひと休みというのは……」
「うん、えっちして子どもができちゃった! 名前はなににしようかなー」
愛は俺が転生したなんて露ほどもにも思ってないんだろう。いやいや愛は呑気に子どもの名前を考えているが、俺の全身からだらだらと汗が滲んでくる。
前世の妹、愛と子作り……。
いやこれはあくまでゲーム。言うなればネトゲの嫁みたいなものだ。
だが……。
【人生急いでも仕方ない。ひと休みひと休み】
【人生急いでも仕方ない。ひと休みひと休み】
【人生急いでも仕方ない。ひと休みひと休み】
【人生急いでも仕方ない。ひと休みひと休み】
そのあとは何度ルーレットを回しても休憩表示のマス目しか出ない。俺と愛の乗る馬車の後部座席は馬車に乗り切れないくらい俺と愛の子どもでいっぱいになってしまった。
「なんでだろう? おっかしいな。ブラッドと愛ばかり赤ちゃんが出来ちゃうね、ふっしぎー!」
俺と愛の子ども……あくまでボードゲーム内のだけど、その子たちが二十人を越えようとしたときだった。ぼっちとなってしまった大木は深く俯いてしまう。
「どしたの、おーきん?」
「愛さまにお伝えしなければならないことが……」
ついに来たか、大木が覚悟を決めるときが!
「俺がいて、言いにくいのならば席を立つが……」
「いえ、構いません。いてください……」
本当はどうなるか見守っておきたいところだが、それではデリカシーというものが無さ過ぎる。部屋を出ようとしたら、呼び止められていた。
「愛さま……今までちゃんと言えなかったんだけど、根本さんが横田に捕まって、牢屋に閉じ込められてるんだ……ボクは横田……いや堤くんが怖くて逆らえなかった。でもブラッドさまのお力を借りれば根本さんを救えると思う」
あれ?
俺は期待していたイベントが起こらないことに拍子抜けした。
青春特有の告白とかじゃなかったの?
ま、まあ、ずっと言えなかったことを告白したことには間違いないのだけど……。
「ありがと、おーきん。なんとなくみんながおかしいなって思ってた。あの子なんでしょ? 原因は」
「はい、愛さまの見立て通りです……」
愛の口調が僅かに変化していた。一節話すごとに少し間を置く。こんなとき愛は激怒していることを俺は知っていた。
―――――――――あとがき――――――――――
いや分かれよ、智www
改稿を終えられたんでこえけんに参戦しようかと思ってます。またよかったら見て頂けると作者、うれしいです。
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