第83話 国家反逆罪に問われた愚弟
――――【ブラッド目線】
「私はブラッドさまの子種が欲しくて彼を犯し、童貞を奪った罪深い聖女です」
「私もお姉さまに負けたくない一心で……ブラッド殿下にむ、む、む、無理をお願いして……その抱いてもらったのよ! えっと……もちろん負けたくないっていうのはブラッド殿下をどっちが愛しているかっていうことなんだからっ! もうなに言わせるのよっ!」
援護射撃のつもりがついうっかり誤射で味方に撃たれたような気分になる。
「どうですか? ブラッドさまは心身から溢れる魅力でエルナー家の美しき姉妹令嬢と親しくお付き合いされているのです。決して無理やりなどではございません」
「そうボフゥ。フリージア嬢か、リリー嬢……どちらかがブラッドさまの子を産まれれば、このリーベンラシアに更なる繁栄をもたらすことは間違いなし!」
コビウルの発言に、ぽっと頬を赤く染めるフリージアとリリー。
い、いいのか、俺に孕まされて……。
「しかしまだ王位の第一継承権はジークフリート殿下に渡ってしまっている。ここはビスマルク陛下にご裁可を願わねば……」
はあ……ジークフリートを担ぎ上げ、無理やりに近い形でブラッドの王位継承権を奪うだけでなく、国王であるビスマルクを追放しておいて、どの口がそんな偉そうなことを言えるんだろうか?
まあ俺は王位なんていらないんだが……。
ただ筋トレしながらスローライフが送れればそれで良い。ただそのためにはビスマルクに戻ってきてもらわないと……。
ちょうど俺がビスマルクの帰りを待ち望んでいるときだった。
「それには及ばん!」
張りのある声が原野に響いた。
「「「「ビスマルク陛下ーーーーッ!!!」」」」
貴族たちは行方知れずのビスマルクの登場に驚き、身体が硬直して棒切れみたいになってる。
たぶん混乱の最中刺客を放ったりしてたんだろうな。
そんなことしてもはっきり言って無駄だ。なぜなら俺の臣下の中でも戦闘に秀でた者がいるのだから。ビスマルクの傍らにはソンタックがおり、ビスマルクに肩を貸している。
主の戻った王宮。
コビウルなどの商工ギルドに顔が利く貴族たちにより王都の復興が進み、最低限の内装と調度品が支度された会議場でビスマルクが席から立ち上がり、手を翳しながら檄を飛ばした。
「只今よりジークフリートとの親子の縁を切る。外国勢力を引き込み、国家を転覆させようとしたその罪は極めて重い! 見つけ次第、捕縛せよ。なお生死は問わないものとする」
激おこビスマルクの表情を見ると思い出す。『フォーチュン・エンゲージ』内でも比較的温厚な君主なのだが、ブラッドが起こした事件で今とまったく同じで仁王像の如き憤怒の相だった。
フリージアとスパダリに追い詰められたブラッドはリリーと共謀し、ブリューナクではないが母方の外国勢力をリーベンラシアに引き込む事件を起こしている。
とりあえず俺に怒ってるんじゃなくて良かったなんて思ってしまった。悲しいかな、前世の上司である一之瀬に理不尽極まりないことで叱責される日々だったので、怒られるということには敏感なのだ。
檄を飛ばし終えたビスマルクは会議の場に集まった貴族たちの顔を鷹のような鋭い目つきで見回している。会議の場にはジークフリートに手を貸した貴族も多数参加していたからだ。
ビスマルクに睨まれた貴族たちは震え上がり、身を小さくして息を殺していた。
「ジークフリートに唆され、加担した者は捕縛に功があればその罪を減ずる。行け!」
「「「「御意ーーーーーーーーーッ!!!」」」」
元ジークフリート派だった貴族たちはビスマルクに発破をかけられ、争うかのように会議場のドアに集中してしまい押し合いへし合いの末、外へ出て行った。
国王派とブラッド派……といっても俺にはオモネールたちぐらいしかいないのだが、半数ほどになった会議場で俺はビスマルクに問う。
「親父! いくらなんでも生死を問わないというのはやり過ぎでは?」
「あのような仕打ちを受けても弟を庇うのか……なんという慈悲に満ちておるのだ……だがそれは命取りになる。それはブラッドも分かるだろう」
ビスマルクと重臣たちは俺がジークフリートに慈悲を見せたように勘違いしている。
はっきり言ってジークフリートがどうなろうと奴がやらかしたことを考えれば断頭台に掛けられても仕方ないことだと思う。
だけどスパダリの一人であるジークフリートが死亡してしまうと俺の死亡フラグまで立ってしまうかもしれない。
それを思うと大馬鹿な愚弟を庇わざるを得ないのだ……不本意極まりないけど。
「決めた。ただいまを以てリーベンラシアの国王を退位し、ブラッドに王位を譲る」
「は?」
ビスマルクのいきなりの退位宣言に唖然とした。
だが生前退位なんて重臣たちが猛反対するに決まってる。ビスマルクに呆れながらも悠々と構えていたら……、疎らに上がる拍手がどんどん大きくなっていた。
「陛下! 賢明なご判断です」
「ブラッド殿下にしかこの国難は乗り越えられないと思っておりました」
「民からも絶大な人気を誇るブラッド殿下が即位なされればリーベンラシアも安泰」
いやいや即位なんてしたら、ゆったりまったり筋トレしながら過ごすスローライフができないじゃないか!
少なくともビスマルクが存命中は悠々自適に過ごせると思っていたのに!
「拒否する。親父が手を貸せというなら貸してやらんでもない。だが即位とは話は別だ!」
俺が会議場を出るとオモネールたちも金魚の糞のようについて回る。
「ブ、ブラッドさま、そんなもったいない!」
「オレはー! ブラッドさまに国王になってもらいたいー!」
「なぜボフゥ、ビスマルクさまもああ仰っているのに……」
「痴れ者がーーーーっ!!!」
「「「ひっ!」」」
怒るつもりはなかったがブラッド語に変換され、オモネールたちを叱責すると彼らは身をすくめた。彼らの言っていることは間違ってはいない。王権が欲しい者にとっては……。
「いま国王にでもなってみろ。フリージアか、リリーのどちらかを選ばなくてはならないではないか。それにあの二人だけというのも……な」
「「「流石! ブラッドさま!」」」
まだ遊び足りないなどと最低な理由をつけて、オモネールたちを納得させておいた。
貴賓室の前を通ると大木がドアをノックしようとするのだが、途中で躊躇い手を引っ込めていた。何度も同じことを繰り返していたので声をかける。
「なにをしている、そこの不審者」
「はわわわっ!」
超絶イケメンとまではいかないまでも、筋トレのお陰でなかなかの爽やかさを醸し出すようになっていた大木だが、根本的には隠キャ気質なんだろう。
分かるよ、分かる。
その気持ち。
俺も筋トレに目覚める前はそんな感じだったから。
「愛に伝えたいことがあるんだろ、俺が間に入ってやる」
「そんな、もったいない。ブラッドさまにそこまてましてもらうのは……」
小声でごにょごにょと煮え切らない態度だったので俺は大木が逃げられないように手を取り、ドアをノックしていた。
「愛よ、邪魔するぞ」
「おー、ブラッドにおーきん。いま暇してたからー。退屈しのぎにゲームしよしよ」
愛はスクールバックからボードゲームを取り出していた。
「はい、『異世界結婚人生ゲーム』。始める始める」
ダウナー系特有の抑揚のない口調ではあったが、兄である俺には分かった。これはかなり楽しみにしているようだった。ゲームをしながらの方が大木も話しやすいんじゃないかと思い、俺は同意する。
まったく知らないボードゲームだったけど……。
―――――――――あとがき――――――――――
おにぃ大好きな愛たそだけにただのゲームで終わるわけありませんよねw
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